孤独なメイドは、夜ごと元国王陛下に愛される 〜治験と言う名の淫らなヒメゴト〜

当麻月菜

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【夜の治験 卒業編】 メイドは一晩限りの過ちを望む

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 ─── 子ウサギが部屋に迷い込んできた数日後。



「先生、今度のお手伝いはいつでしょうか?」

 夕食後のお茶を出しながら、ファルナは軽い口調でグリジットに切り出した。内心、声が震えないようにと祈りながら。

「そうだな……」

 問われた側のグリジットは、即答せず黙りこくる。その表情は険しい。まるで何かに葛藤しているかのように。

 ファルナはグリジットを急かすことはしない。じっと待つ。それはご主人様に向かって急かすような真似をするのは無礼だからというのもあるが、それよりファルナ自身が迷っているから。

 とても狡いが……ファルナはこの選択をグリジットに託したかった。決めて貰えたら後は行動に移すのみ。その結果、最悪な事態になるかもしれないが、もう腹は括った。

 どのみちどんな結果になろうとも、この生活が終わるのは決まっているのだから。

 そんな投げやりな気持ちを隠すために、ファルナはにこっと微笑む。意味はない。気持ちとは真逆の表情を浮かべるほうが良いと漠然と思ったから。

「───なら」
「はい」

 長い沈黙の後、グリジットは口を開く。頷いた拍子に、ごくりと喉が鳴ったが幸い気付かれなかった。

「今日、お願いしても良いかい?」

 穏やかに尋ねるグリジットの目をファルナはじっと見る。彼の夜の森を思わせる深緑色の瞳の奥に特別な感情を探したけれど、どうしても見つけることはできなかった。

 けれど、グリジットは選択してくれた。だからファルナは決心した。

「もちろんです。では、後ほど」

 相手はお医者様だ。自分の気持ち───そして、この計画など簡単に読み取ってしまうだろう。

 それを恐れたファルナはペコっと頭げて自室へと駆け込んだ。




***




 いつも通り湯を浴びて、寝間着に着替えてショールを羽織って。

 でも真っすぐグリジットの私室には向かわない。キッチンに立ち寄りお茶を淹れる。

 慣れ切った作業のはずなのに、今日に限ってファルナの手つきはぎこちない。心情を表すかのようにカチャカチャと不快な音がキッチンに響く。

 これまで自分に優しくしてくれたグリジットに対して、騙すような真似をすることにファルナの良心は痛んでいた。そしてこの後に起こることを想像して軽蔑されることを恐れている。

 でも、今更引き返すつもりはない。やらないほうが、間違いなく後悔するから。





「先生、入ります」

「ああ。どうぞ」

 扉を開けて顔を覗かせれば、グリジットはいつもと寸分変わらない態度で迎えてくれた。ただ、ファルナがトレーを持っていることに目を丸くする。

「お茶を淹れてくれたのか?」
「はい。いつも淹れてもらってますから。今日は私が」
「そうか、ありがとう。では、君が淹れたのは私が頂くから、君はこれを飲みなさい」
「はい」

 互いの淹れたお茶を交換する形になったが、ファルナは素直にグリジットからカップを受け取る。そして、グリジットはファルナから。

 それから二人は、同時に口に含む。けれども、

「……なっ───?!」

 二口ほど飲んだ後、何かを感じたのかグリジットはカップから口を離した。カップを持つ彼の手は震えていた。

「何を……」

 動揺するグリジットを、ファルナは真っ直ぐに見つめる。

「ファルナ、これに何を入れた?怒らないから言いなさい」

 詰問するグリジットにファルナは黙ったままショールの中に隠していた小瓶を取り出す。

 そして苦しそうに歯を食いしばる彼に向けて、それを見せつけ口を開く。

「───媚薬です。……先生、ごめんなさい」

 ファルナの信じられない告白に、グリジットは顔色を失った。

「なぜ……こんな真似を」

 頭ごなしに叱らない彼に、ファルナは泣き出す寸前の子供のようにくしゃりと顔を歪めた。

 でも普段は無邪気にクルクル動くダークブラウンの瞳は熱を帯びている。男を求める女の目だった。

「先生に抱いて欲しかったから……私、お茶に媚薬を混ぜました」


 ─── 一夜限りの過ちで構いません。だからどうか私に消えない後を残してください。


 ファルナは決死の覚悟でグリジットに思いの丈をぶつけた。 
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