異世界転生したので俺TUEEEを期待してたら戦闘向きの能力じゃなかったので頭を捻ろうと思います。

滝永ひろ

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5章 裁判…へー。は?俺がスパイとかなんかの間違いだろ

5話 公判

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「ついたぞ。入れ」

看守が開けた扉の先、ドラマなんかで見るような法廷が目の前に広がった。傍聴席にいる人たちは完全に俺を敵を見る目で見ている。

弁護人席にいるのは...ルークさん?資格持ってねーだろ絶対。

「被告人、被告人席に座って」

「はい」

促されて被告人席に着くと、裁判長は俺の確認をしだした。

「名はリック・ニュートン、生年月日は7月14日。住所は広場の教会。カールトン魔騎学校に通っている。間違いありませんね?」

「はい...」

「では検事、罪状を読み上げて」

「はい」

そう言って立ち上がった検事は、どこか見たことのある顔をしていた。

「被告人リック・ニュートンを、スパイ防止法で起訴いたします」

「被告人、容疑を認めますか?」

「...」

俺は言葉も出ない。

「いいえ。認めません」

検事席にいたのは、どこかでいた顔に似た顔。あの時、カツアゲしていたトムとかいう輩に、そっくりな顔。その顔を見て、俺の中でしおれていたものが起き上がる。

なるほど。じゃあ誰がこんなデマを流したのかも明白だな。

「では検事、冒頭陳述を」

「了解出ございます」

そう言って検事は得意げな顔で陳述を読み始めた。

「被告人、リック・ニュートンは7月のある日、突如としてこの町に現れました。本人は記憶がないなどといっており、異国から来たといっています。しかし、おかしな点があります。なぜ記憶がないといいながら、異国から来たことを覚えているのでしょうか?カールトン市役所で戸籍確認を行ったところ、彼の国籍はこの国に無いようでしたので、記憶がないということが嘘である可能性が高いといえます。そのうえ、彼は記憶がないといいながら、自分の魔法の使い方を鮮明に覚えており、学校内の大会で優勝するほどです。果たして、本当に記憶喪失なのでしょうか?彼の信頼を疑う証拠はまだあります。彼は名家の生まれである友人がやたらと多いのです。クレバー家のご子息、クリス・U・クレバー、テイム魔法の権威、ミヤムラ家のご子息、ハル・ミヤムラ、自警団の最終戦力、特戦部隊長のアリア・ド・グレアムさんの従兄弟に当たるアダム・トンプソン。彼の交友関係にはあまりに国から信頼を置かれる名家著名人と繋がりが大きいのです。彼が住所を置いている教会も、街の情報が集まる場所です。彼は修道女の優しさに付け込む悪魔なのです。それは容疑をかけられてすぐ逃げ出したことからも明白だ!」

検事は自身たっぷりに読み上げた。なんだこりゃって感じだが、言っていることに穴がありすぎだ。調べてないのがまるわかりすぎる。

「では被告人、冒頭陳述を」

「はい」

そう言って今度はルークさんが立ち上がった。

「僕から冒頭陳述はありません。僕は彼の陳述を覆すだけです。まずは記憶云々の話。一般的に記憶喪失ですべての記憶が失われるのは非常にまれです。たいていは自分の生まれを何となく覚えています。それに魔法の使い方を熟知しているという点ですが、これに関しては言うまでもないでしょう。彼は自らの頭で考え、どうしたら自分の魔法を最大に生かすことができるのか、考えることに長けていただけです。そして友人に名家の人間が多いという点」

ルークさんは少し黙った。

「だから何ですか?」

...言いやがった。

「あなたのやっていることは金持ちと結婚した人に『金目当て』と誹謗中傷するのと同じです。何が何でもリック被告を悪人に仕立て上げたいようですが、悪人はどちらでしょうね?」

検事の顔が歪んできた。

「あなたの言うことはすべて噂話の域を出ません。所詮学校内の学級新聞ですね。何より...」

そして検事のほうを向いてさらに言う。

「ハル・ミヤムラは女の子です」

傍聴席、裁判官がざわつく。

「ちゃんと調べましたか?彼女は一人称も『僕』ですし、風貌もかなりボーイッシュです。しかし調べればわかることではありませんか?人一人の性別も間違えるようでは、言っていることは信頼できませんね」

ルークさんはさらに畳みかける。

「公判前に弁護側へ証拠調べの請求がありませんでしたね?本来なら事前に請求して弁護側から同意がなければこの場での証拠調べは行われません。まさか自分に都合のいいでっち上げな証拠で他人に罪を着せようとはしていませんよね?それとも、急ごしらえのインスタント嫌疑では証拠が用意できませんか?」

うわあ。煽りここに極まれりだな。正式な場で論理で殴る...というかほんとに弁護資格持ってるんだな。なんか裁判慣れしてる。よく見たらバッジもついてる。

てか検事大丈夫なのか?

「では、弁護側からの証人尋問です。証人、入ってください」

「はい」

法廷の扉が開いた。

「リックさん、覚えていますか?」

「では証人、名を名乗って」

証人席に着いたのは、

「カールトン高校高等部1年、ノーマン・ジョーンです」

「では、弁護側、証人尋問を」

「はい。ノーマン君、君が知っていることを教えてほしいかな。君は、あの検事について何を知っているんだい?」

「はっ、はい。僕は、リック君がスパイだっていう学区内新聞が出る前の日、トム・シモン先輩に、金を渡すように迫られました」

「異議あり!トム・シモンは私の息子だ。息子が遊ぶのに困らない程度の金は言われれば渡している。トムがそんなことをするわけがない!」

「でも、僕は絡まれたんです。そして持っている分全部出すよう脅されました」

「君は断ったかい?」

「いいえ、そこでリック君が助けに来てくれました。そしてトム先輩がリック君につかみかかりました。そしたら、真っ先にトム先輩が殴り掛かったんです。その時は、リック君が返り討ちにして事なきを得ました」

「裁判長、ここで被告人に尋問してよろしいですか?」

「許可します」

「リック君、トム君は君にも脅しをしたかい?」

「はい。『俺の親父は有名な検事だ。金の力でどうとでもできる』と」

「証人、被告人の言っていることは本当?」

「...本当かはわかりませんが、僕も似たようなことは言われました」

「これで以上です」

「では弁護人、被告人質問を」

「はい」

ルークさんは余裕の表情だ。

「リック君、君はやっていないんだね?」

「はい」

「では、なんで君は逃げたのかな?」

「言いがかりで裁判にかけられるのが嫌だったからです」

「では、なんであの時すんなり捕まったのかな?」

「突然魔法が使えなくなって...感覚を失ったようでした」

「君は何で僕の事務所に来たんだい?ほかにも行ける場所はあっただろうに」

「ルークさんなら、魔法の力で真実がわかるから、絶対に信じてくれると思いました」

「では、これで以上です」

「では、検事側から、被告人尋問を」

「...了解しました」

検事の顔からあからさまに怒りが見える。

「被告人」

それは、低く唸るような声だった。
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