4 / 9
3. いざ、勝負!!
しおりを挟む
「魔王様、人間の相手は我々が! ご命令を!」
「良い、お前達は下がっておれ。姫君の相手は我がする。今後一切、手を出すことは許さぬ」
ユズリハは精霊魔法によって高い天井に向かって跳躍し、右手に収束させた紅い焔を魔王目掛けて一気に解き放った。炎は龍の形となって咆哮をあげながら魔王へと襲いかかるが、魔王は一向に動く気配がない。笑みを刻んだまま、ユズリハを見つめている。
「な、避けないの!?」
一発目の魔法から逃れた魔王を次なる精霊魔法でたたいてやろうと思ったのに、動く様子が全くない。束ねた髪をまるで黄金の尾のようにして舞うユズリハの姿に、魔王は魅入っている。
「美しい……」
魔王の呟きは、しかし広間を一瞬のうちに駆け抜けた轟音にかき消され、ユズリハには届かなかった。放った魔法は確実に魔王をとらえ、炎の柱を噴き上げたのだ。
ユズリハは身を翻し、鮮やかに着地する。玉座を確認しようと素早く顔を上げた刹那、辺りを取り巻いていた煙が、ぶわっと吹き抜けた一陣の風により散らされた。
「う、嘘……」
魔王は玉座に座っていた。攻撃を仕掛ける前と少しも態勢を変えることなく、涼しげな笑みを浮かべながら。
「どうした、我が力に見惚れておるのか?」
ん? と魔王は嫣然と微笑んでいる。
信じ……られない……。
ユズリハの放った精霊魔法は上級クラス。なのに、全くの無傷だなんて……。
「姫様っ!」
「くっ……」
ゼフィランサスの声を無視し、ユズリハは腰に提げている剣を引き抜いた。柄に青い宝石を嵌め込んだ、女性でも扱うことのできる細身の長剣である。その銀色の刀身に指を滑らせ、ユズリハは呪文を唱えた。ぱっと光が弾け、剣は精霊の加護を得る。これで、本来の力以上の力で剣を扱うことができる――。
地を蹴り、高みにある玉座へと飛翔する。携えた剣が魔法の光を放って、きらきらと星屑のような光を降らせる。
足を組み悠々と座す魔王の前に着地すると同時に、ユズリハは瞬息の速さで剣を振り下ろすが、
「……っ」
魔王は片手で難なくそれを受け止めた。
「そなたの瞳は美しいな。天上の月の如く、金色に輝いておる」
「は……離して……っ」
魔王がもう片方の手で、剣の柄を握るユズリハの手首を掴んでいた。
そのまま引き寄せられそうになり、ユズリハは渾身の力で剣にかけた魔法を更に強く発動させた。眩い光が刀身より溢れ、ユズリハは魔王の手を逃れた。
魔王の表情が変わらなかったところを見れば、少しも本気を出していないことが分かるが、ここで退くわけにはいかない。一太刀浴びせようと再び剣を振り下ろす。しかし、剣先は魔王へは届かず、それどころか魔王の身体より風のような力が放たれ、ユズリハの身体は風威に耐えきれずに吹き飛ばされた。
「きゃっ!」
一瞬の出来事に、魔法で衝撃を和らげる間もなく宙に投げ出された。
――地面に叩きつけられるっ!
呪文が間に合わず、ユズリハは訪れる衝撃を覚悟して目を瞑る。しかし、訪れるだろう痛みは何時までたっても襲ってこなかった。
「……?」
不思議に思い、ゆるゆると目を開くと。
「そなた、軽いな」
「――!?」
間近に魔王の整った顔があり、ユズリハは息を詰めた。
ユズリハは抱きかかえられていた。魔王の屈強な腕に、横抱きにして。
「おっと」
思わず繰り出してしまった平手を、魔王はひょいと避けた。
「随分な御挨拶だな」
そう言いながらも、魔王はくくくと楽しげに笑っている。ユズリハは、かーっと頬を赤く染め、魔王の腕の中で身をよじって暴れた。
「離してよ!」
「助けてやったのに、礼の一つも言えぬのか?」
「な……誰のせいで……」
「力を加減出来なかったのは我の落ち度だが、そもそも攻撃を仕掛けてきたのは、そなたではなかったか?」
「う……」
それには返す言葉もなく、ユズリハは俯いた。
魔王は何もしていない。座っていただけだ。そしてそれが何よりも腹立たしい。
「ところで、そなたの国では礼を言う代わりに平手打ちするのか?」
「そんなわけないでしょう!?」
勢いよく振り仰ぐと、魔王の深紅の瞳がユズリハをじっと見つめてきた。
目が、そして意地悪そうにつり上げられた口元が、訴えてくる。
礼を言えと――
確かに、あのままでは地面に叩きつけられ、怪我どころではすまなかった。それを助けてくれたのは事実だ。でも。だけど。
ああ、もうっ!
ユズリハは観念し、唇を開いた。
「…………ありがとう」
そっぽを向きながら、漸く言葉を紡ぎだす。何故だろう。どきどきと鼓動が煩いほど鳴っている。
そして、やっとの思いで礼を言ったユズリハに、魔王は楽しげに告げるのだった。
「何、礼はいらぬ」
その言葉に、ユズリハは無駄と分かりつつも二度目の平手を繰り出した――
「良い、お前達は下がっておれ。姫君の相手は我がする。今後一切、手を出すことは許さぬ」
ユズリハは精霊魔法によって高い天井に向かって跳躍し、右手に収束させた紅い焔を魔王目掛けて一気に解き放った。炎は龍の形となって咆哮をあげながら魔王へと襲いかかるが、魔王は一向に動く気配がない。笑みを刻んだまま、ユズリハを見つめている。
「な、避けないの!?」
一発目の魔法から逃れた魔王を次なる精霊魔法でたたいてやろうと思ったのに、動く様子が全くない。束ねた髪をまるで黄金の尾のようにして舞うユズリハの姿に、魔王は魅入っている。
「美しい……」
魔王の呟きは、しかし広間を一瞬のうちに駆け抜けた轟音にかき消され、ユズリハには届かなかった。放った魔法は確実に魔王をとらえ、炎の柱を噴き上げたのだ。
ユズリハは身を翻し、鮮やかに着地する。玉座を確認しようと素早く顔を上げた刹那、辺りを取り巻いていた煙が、ぶわっと吹き抜けた一陣の風により散らされた。
「う、嘘……」
魔王は玉座に座っていた。攻撃を仕掛ける前と少しも態勢を変えることなく、涼しげな笑みを浮かべながら。
「どうした、我が力に見惚れておるのか?」
ん? と魔王は嫣然と微笑んでいる。
信じ……られない……。
ユズリハの放った精霊魔法は上級クラス。なのに、全くの無傷だなんて……。
「姫様っ!」
「くっ……」
ゼフィランサスの声を無視し、ユズリハは腰に提げている剣を引き抜いた。柄に青い宝石を嵌め込んだ、女性でも扱うことのできる細身の長剣である。その銀色の刀身に指を滑らせ、ユズリハは呪文を唱えた。ぱっと光が弾け、剣は精霊の加護を得る。これで、本来の力以上の力で剣を扱うことができる――。
地を蹴り、高みにある玉座へと飛翔する。携えた剣が魔法の光を放って、きらきらと星屑のような光を降らせる。
足を組み悠々と座す魔王の前に着地すると同時に、ユズリハは瞬息の速さで剣を振り下ろすが、
「……っ」
魔王は片手で難なくそれを受け止めた。
「そなたの瞳は美しいな。天上の月の如く、金色に輝いておる」
「は……離して……っ」
魔王がもう片方の手で、剣の柄を握るユズリハの手首を掴んでいた。
そのまま引き寄せられそうになり、ユズリハは渾身の力で剣にかけた魔法を更に強く発動させた。眩い光が刀身より溢れ、ユズリハは魔王の手を逃れた。
魔王の表情が変わらなかったところを見れば、少しも本気を出していないことが分かるが、ここで退くわけにはいかない。一太刀浴びせようと再び剣を振り下ろす。しかし、剣先は魔王へは届かず、それどころか魔王の身体より風のような力が放たれ、ユズリハの身体は風威に耐えきれずに吹き飛ばされた。
「きゃっ!」
一瞬の出来事に、魔法で衝撃を和らげる間もなく宙に投げ出された。
――地面に叩きつけられるっ!
呪文が間に合わず、ユズリハは訪れる衝撃を覚悟して目を瞑る。しかし、訪れるだろう痛みは何時までたっても襲ってこなかった。
「……?」
不思議に思い、ゆるゆると目を開くと。
「そなた、軽いな」
「――!?」
間近に魔王の整った顔があり、ユズリハは息を詰めた。
ユズリハは抱きかかえられていた。魔王の屈強な腕に、横抱きにして。
「おっと」
思わず繰り出してしまった平手を、魔王はひょいと避けた。
「随分な御挨拶だな」
そう言いながらも、魔王はくくくと楽しげに笑っている。ユズリハは、かーっと頬を赤く染め、魔王の腕の中で身をよじって暴れた。
「離してよ!」
「助けてやったのに、礼の一つも言えぬのか?」
「な……誰のせいで……」
「力を加減出来なかったのは我の落ち度だが、そもそも攻撃を仕掛けてきたのは、そなたではなかったか?」
「う……」
それには返す言葉もなく、ユズリハは俯いた。
魔王は何もしていない。座っていただけだ。そしてそれが何よりも腹立たしい。
「ところで、そなたの国では礼を言う代わりに平手打ちするのか?」
「そんなわけないでしょう!?」
勢いよく振り仰ぐと、魔王の深紅の瞳がユズリハをじっと見つめてきた。
目が、そして意地悪そうにつり上げられた口元が、訴えてくる。
礼を言えと――
確かに、あのままでは地面に叩きつけられ、怪我どころではすまなかった。それを助けてくれたのは事実だ。でも。だけど。
ああ、もうっ!
ユズリハは観念し、唇を開いた。
「…………ありがとう」
そっぽを向きながら、漸く言葉を紡ぎだす。何故だろう。どきどきと鼓動が煩いほど鳴っている。
そして、やっとの思いで礼を言ったユズリハに、魔王は楽しげに告げるのだった。
「何、礼はいらぬ」
その言葉に、ユズリハは無駄と分かりつつも二度目の平手を繰り出した――
0
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
言葉の色が見える私には、追放された冷徹魔術師様の溺愛がダダ漏れです~黒い暴言の裏に隠された、金色の真実と甘い本音~
黒崎隼人
恋愛
王立図書館の辺境分館で働く司書のリリアナには、言葉に込められた感情が「色」として見える秘密の力があった。
ある日、彼女の前に現れたのは、かつて「王国の至宝」と呼ばれながらも、たった一度の失言で全てを失い追放された元宮廷魔術師、アレン・クロフォード。
冷徹で皮肉屋、口を開けば棘だらけの言葉ばかりのアレン。しかし、リリアナの目には見えていた。その黒い暴言の奥底で、誰よりも国を思い、そしてリリアナを気遣う、美しく輝く「金色」の本音が。
「邪魔だ」は「そばにいろ」、「帰れ」は「送っていく」。
素直になれない不器用な魔術師と、その本音が全部見えてしまう司書の、じれったくて甘い、真実の愛を取り戻す物語。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~
スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」
王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。
伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。
婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。
それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。
――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。
「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」
リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。
彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。
絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。
彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる