孤独なメイドは、夜ごと元国王陛下に愛される 〜治験と言う名の淫らなヒメゴト〜

当麻月菜

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閑話④ 終わりを告げる来訪者

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 お茶を飲み干したルブランはおもむろに立ち上がり、フードを目深に被る。

 その仕草で察したグリジットは、弟に向けにこりと微笑んだ。

「それじゃあ、気を付けて帰りなさい。妃殿下と仲良くな」
「はい。兄上、色々ありがとうございました。あとミザベラが持ってきたコレは、僕が持って帰って良いですか?」
「構わない。ただこれは楽しむものではなく、調教するために使う強い薬だ。くれぐれも好奇心で使ったりしないように」
「もちろんです。......では」

 ”また”という言葉を飲み込んで、ルブランはグリジットに向けてペコリと頭を下げた。

 対してグリジットは一つ頷くと立ち上がり窓を開ける。そして、そこから出ようとする弟に手を貸す。

「達者で暮らせ。お前には一応、身を守るまじないをかけてある。ただ妃殿下には与えてないから、お前がしっかり守るんだぞ」
「はい。気遣い恐れ入ります」

 どこまでも自分を慮ってくれる兄に向け深く腰を折ったルブランの頭に、ぽんと何かが乗った。グリジットの手だった。そのまま犬のようにわしゃわしゃと撫でられる。

 されるがままになっているルブランは、切なさから不要な言葉が溢れてきそうになる。でも、それを堪えるためにぐっと唇を噛む。

「......ルブラン。兄から最後のお節介を言わせてもらうが、お前は人の心の痛みがわかる人間だ。だからきっと良い王になる。焦るな、回りの声に惑わされるな。あと、妻を大事にしろ」

 言いたいことが、伝えたい言葉が沢山あったが、ルブランは「はい」とだけ言って、グリジットに背を向けた。





***





「───......さて、と。じゃあ僕もお節介をさせてもらおうかな?」

 グリジットに背を向けた途端、ルブランの表情は一変した。

 今日、初夜をやり直すための媚薬を受け取りに来たのが最大の目的だったが、実は彼にはもう一つ目的があった。

 それは完璧にお節介で、究極に不必要なものかもしれない。

 でも妻であるミザベラからのお願いならば、誰がなんと言ったってやり遂げる。

 そんな決意と共に、ルブランは診療所の壁沿いを歩く。幸い診療所は狭いので、すぐにお目当ての人物の元にたどり着いた。

 窓越しに見えたその人は、何やら真剣に書き物をしていた。近付いたくらいでは、気付いてもらえない様子だ。

 少し悩んでルブランは窓を叩いてみる。しかし華麗に無視された。

 現国王陛下を無視するのは不敬罪確定であるが、今のルブランは兄を想うお節介な弟でしかないので、苦笑を一つして終わらせる。

 ただ自分を無視した相手とは、どうしても会話をしたい。

 そんなわけでルブランは奥の手を使うことにした。

「うーん……久しぶりだから上手くできるといいけれど……」

 ルブランはガシガシと頭をかきながら、上着の懐から一枚の紙を取り出した。それには既に魔法陣が描かれている。

 グリジットが張った結界の中で、まじないを使うのは自殺行為だ。しかもルブランは、グリジットより呪いの技術は低い。

 だが低いなりにもルブランは、誰より上手く使えるまじないが一つだけある。それは自然界に生息する小動物と寸分違わない幻獣を作り出せるというもの。グリジットとてこれがまじないだと気付くことはできない。

「大地と精霊の加護を賜り汝の名の下に生まれよ───」

 ルブランは小声で詠唱すれば魔法陣は仄かに輝き、ポンッと形を変える。

 ───ブッ、プープー。

 ルブランの手のひらの上で鼻を鳴らしながら見上げるのは、真っ白な子ウサギで。

 そして子ウサギは生まれた時から己の役割を認識しているため、すぐに窓ガラスをすり抜けて室内へと入り込む。




 それから数分後。ルブランは診療所から少し離れた森の中にいた。一人の少女と一緒に。

「初めまして。僕はグリジットの弟。名前はルブ。驚かせちゃってごめん。あと、急に呼び出したりしてごめんね」

 にこっと人の好い笑みを浮かべれば、向かい合う少女はふわふわとした栗色の髪を大きく揺らして首を横に振った。

「いえ、とんでもございません。お兄様にはいつも大変良くしていただいて……あの……ありがとうございます」

 深々と頭を下げた少女にグリジットは顔を上げるよう命じた。

「お礼を言うのは僕の方だよ。君が兄上の身の回りの世話をしてくれたから、僕はとても助かったんだ。実はね───」

 軽い前置きをしてから、ルブランは本題を切り出した。

 少女のダークブラウン色の瞳が見る見るうちに大きく開く。



 一気に話し終えたルブランは、最後に懐からグリジットから貰う受けた小瓶を少女に差し出した。

「これを使うかどうかは君に任せる。捨ててしまっても問題ないから、好きにして」

 少女はやや迷った後、ルブランからそれを受け取った。 
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