魔王様と勇者な姫君 ~倒しに行った魔王に求婚されました~

朔雲みう (さくもみう)

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3. いざ、勝負!!

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「魔王様、人間の相手は我々が! ご命令を!」

「良い、お前達は下がっておれ。姫君の相手は我がする。今後一切、手を出すことは許さぬ」

 ユズリハは精霊魔法によって高い天井に向かって跳躍し、右手に収束させた紅い焔を魔王目掛けて一気に解き放った。炎は龍の形となって咆哮をあげながら魔王へと襲いかかるが、魔王は一向に動く気配がない。笑みを刻んだまま、ユズリハを見つめている。

「な、けないの!?」

 一発目の魔法から逃れた魔王を次なる精霊魔法でたたいてやろうと思ったのに、動く様子が全くない。束ねた髪をまるで黄金の尾のようにして舞うユズリハの姿に、魔王は魅入っている。

「美しい……」

 魔王の呟きは、しかし広間を一瞬のうちに駆け抜けた轟音にかき消され、ユズリハには届かなかった。放った魔法は確実に魔王をとらえ、炎の柱を噴き上げたのだ。

 ユズリハは身を翻し、鮮やかに着地する。玉座を確認しようと素早く顔を上げた刹那、辺りを取り巻いていた煙が、ぶわっと吹き抜けた一陣の風により散らされた。

「う、嘘……」

 魔王は玉座に座っていた。攻撃を仕掛ける前と少しも態勢を変えることなく、涼しげな笑みを浮かべながら。

「どうした、我が力に見惚れておるのか?」

 ん? と魔王は嫣然と微笑んでいる。

 信じ……られない……。

 ユズリハの放った精霊魔法は上級クラス。なのに、全くの無傷だなんて……。

「姫様っ!」

「くっ……」

 ゼフィランサスの声を無視し、ユズリハは腰に提げている剣を引き抜いた。つかに青い宝石をめ込んだ、女性でも扱うことのできる細身の長剣である。その銀色の刀身に指を滑らせ、ユズリハは呪文を唱えた。ぱっと光が弾け、剣は精霊の加護を得る。これで、本来の力以上の力で剣を扱うことができる――。

 地を蹴り、高みにある玉座へと飛翔する。携えた剣が魔法の光を放って、きらきらと星屑のような光を降らせる。
 足を組み悠々と座す魔王の前に着地すると同時に、ユズリハは瞬息の速さで剣を振り下ろすが、

「……っ」

 魔王は片手で難なくそれを受け止めた。

「そなたの瞳は美しいな。天上の月の如く、金色に輝いておる」

「は……離して……っ」

 魔王がもう片方の手で、剣の柄を握るユズリハの手首を掴んでいた。

 そのまま引き寄せられそうになり、ユズリハは渾身の力で剣にかけた魔法を更に強く発動させた。眩い光が刀身より溢れ、ユズリハは魔王の手を逃れた。

 魔王の表情が変わらなかったところを見れば、少しも本気を出していないことが分かるが、ここで退くわけにはいかない。一太刀浴びせようと再び剣を振り下ろす。しかし、剣先は魔王へは届かず、それどころか魔王の身体より風のような力が放たれ、ユズリハの身体は風威に耐えきれずに吹き飛ばされた。

「きゃっ!」

 一瞬の出来事に、魔法で衝撃を和らげる間もなく宙に投げ出された。

 ――地面に叩きつけられるっ!

 呪文が間に合わず、ユズリハは訪れる衝撃を覚悟して目を瞑る。しかし、訪れるだろう痛みは何時いつまでたっても襲ってこなかった。

「……?」

 不思議に思い、ゆるゆると目を開くと。

「そなた、軽いな」

「――!?」

 間近に魔王の整った顔があり、ユズリハは息を詰めた。
 ユズリハは抱きかかえられていた。魔王の屈強な腕に、横抱きにして。

「おっと」

 思わず繰り出してしまった平手を、魔王はひょいとけた。

「随分な御挨拶だな」

 そう言いながらも、魔王はくくくと楽しげに笑っている。ユズリハは、かーっと頬を赤く染め、魔王の腕の中で身をよじって暴れた。

「離してよ!」

「助けてやったのに、礼の一つも言えぬのか?」

「な……誰のせいで……」

「力を加減出来なかったのは我の落ち度だが、そもそも攻撃を仕掛けてきたのは、そなたではなかったか?」

「う……」

 それには返す言葉もなく、ユズリハは俯いた。

 魔王は何もしていない。座っていただけだ。そしてそれが何よりも腹立たしい。

「ところで、そなたの国では礼を言う代わりに平手打ちするのか?」

「そんなわけないでしょう!?」

 勢いよく振り仰ぐと、魔王の深紅の瞳がユズリハをじっと見つめてきた。

 目が、そして意地悪そうにつり上げられた口元が、訴えてくる。

 礼を言えと――

 確かに、あのままでは地面に叩きつけられ、怪我どころではすまなかった。それを助けてくれたのは事実だ。でも。だけど。

 ああ、もうっ!

 ユズリハは観念し、唇を開いた。

「…………ありがとう」

 そっぽを向きながら、漸く言葉を紡ぎだす。何故だろう。どきどきと鼓動が煩いほど鳴っている。

 そして、やっとの思いで礼を言ったユズリハに、魔王は楽しげに告げるのだった。

「何、礼はいらぬ」

 その言葉に、ユズリハは無駄と分かりつつも二度目の平手を繰り出した――
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