魔王様と勇者な姫君 ~倒しに行った魔王に求婚されました~

朔雲みう (さくもみう)

文字の大きさ
5 / 9

4. 魔王の見える愛 ①

しおりを挟む
「何で破談にする為に来た魔王の城で、魔王に求婚されなきゃならないの!?」

 アストレイア大陸、最北にある魔王の居城。その南東の一室から、ユズリハの苛立たしげな声が上がった。

 ゼフィランサスは宥めるように言う。

「ですが、我々では……」

 そう。あの魔王は全く本気ではなかった。にも拘わらず、手も足も出なかった。

 ゼフィランサスはルナセレネア王国一の騎士だが、彼の力を頼ったとしても、魔王に勝つことは出来ないだろう。

「何てことなの……」

 ユズリハは、部屋の中央に置かれた豪奢な天蓋付きベッドの上に倒れ込んだ。

 天蓋から下げられた白い紗には小粒の宝石があしらわれ、窓から漏れ入る僅かな夕陽すらも、きらきらとした輝きへと変えている。そして、細かく刺繍が施された花模様の寝具。

 その見事な刺繍を指でなぞりながら、ユズリハは呟く。

「魔王の趣味? な、わけないわよね……」

 ベッドの上に置かれたふかふかの枕を手に取ってみる。

 はらりと、花模様のカードが落ちる。枕と同じがらだったので気付かなかった。

 姫の為に、アストレイア一の仕立屋につくらせた。良い夢を――

「……」

 私の為にわざわざ? あの魔王が?

 そのカードを手に、考えを巡らしていると。

「もしかして……嬉しい、とか思ってます?」

 ゼフィランサスが覗き込んできた。

「お、思ってないわよっ! ……って」

 はたと思い当たる。

「……ねぇ、ここに来て大丈夫なの?」

「はぁ。まぁ、そうですね……見られたら、大変でしょうね」

 彼は暢気にそう言う。

 一緒に旅して気付いたのは、彼はのんびり……というか、意外と能天気だということだ。こんな危機的状況下でうろたえもせず。しかも、魔王の城でその城主たる魔王に求婚されている姫の部屋に堂々と入って来られるのだから、大物だ。

「こんなとこ見られたら、きっと逢引きだとか何とかわけ分からないことを……」

「言いそうですね。そうなる前に戻ります。姫様に与えられたお部屋を見に来ただけですから。少々、心配になりまして……」

 心配? 一国の王女が過ごすのに相応しい部屋かどうか、ということだろうか。

「……ちょっと少女趣味だけど、悔しいくらいに不自由のない部屋よ?」

 一通り化粧道具の揃えられたドレッサーに、つたをからめたような透かし彫りの衣装棚。棚の中には、フリルで飾られた色とりどりのドレス、そして引き出しという引き出しには、燃えるように赤い紅玉ルビーの首飾りや、宝石を惜しみなく散りばめた金銀細工のかんざし、指輪、耳飾り。部屋も四間続きになっていて、かなりの広さを備えている。

 全くの賓客扱いで部屋の外に見張りの姿もなく、束縛する気は全然ないらしい。

「ええ、安心しました」

 と、彼が答えたその時。後方の扉が勢いよく開け放たれた。

「どうだ、姫。部屋は気に入ったか? ……ん?」

 ゼフィランサスの姿を見るなり、魔王は見るからに顔を顰めた。

「何故、お前がここにおる? 未婚の娘の部屋に入るとは、無粋であろう」

「あなたもでしょ。ノックくらいしなさいよね!」

「我は良いのだ。そなたの夫だからな」

 今、未婚って言わなかった!? と突っ込む間もなく、魔王は傲然と腕を組み、ゼフィランサスに告げた。

「戻れ、人間。姫のたっての願い故、仕方なくお前にも部屋を用意してやったというのに、我の目を盗んでよもや逢引き――」

 ほら、やっぱり言いだしたわ!

「そ、そういえば、ゼフィーの部屋は何処なの?」

「おお、この人間には北西の部屋を与えてやったぞ」

「北西?」

 というと、この部屋からは反対の方角だ。

「案内してもらえるかしら?」

 嘗められないようにと、顎を反らして不遜に頼む。

 魔王は露骨に嫌そうな顔をした。ユズリハの態度に、ではなく。

「そなた、この男に興味があるのか?」

「はぁ!?」

 興味があるのは、部屋だ。何を勘違いしているのか。

「あなたが彼にもちゃんと部屋を用意してくれたのか、確かめたいのよ」

 すると、魔王の機嫌が良くなった。

「何だ、そういうことか。良いぞ、好都合でもある」

 は? 好都合?

「ついて参れ」

 何をわけ分からないことを、と思っている間にも、魔王は漆黒の長衣を翻し踵を返した。

 そして――

「ちょっと……」

 魔王がゼフィランサスに下賜かししたという部屋。それを見ての第一声。

 ここに辿りつくまでにも数々の扉が廊下に並んでいたが、その中でも明らかに劣る粗末な扉。嫌な予感はした。したが――

 部屋は一間だった。大の男が両手を広げて転がる程の広さもない。扉を開けてすぐに全体が見渡せてしまう狭さ。

 そして、壁に吊るされ、あるいは、立て掛けられているのは……。

「ちょっと!」

「どうしたのだ、我が姫?」

「これ、どう見ても掃除用具入れじゃない!?」

 ほうき塵取ちりとり、雑巾ぞうきん、バケツ……おおよそ掃除には困らないだろうものが一式揃っている。が、当然だがベッドはない。ここでようやく心配になって姫の部屋を見に来たゼフィランサスの真意を理解した……。

「どういうつもり?」

 真っ向から見据えて詰め寄ると、魔王はふ……と口の端を持ち上げた。

「つまり、これが我が愛なのだ。そなたへの」

「はぁ~?」

 余りにも意味不明で、間抜けな声を出してしまった。

「そなたに贈った部屋とこの男にあてがった部屋が同じ程度であっては、我が愛の深さを示すことが出来ぬではないか。そなたの望み通り、我が愛の大きさを形にしたまでよ」

 魔王は堂々と言った。

 何故だろう……。やっていることは滅茶苦茶なのだが、言い得て妙な気もする。

「と、とにかく……。普通の部屋にしてあげて」

「ならば、姫の部屋をもっと良くせねばな。さて、何処から手を――」

「付けなくていい! 私の部屋はあのままでいいから!」

 姫の必死の説得の甲斐あって、ゼフィランサスは同じく一間だが、ベッドのある部屋へと移ることが出来た。広さは……まぁ、ベッドの倍程度ではあったが……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

言葉の色が見える私には、追放された冷徹魔術師様の溺愛がダダ漏れです~黒い暴言の裏に隠された、金色の真実と甘い本音~

黒崎隼人
恋愛
王立図書館の辺境分館で働く司書のリリアナには、言葉に込められた感情が「色」として見える秘密の力があった。 ある日、彼女の前に現れたのは、かつて「王国の至宝」と呼ばれながらも、たった一度の失言で全てを失い追放された元宮廷魔術師、アレン・クロフォード。 冷徹で皮肉屋、口を開けば棘だらけの言葉ばかりのアレン。しかし、リリアナの目には見えていた。その黒い暴言の奥底で、誰よりも国を思い、そしてリリアナを気遣う、美しく輝く「金色」の本音が。 「邪魔だ」は「そばにいろ」、「帰れ」は「送っていく」。 素直になれない不器用な魔術師と、その本音が全部見えてしまう司書の、じれったくて甘い、真実の愛を取り戻す物語。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...