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4. 魔王の見える愛 ①
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「何で破談にする為に来た魔王の城で、魔王に求婚されなきゃならないの!?」
アストレイア大陸、最北にある魔王の居城。その南東の一室から、ユズリハの苛立たしげな声が上がった。
ゼフィランサスは宥めるように言う。
「ですが、我々では……」
そう。あの魔王は全く本気ではなかった。にも拘わらず、手も足も出なかった。
ゼフィランサスはルナセレネア王国一の騎士だが、彼の力を頼ったとしても、魔王に勝つことは出来ないだろう。
「何てことなの……」
ユズリハは、部屋の中央に置かれた豪奢な天蓋付きベッドの上に倒れ込んだ。
天蓋から下げられた白い紗には小粒の宝石があしらわれ、窓から漏れ入る僅かな夕陽すらも、きらきらとした輝きへと変えている。そして、細かく刺繍が施された花模様の寝具。
その見事な刺繍を指でなぞりながら、ユズリハは呟く。
「魔王の趣味? な、わけないわよね……」
ベッドの上に置かれたふかふかの枕を手に取ってみる。
はらりと、花模様のカードが落ちる。枕と同じ柄だったので気付かなかった。
姫の為に、アストレイア一の仕立屋につくらせた。良い夢を――
「……」
私の為にわざわざ? あの魔王が?
そのカードを手に、考えを巡らしていると。
「もしかして……嬉しい、とか思ってます?」
ゼフィランサスが覗き込んできた。
「お、思ってないわよっ! ……って」
はたと思い当たる。
「……ねぇ、ここに来て大丈夫なの?」
「はぁ。まぁ、そうですね……見られたら、大変でしょうね」
彼は暢気にそう言う。
一緒に旅して気付いたのは、彼はのんびり……というか、意外と能天気だということだ。こんな危機的状況下でうろたえもせず。しかも、魔王の城でその城主たる魔王に求婚されている姫の部屋に堂々と入って来られるのだから、大物だ。
「こんなとこ見られたら、きっと逢引きだとか何とかわけ分からないことを……」
「言いそうですね。そうなる前に戻ります。姫様に与えられたお部屋を見に来ただけですから。少々、心配になりまして……」
心配? 一国の王女が過ごすのに相応しい部屋かどうか、ということだろうか。
「……ちょっと少女趣味だけど、悔しいくらいに不自由のない部屋よ?」
一通り化粧道具の揃えられたドレッサーに、蔦をからめたような透かし彫りの衣装棚。棚の中には、フリルで飾られた色とりどりのドレス、そして引き出しという引き出しには、燃えるように赤い紅玉の首飾りや、宝石を惜しみなく散りばめた金銀細工の簪、指輪、耳飾り。部屋も四間続きになっていて、かなりの広さを備えている。
全くの賓客扱いで部屋の外に見張りの姿もなく、束縛する気は全然ないらしい。
「ええ、安心しました」
と、彼が答えたその時。後方の扉が勢いよく開け放たれた。
「どうだ、姫。部屋は気に入ったか? ……ん?」
ゼフィランサスの姿を見るなり、魔王は見るからに顔を顰めた。
「何故、お前がここにおる? 未婚の娘の部屋に入るとは、無粋であろう」
「あなたもでしょ。ノックくらいしなさいよね!」
「我は良いのだ。そなたの夫だからな」
今、未婚って言わなかった!? と突っ込む間もなく、魔王は傲然と腕を組み、ゼフィランサスに告げた。
「戻れ、人間。姫のたっての願い故、仕方なくお前にも部屋を用意してやったというのに、我の目を盗んでよもや逢引き――」
ほら、やっぱり言いだしたわ!
「そ、そういえば、ゼフィーの部屋は何処なの?」
「おお、この人間には北西の部屋を与えてやったぞ」
「北西?」
というと、この部屋からは反対の方角だ。
「案内してもらえるかしら?」
嘗められないようにと、顎を反らして不遜に頼む。
魔王は露骨に嫌そうな顔をした。ユズリハの態度に、ではなく。
「そなた、この男に興味があるのか?」
「はぁ!?」
興味があるのは、部屋だ。何を勘違いしているのか。
「あなたが彼にもちゃんと部屋を用意してくれたのか、確かめたいのよ」
すると、魔王の機嫌が良くなった。
「何だ、そういうことか。良いぞ、好都合でもある」
は? 好都合?
「ついて参れ」
何をわけ分からないことを、と思っている間にも、魔王は漆黒の長衣を翻し踵を返した。
そして――
「ちょっと……」
魔王がゼフィランサスに下賜したという部屋。それを見ての第一声。
ここに辿りつくまでにも数々の扉が廊下に並んでいたが、その中でも明らかに劣る粗末な扉。嫌な予感はした。したが――
部屋は一間だった。大の男が両手を広げて転がる程の広さもない。扉を開けてすぐに全体が見渡せてしまう狭さ。
そして、壁に吊るされ、あるいは、立て掛けられているのは……。
「ちょっと!」
「どうしたのだ、我が姫?」
「これ、どう見ても掃除用具入れじゃない!?」
箒や塵取り、雑巾、バケツ……おおよそ掃除には困らないだろうものが一式揃っている。が、当然だがベッドはない。ここで漸く心配になって姫の部屋を見に来たゼフィランサスの真意を理解した……。
「どういうつもり?」
真っ向から見据えて詰め寄ると、魔王はふ……と口の端を持ち上げた。
「つまり、これが我が愛なのだ。そなたへの」
「はぁ~?」
余りにも意味不明で、間抜けな声を出してしまった。
「そなたに贈った部屋とこの男にあてがった部屋が同じ程度であっては、我が愛の深さを示すことが出来ぬではないか。そなたの望み通り、我が愛の大きさを形にしたまでよ」
魔王は堂々と言った。
何故だろう……。やっていることは滅茶苦茶なのだが、言い得て妙な気もする。
「と、とにかく……。普通の部屋にしてあげて」
「ならば、姫の部屋をもっと良くせねばな。さて、何処から手を――」
「付けなくていい! 私の部屋はあのままでいいから!」
姫の必死の説得の甲斐あって、ゼフィランサスは同じく一間だが、ベッドのある部屋へと移ることが出来た。広さは……まぁ、ベッドの倍程度ではあったが……。
アストレイア大陸、最北にある魔王の居城。その南東の一室から、ユズリハの苛立たしげな声が上がった。
ゼフィランサスは宥めるように言う。
「ですが、我々では……」
そう。あの魔王は全く本気ではなかった。にも拘わらず、手も足も出なかった。
ゼフィランサスはルナセレネア王国一の騎士だが、彼の力を頼ったとしても、魔王に勝つことは出来ないだろう。
「何てことなの……」
ユズリハは、部屋の中央に置かれた豪奢な天蓋付きベッドの上に倒れ込んだ。
天蓋から下げられた白い紗には小粒の宝石があしらわれ、窓から漏れ入る僅かな夕陽すらも、きらきらとした輝きへと変えている。そして、細かく刺繍が施された花模様の寝具。
その見事な刺繍を指でなぞりながら、ユズリハは呟く。
「魔王の趣味? な、わけないわよね……」
ベッドの上に置かれたふかふかの枕を手に取ってみる。
はらりと、花模様のカードが落ちる。枕と同じ柄だったので気付かなかった。
姫の為に、アストレイア一の仕立屋につくらせた。良い夢を――
「……」
私の為にわざわざ? あの魔王が?
そのカードを手に、考えを巡らしていると。
「もしかして……嬉しい、とか思ってます?」
ゼフィランサスが覗き込んできた。
「お、思ってないわよっ! ……って」
はたと思い当たる。
「……ねぇ、ここに来て大丈夫なの?」
「はぁ。まぁ、そうですね……見られたら、大変でしょうね」
彼は暢気にそう言う。
一緒に旅して気付いたのは、彼はのんびり……というか、意外と能天気だということだ。こんな危機的状況下でうろたえもせず。しかも、魔王の城でその城主たる魔王に求婚されている姫の部屋に堂々と入って来られるのだから、大物だ。
「こんなとこ見られたら、きっと逢引きだとか何とかわけ分からないことを……」
「言いそうですね。そうなる前に戻ります。姫様に与えられたお部屋を見に来ただけですから。少々、心配になりまして……」
心配? 一国の王女が過ごすのに相応しい部屋かどうか、ということだろうか。
「……ちょっと少女趣味だけど、悔しいくらいに不自由のない部屋よ?」
一通り化粧道具の揃えられたドレッサーに、蔦をからめたような透かし彫りの衣装棚。棚の中には、フリルで飾られた色とりどりのドレス、そして引き出しという引き出しには、燃えるように赤い紅玉の首飾りや、宝石を惜しみなく散りばめた金銀細工の簪、指輪、耳飾り。部屋も四間続きになっていて、かなりの広さを備えている。
全くの賓客扱いで部屋の外に見張りの姿もなく、束縛する気は全然ないらしい。
「ええ、安心しました」
と、彼が答えたその時。後方の扉が勢いよく開け放たれた。
「どうだ、姫。部屋は気に入ったか? ……ん?」
ゼフィランサスの姿を見るなり、魔王は見るからに顔を顰めた。
「何故、お前がここにおる? 未婚の娘の部屋に入るとは、無粋であろう」
「あなたもでしょ。ノックくらいしなさいよね!」
「我は良いのだ。そなたの夫だからな」
今、未婚って言わなかった!? と突っ込む間もなく、魔王は傲然と腕を組み、ゼフィランサスに告げた。
「戻れ、人間。姫のたっての願い故、仕方なくお前にも部屋を用意してやったというのに、我の目を盗んでよもや逢引き――」
ほら、やっぱり言いだしたわ!
「そ、そういえば、ゼフィーの部屋は何処なの?」
「おお、この人間には北西の部屋を与えてやったぞ」
「北西?」
というと、この部屋からは反対の方角だ。
「案内してもらえるかしら?」
嘗められないようにと、顎を反らして不遜に頼む。
魔王は露骨に嫌そうな顔をした。ユズリハの態度に、ではなく。
「そなた、この男に興味があるのか?」
「はぁ!?」
興味があるのは、部屋だ。何を勘違いしているのか。
「あなたが彼にもちゃんと部屋を用意してくれたのか、確かめたいのよ」
すると、魔王の機嫌が良くなった。
「何だ、そういうことか。良いぞ、好都合でもある」
は? 好都合?
「ついて参れ」
何をわけ分からないことを、と思っている間にも、魔王は漆黒の長衣を翻し踵を返した。
そして――
「ちょっと……」
魔王がゼフィランサスに下賜したという部屋。それを見ての第一声。
ここに辿りつくまでにも数々の扉が廊下に並んでいたが、その中でも明らかに劣る粗末な扉。嫌な予感はした。したが――
部屋は一間だった。大の男が両手を広げて転がる程の広さもない。扉を開けてすぐに全体が見渡せてしまう狭さ。
そして、壁に吊るされ、あるいは、立て掛けられているのは……。
「ちょっと!」
「どうしたのだ、我が姫?」
「これ、どう見ても掃除用具入れじゃない!?」
箒や塵取り、雑巾、バケツ……おおよそ掃除には困らないだろうものが一式揃っている。が、当然だがベッドはない。ここで漸く心配になって姫の部屋を見に来たゼフィランサスの真意を理解した……。
「どういうつもり?」
真っ向から見据えて詰め寄ると、魔王はふ……と口の端を持ち上げた。
「つまり、これが我が愛なのだ。そなたへの」
「はぁ~?」
余りにも意味不明で、間抜けな声を出してしまった。
「そなたに贈った部屋とこの男にあてがった部屋が同じ程度であっては、我が愛の深さを示すことが出来ぬではないか。そなたの望み通り、我が愛の大きさを形にしたまでよ」
魔王は堂々と言った。
何故だろう……。やっていることは滅茶苦茶なのだが、言い得て妙な気もする。
「と、とにかく……。普通の部屋にしてあげて」
「ならば、姫の部屋をもっと良くせねばな。さて、何処から手を――」
「付けなくていい! 私の部屋はあのままでいいから!」
姫の必死の説得の甲斐あって、ゼフィランサスは同じく一間だが、ベッドのある部屋へと移ることが出来た。広さは……まぁ、ベッドの倍程度ではあったが……。
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