孤独なメイドは、夜ごと元国王陛下に愛される 〜治験と言う名の淫らなヒメゴト〜

当麻月菜

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閑話④ 終わりを告げる来訪者

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 グリジットがファルナをいつ好きになったかは、正直なところわからない。

 ただ出会ってすぐに、彼女に触れたいと思った。
 やつれた姿が痛々しくて、美味しい料理を食べさせたいと思った。

 建前上、メイドとして雇ったくせにその仕事を奪うという行動を、一度も正そうとは思わなかったし、おかしいとも思えなかった。

 もっと言えば、優秀な治験者だからとて眠れない彼女の為に添い寝などする必要などなかった。

 なのに穏やかな寝息を立ててくれるまで抱きしめ、ベッドから落ちないよう朝まで配慮するなんて、彼女に出会う前の自分が見たら気が触れたのかと思うことだろう。

 まして、こっそりファルナが失ってしまった財産を取り戻すことも、財産を奪った悪党達を捕らえて罰することも、自分にとったら全てが不要のはずだった。

 でもファルナの為にと思えば、それらが何一つ煩わしいと感じることなく迅速に処理することが出来た。それどころか他に彼女の為にできることは無いかと探してしまうほど。

 思い返してみれば、いつも自分はファルナが気になっていた。堪らなく心配で、視界に彼女の姿を入れておきたかった。

 つまりグリジットは、自分が思うよりもっともっとファルナのことが好きで、自由の身になれることに喜びを感じるよりも、この生活が終わることを恐れている。

(......しかし、ファルナにはファルナの幸せがある。こんな訳あり者の私に縛られるのは、まっぴらごめんだろう)

 グリジットはルブランに”初夜をやり直す為の媚薬”を渡した後、王都を去ると決めている。

 行き先は決めていないが、当分は遍歴医として各地を転々とするつもりだ。そして年老いたら王都の噂すら届かないどこか辺境の村で終の棲家を見付けられたら良いと思っている。

 そんな流浪の民のような人生にファルナを付き合わせることはできない。

 ファルナの父親は元准貴族だ。

 すべての財産を取り戻すことはできなかったとはいえ、ファルナが生きていく分には困らない程度には取り戻すことができた。

 無論、天涯孤独になってしまった彼女の身の上は変わらないから、自分が王都を去った後、しばらくは護衛を付けるつもりでいる。

 腐っても元国王陛下である自分には、それくらいの力はまだ残っている。何なら邪な感情を抱く者を退けるまじないを彼女にかけたって良い。

 そうすればファルナの安全は保証される。そうしていつか、心根の優しい伴侶を見つけ幸せに......

「なってもらいたくはないな」

 ぐっと奥歯を噛み締めてみたが、結局本音を溢してしまったグリジットは深いため息を吐いた。

 そうすべきことは冷静に考えられるのに、いざそうなることを想像するとえもいわれぬ不快感に教われる。要は、嫌なのだ。理屈ではなく感情的に、ファルナが自分以外の男に触れられるのが。

「......ったく、私は最低だな」

 ファルナから拒絶された身の上で何を言っているんだと、グリジットは乱暴に前髪をかきあげながら吐き捨てる。

 これだから恋というのは困る。

 冷静でいようとすればするほど、愚かなことばかり考えてしまう。不治の病とは良く言ったものだ。

 そんなふうに別のところで無駄な感心をしたと同時に、窓の外からコンコンとノックをする音が聞こえてきた。

 事前に人が来ることを知っているグリジットは驚くことなく立ち上がり、窓へと移動する。

「久しぶりだな」

 音を立てぬよう気を付けながら窓を開ければ、期待に満ちた眼差しを向ける弟のルブランがいた。
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