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閑話④ 終わりを告げる来訪者
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ルブランは頭と肩に乗った雪を払って、窓枠に手をかける。そして、しなやかな動きで診察室の中に入った。
「お久しぶりです、兄上」
「……ああ」
おやつを貰える直前の犬のような顔をするルブランとは対照的に、グリジットの表情は沈んでいる。
「兄上、何かありましたか?」
「いや、別に」
「……もしかしてお願いしていたアレに不具合でも?先日届いた便りでは、今日、受け取れると」
「一先ず座れ」
答えを先延ばしにしたグリジットは、執務机の向かいにある椅子を顎で示す。
そして溜息を吐きつつ、弟の為に温かいお茶を淹れる。
ちなみに診療所のメイドことファルナは、本日は自室でできる仕事を与えている。ただそれはまったく意味のない医学書を書き写すというもの。
メイドの仕事でもなければ夜の薬の助手作業でもないのに、ファルナは嬉々として引き受けてくれた。グリジットの良心がしくしくと痛んだけれど致し方ない。
だって数日前のような失態を繰り返すのはごめんだから。
そんなふうに意識をよそに向けるグリジットに対し、ルブランはソワソワと落ち着かない。兄の態度に思い当たることがあるからで。
「ミザベラからの伝言です。”ありがとうございました”だって」
「……ああ」
コトリ、と湯気の立ったティーカップをテーブルに置きながら、グリジットは気の無い返事をする。それから執務椅子に腰かける。
すぐさま絶え間なく続くルブランの物言いたげな視線と合い、グリジットは観念して口を開く。
「何か言いたげな顔だな」
「ええ。でも、言っても良いですか?」
「構わん。が、私から伝えた方が良いだろう」
ルブランが聞きたいことはわかっている。
だからグリジットは頷くと同時に机の引き出しから、小瓶を二つ取り出した。
「ミザベラ妃殿下が半月前にここに来た理由を知りたいんだろ?」
「はい」
神妙に頷くルブランに、グリジットは小瓶の一つを掲げて見せた。
「妃殿下はこの薬を使おうと……まぁ正確に言うならこれが毒ではないかを私に尋ねたかったようだ」
「ちなみに、これは何ですか?」
小瓶には薄紫色の液体が入っており、一見すると香水のようにも見える。
だが香水ごときを使うのに、わざわざ共も付けずに城を抜け出してこんな森の中になどやって来るわけが無い。
それは説明せずともわかることなので、グリジットは端的に答えることにする。
「娼婦が使う媚薬だ」
「なっ……っ!?」
信じられないといった感じで目を見開くルブランに、グリジットは淡々と言葉を続ける。
「妃殿下は妃殿下で、お前との関係を悩んでいらっしゃるようだ。まぁ、世継ぎの産まないといけない重圧もさることながら、お前が側室を迎えることを危惧していた」
「僕は絶対にそんなことしませんっ」
「しっ、声を荒げるな。……お前が妃殿下を大切にしていることはわかっている。じゃなきゃ、私に恥を捨ててあんな薬を依頼したりなんかしないだろう」
「ええ……まぁ」
「妃殿下だって心の底ではお前を信じている。だが実際世継ぎを授かる行為ができないことに自分自身を責めていらっしゃる。だから追い詰められて、こんな怪しげな薬に手を出そうとしたんだ」
グリジットが言い終えた瞬間、ルブランは頭を抱えた。
「なんて……馬鹿なことを」
その言葉はミザベラに向けてのものではなく、大切にしたいと思っている人にそんなことをさせてしまった自分に向けてのものだった。
「お久しぶりです、兄上」
「……ああ」
おやつを貰える直前の犬のような顔をするルブランとは対照的に、グリジットの表情は沈んでいる。
「兄上、何かありましたか?」
「いや、別に」
「……もしかしてお願いしていたアレに不具合でも?先日届いた便りでは、今日、受け取れると」
「一先ず座れ」
答えを先延ばしにしたグリジットは、執務机の向かいにある椅子を顎で示す。
そして溜息を吐きつつ、弟の為に温かいお茶を淹れる。
ちなみに診療所のメイドことファルナは、本日は自室でできる仕事を与えている。ただそれはまったく意味のない医学書を書き写すというもの。
メイドの仕事でもなければ夜の薬の助手作業でもないのに、ファルナは嬉々として引き受けてくれた。グリジットの良心がしくしくと痛んだけれど致し方ない。
だって数日前のような失態を繰り返すのはごめんだから。
そんなふうに意識をよそに向けるグリジットに対し、ルブランはソワソワと落ち着かない。兄の態度に思い当たることがあるからで。
「ミザベラからの伝言です。”ありがとうございました”だって」
「……ああ」
コトリ、と湯気の立ったティーカップをテーブルに置きながら、グリジットは気の無い返事をする。それから執務椅子に腰かける。
すぐさま絶え間なく続くルブランの物言いたげな視線と合い、グリジットは観念して口を開く。
「何か言いたげな顔だな」
「ええ。でも、言っても良いですか?」
「構わん。が、私から伝えた方が良いだろう」
ルブランが聞きたいことはわかっている。
だからグリジットは頷くと同時に机の引き出しから、小瓶を二つ取り出した。
「ミザベラ妃殿下が半月前にここに来た理由を知りたいんだろ?」
「はい」
神妙に頷くルブランに、グリジットは小瓶の一つを掲げて見せた。
「妃殿下はこの薬を使おうと……まぁ正確に言うならこれが毒ではないかを私に尋ねたかったようだ」
「ちなみに、これは何ですか?」
小瓶には薄紫色の液体が入っており、一見すると香水のようにも見える。
だが香水ごときを使うのに、わざわざ共も付けずに城を抜け出してこんな森の中になどやって来るわけが無い。
それは説明せずともわかることなので、グリジットは端的に答えることにする。
「娼婦が使う媚薬だ」
「なっ……っ!?」
信じられないといった感じで目を見開くルブランに、グリジットは淡々と言葉を続ける。
「妃殿下は妃殿下で、お前との関係を悩んでいらっしゃるようだ。まぁ、世継ぎの産まないといけない重圧もさることながら、お前が側室を迎えることを危惧していた」
「僕は絶対にそんなことしませんっ」
「しっ、声を荒げるな。……お前が妃殿下を大切にしていることはわかっている。じゃなきゃ、私に恥を捨ててあんな薬を依頼したりなんかしないだろう」
「ええ……まぁ」
「妃殿下だって心の底ではお前を信じている。だが実際世継ぎを授かる行為ができないことに自分自身を責めていらっしゃる。だから追い詰められて、こんな怪しげな薬に手を出そうとしたんだ」
グリジットが言い終えた瞬間、ルブランは頭を抱えた。
「なんて……馬鹿なことを」
その言葉はミザベラに向けてのものではなく、大切にしたいと思っている人にそんなことをさせてしまった自分に向けてのものだった。
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