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1話

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「おはよう、リヒト君」

目覚めると、そこは知らない天井だった。いや、確かここは...

「寝ぼけてるのかな?僕の家だよ」

「ああ、おはようございます」

「朝ごはんできてるから。早く支度しな」

「ああ、はい」

服装は制服のままだ。よく寝れたな、俺。

「昨晩はよく寝れたかな?やっぱり自分の世界の枕じゃないと寝れないとか?」

「異世界ジョーク初めて聞きましたよ。というか、よく寝れました。むしろ家より」

「そっか。もしかすると僕がいつも炊いてるアロマの効果かもなあ...」

「アロマですか?」

「うん。いつも翌日への不安で寝れないから、マナ入りの特注アロマだよ。山奥に職人がいるんだ」

「へー、いいっすね。さすが魔法の世界だ」

「うん。ご飯、食べないと冷めちゃうよ。トーストとスープだけど」

「いただきます」

「召し上がれ」

こんがりといい色の焼き目が付いたトースト、白い湯気が微かに上るスープ。この香りはコーンスープか。

「おいしい...」

スープを飲む俺を見て満足そうにファーブさんが俺を見る。

「食べたらそのまま支度していくよ。持っていくものは特にないけど、チームはそろってエントリーしないといけないから待ち合わせには遅れないようにね」

「わふぁりまひた」

俺はトーストをほおばったまま返事をする。ジャムも何もつけなくてもうまい。食パンを素で食うってこんな美味いものなのか。

「スープにパンつけるともっとおいしいよ」

試してみる。

「はぁ...うめえ」

「作り甲斐あるなあ。君ここに住みなよ」

「いいんですか」

「うん。誰かいたほうが楽しいし」

「ではお言葉に甘えて」

「ふふ」

「ごちそうさまでした」

「よし、行こうか」

俺とファーブさんは玄関へ向かった。



「お待たせ、待った?」

俺とファーブさんが時計台広場に着いたとき、すでにデービー姉弟とアンナさんは到着していた。リックは刀を地面に置いているし、ミリアさんは浮いたまま本を読んでいる。

「遅いです。もう始まりますよ」

アンナさんが俺らをとがめる。一方、リックは刀を背負いなおし、「行くよ、姉ちゃん」と姉を呼んだ。

「ごめんごめん。じゃ、行こうか」

俺らは交流会へと向かった。



会場に着くとそこは、視界に収まりきらないような大きさのスタジアムだった。

「エントリーお願いします」

ファーブさんが交流会の受付、お姉さんに声をかける。

「はっ、はい」

心なしか顔が赤い。イケメンかあ。ヘタレが治れば完璧なんだろうけど。

「では、エントリー番号25920番です。開催までお待ちください」

「ありがとうございます」

ファーブさんはにこっと微笑んで礼を言い、アンナさんは頭を下げ、デービー姉弟は素通りした。一応頭は下げとこ。俺たちは待機所に向かった。

「25920って、そんなにチームがあるんですか?」

俺はファーブさんに聞く。

「いや、テキトーな数字だよ。エントリー番号偽造した部外者が入り込むと困るからね」

「ほー...」

「25920、いい数字じゃない」

ミリアさんが口をはさむ。まあ、キリはいいよな。

「さ、そろそろだよ」

ファーブさんが上斜め前の方を指をさしていう。

その指の先を見ると、高い位置のステージのような場所にやたらガタイがいい男が立っていた。

その男が、息を吸い上げた。

「皆の者」

大声を出したという感じではなかったが、その声は背骨の髄まで響くような、尊大さを感じさせる風格がある。

「本日は一年に一度のお楽しみだ。ルールは死者を出さないことそれのみ。存分に楽しんでくれたまえ」

「「「おおおおおおお!!!」」」

歓声が沸いた。

「うっさ...」

ミリアさんがつぶやく。冷静になるとその通りだな。

「はーあ、またこの日が来たね」

「嫌いなんですか?交流会」

「嫌いっていうか...私みたいな女が交流会参加してると強姦目的で襲ってくる奴がいんのよね。ま、私はそんなモテないザコに負けるほど弱くないからいいんだけど」

「大変っすね」

「イケメンは逆に女から狙われるから気をつけなさい。相手にされなかったら悲しいだけだけど」

「気を付けます」

すると、また男の呼吸音が聞こえた。

「始めい!」

その瞬間、瞬間移動させられてフィールドへと飛ばされた。森林の中、周りにはだれもいない。いや、誰も見えない?

マナ...何かがうごめいているのを感じる。
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