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ⅩⅥ 親友
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「おい、迎え来たぞって...ずいぶん仲良さそうだなおい」
シュウに寄りかかって、アクトが居眠りしている。
「あーあー、アクトは俺にもまだ懐いてないのに。おい、起きろ。アクト起きろ。俺と1年ちょっとっしょにいるくせに急に新人に懐くんじゃねえ。起きろアクト」
赤城がぺちぺちアクトに顔をたたく。
「んあ...えっと...シュウ、迎え来た?」
「来たよ。赤城さん車で来たよ」
「ああ、赤城さんの車来たか」
「俺わい。てかそれはいいから車に積め。片方が後部座席で抑えてろ。片方は助手席だ」
「俺眠い...」
「じゃあ僕が抑えとくから助手席で寝てなよ」
「そうする...」
「はっ、寝ぼけてら」
気絶した仮面の男と、眠り切ったアクトを車に積んで発進させた。
「おーいリツ、いるかー?」
赤城が研究所のインターホンを鳴らした。
アクトは車の中で寝ている。
「はいはい、どうした、また検体か?」
リツが扉を開けて出てくる。
「ああ、そうなんだが、この仮面付けたヤツなんだが、どうやらまだ意識が残ってるみたいでな。シュウの親友らしいんだ。尾も人工尾の形はしていないし、助かるんじゃないかって思ってな」
「なんだそういうことね、似たような研究をしていたから調べなくてもわかるわ」
「似たような研究って...?」
シュウが食いつく。
「まず、その子は一回死んでるわ。おそらく脳死か心停止」
「そんなっ、だってこないだ動いて...」
「それからすぐに特殊な人工尾をつけるの。これは意思を持たない尾よ」
「意思を持たない...」
「すると尾に残っているのは生命維持機能。あとはわかるわね?」
「死者の蘇生...」
「そう。ずいぶん古い研究だけどね。全身に生命維持物質を流し込む性質を利用するんだけど、脊髄に尾をつなぐことで尾自体が脊髄に入ってきた感覚情報をキャッチ、脳に幻覚を見せる形で電気信号を発信。脳細胞の反射運動でさも元の人間かのように動くって仕組みね。本人といって遜色ないわ。記憶も意識も肉体も...尾を除けば本人の物。ご飯も食べたっていいけど必要ない。進化の一つかもね」
「そんな...じゃあエンは人体実験に使われたんですか?」
「それは違うわ。この技術は数年前の物。極秘裏に進んだものならもっと機能性に優れている物があるはず。たまたまこの蘇生用の尾を持っていた人物がこの子を生き返らせる目的で使ったとみるのが妥当でしょうね」
「そんな...誰が...」
ママ、シュウの頭にはそれがよぎった。
「死後すぐでないといけないから近くにいた人のはずよ。まあ、犯人捜しをする必要はないのだけど」
「でもシュウはなんかほかの人工尾使用者みたいに動いていました。何かおかしくないですか?」
「それもそうね...尾を見る限り私が言ってたものと同じもののはずだから何か別で原因があるはず。それを除去すればいいはずね。やっておくわ。人工尾の解析に比べれば簡単なもんよ。おねーさんにまかせなさい」
「お願いします」
「俺からも頼みます。誰だか知りませんけど」
それはアクトの声だった。
「寝てたんじゃ...」
「ずっと寝てるわけねーだろ。赤城さんの車のシート硬いんで目が覚めちまったよ」
「そっか。ありがと。親友だからね」
「おう」
「ちっ、アクトはやっぱり同年代には懐くのか」
「アンタみたいなおっさんと仲良くする高校生はいませんよ」
「そうね、寂しいなら私がしてしてあげてもいいのよ?」
「うるせー。そういうことじゃ無いやい」
その日は、もう特に通報もなく、帰ることになった。ただ、シュウは帰りの車の中、寝ているアクトのことが気になった。
「赤城さん」
「どうしたシュウ?」
「アクト君が、やたら親友を大事にしろっていうんです。なんでなんでしょうね」
「あ~、それな。...知りたい?」
「知りたいです」
「俺が言ったって言うなよ」
「はい」
「こいつ、昔フィフスに友達殺されてんだ」
「...そんな…」
「結構無残にやられたらしいぜ。骨が見えて、肉は剥がれ...この辺でやめとこう。ダチが食い終わって、自分が食われようとしたところに来たのがその時入りたての警視総監、当時はギャング対策本部長。俺の上司だったな。とにかく強かった。俺らはあの人がいる間、足代わりと事務作業しかしたことなかったよ」
「そんなに強かったんですね」
「あの時も、特別強かったわけじゃねえ。警視総監は指一本でみじんにしてたよ。ただ、あんなに怒ってたは後にも先にもあの時だけだったな」
「そう...ですか」
「そういうわけだ。お前も友達は大事にしろよ。アクトとも仲良くなったんだろ?こいつが無茶やってるときは、俺よりお前がそばにいてやんな」
「...はい」
「それから」
「なんですか?」
「尾が生命維持だって話してたろ?」
「はい」
「尾が生えてる奴は、老いるスピードが極端に遅い。それはつまり友人の死を見届けることになるってことだ。アクトが死ぬとき、お前はまだ30代くらいの年齢のはずだ。覚悟しておけよ」
「...はい」
赤城の見た目こそ30代から40代程度に見える。赤城はどれだけの死を乗り越えてきたのだろう。シュウは赤城の横顔が目に焼き付いて離れなかった。その顔は、その目は、古き友人を映しているようだった。
シュウに寄りかかって、アクトが居眠りしている。
「あーあー、アクトは俺にもまだ懐いてないのに。おい、起きろ。アクト起きろ。俺と1年ちょっとっしょにいるくせに急に新人に懐くんじゃねえ。起きろアクト」
赤城がぺちぺちアクトに顔をたたく。
「んあ...えっと...シュウ、迎え来た?」
「来たよ。赤城さん車で来たよ」
「ああ、赤城さんの車来たか」
「俺わい。てかそれはいいから車に積め。片方が後部座席で抑えてろ。片方は助手席だ」
「俺眠い...」
「じゃあ僕が抑えとくから助手席で寝てなよ」
「そうする...」
「はっ、寝ぼけてら」
気絶した仮面の男と、眠り切ったアクトを車に積んで発進させた。
「おーいリツ、いるかー?」
赤城が研究所のインターホンを鳴らした。
アクトは車の中で寝ている。
「はいはい、どうした、また検体か?」
リツが扉を開けて出てくる。
「ああ、そうなんだが、この仮面付けたヤツなんだが、どうやらまだ意識が残ってるみたいでな。シュウの親友らしいんだ。尾も人工尾の形はしていないし、助かるんじゃないかって思ってな」
「なんだそういうことね、似たような研究をしていたから調べなくてもわかるわ」
「似たような研究って...?」
シュウが食いつく。
「まず、その子は一回死んでるわ。おそらく脳死か心停止」
「そんなっ、だってこないだ動いて...」
「それからすぐに特殊な人工尾をつけるの。これは意思を持たない尾よ」
「意思を持たない...」
「すると尾に残っているのは生命維持機能。あとはわかるわね?」
「死者の蘇生...」
「そう。ずいぶん古い研究だけどね。全身に生命維持物質を流し込む性質を利用するんだけど、脊髄に尾をつなぐことで尾自体が脊髄に入ってきた感覚情報をキャッチ、脳に幻覚を見せる形で電気信号を発信。脳細胞の反射運動でさも元の人間かのように動くって仕組みね。本人といって遜色ないわ。記憶も意識も肉体も...尾を除けば本人の物。ご飯も食べたっていいけど必要ない。進化の一つかもね」
「そんな...じゃあエンは人体実験に使われたんですか?」
「それは違うわ。この技術は数年前の物。極秘裏に進んだものならもっと機能性に優れている物があるはず。たまたまこの蘇生用の尾を持っていた人物がこの子を生き返らせる目的で使ったとみるのが妥当でしょうね」
「そんな...誰が...」
ママ、シュウの頭にはそれがよぎった。
「死後すぐでないといけないから近くにいた人のはずよ。まあ、犯人捜しをする必要はないのだけど」
「でもシュウはなんかほかの人工尾使用者みたいに動いていました。何かおかしくないですか?」
「それもそうね...尾を見る限り私が言ってたものと同じもののはずだから何か別で原因があるはず。それを除去すればいいはずね。やっておくわ。人工尾の解析に比べれば簡単なもんよ。おねーさんにまかせなさい」
「お願いします」
「俺からも頼みます。誰だか知りませんけど」
それはアクトの声だった。
「寝てたんじゃ...」
「ずっと寝てるわけねーだろ。赤城さんの車のシート硬いんで目が覚めちまったよ」
「そっか。ありがと。親友だからね」
「おう」
「ちっ、アクトはやっぱり同年代には懐くのか」
「アンタみたいなおっさんと仲良くする高校生はいませんよ」
「そうね、寂しいなら私がしてしてあげてもいいのよ?」
「うるせー。そういうことじゃ無いやい」
その日は、もう特に通報もなく、帰ることになった。ただ、シュウは帰りの車の中、寝ているアクトのことが気になった。
「赤城さん」
「どうしたシュウ?」
「アクト君が、やたら親友を大事にしろっていうんです。なんでなんでしょうね」
「あ~、それな。...知りたい?」
「知りたいです」
「俺が言ったって言うなよ」
「はい」
「こいつ、昔フィフスに友達殺されてんだ」
「...そんな…」
「結構無残にやられたらしいぜ。骨が見えて、肉は剥がれ...この辺でやめとこう。ダチが食い終わって、自分が食われようとしたところに来たのがその時入りたての警視総監、当時はギャング対策本部長。俺の上司だったな。とにかく強かった。俺らはあの人がいる間、足代わりと事務作業しかしたことなかったよ」
「そんなに強かったんですね」
「あの時も、特別強かったわけじゃねえ。警視総監は指一本でみじんにしてたよ。ただ、あんなに怒ってたは後にも先にもあの時だけだったな」
「そう...ですか」
「そういうわけだ。お前も友達は大事にしろよ。アクトとも仲良くなったんだろ?こいつが無茶やってるときは、俺よりお前がそばにいてやんな」
「...はい」
「それから」
「なんですか?」
「尾が生命維持だって話してたろ?」
「はい」
「尾が生えてる奴は、老いるスピードが極端に遅い。それはつまり友人の死を見届けることになるってことだ。アクトが死ぬとき、お前はまだ30代くらいの年齢のはずだ。覚悟しておけよ」
「...はい」
赤城の見た目こそ30代から40代程度に見える。赤城はどれだけの死を乗り越えてきたのだろう。シュウは赤城の横顔が目に焼き付いて離れなかった。その顔は、その目は、古き友人を映しているようだった。
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