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猫と夢と少女
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ゆるやかな振動がとつじょ乱れ、電車がはねるように揺れた。
はっと目を覚ました私の耳に「この先、揺れます」と車内放送が聞こえてくる。
(もう、最悪。一時間目からテストなのに……)
手に持っていたはずの教科書は足元に落ちていた。
イライラしながら拾い上げる。
眠ってしまったのは自業自得なのだが、ここ最近うまくいかないことが多くてすぐにイライラしてしまう。
カバンからスマホを取り出し、時刻を確認する。
八時五分……
最寄り駅まであと五分といったところだ。
教科書をしまおうとカバンを開ける。
その時だった。
「にゃにゃ、もう着くにゃか?」
「きゃあ!?」
おどろきのあまり悲鳴をあげた。
カバンの中から、見知った猫の顔が覗いている。
にょきっと毛むくじゃらの手も伸びてきて、あっという間に私のカバンの上に座り込んだ。
猫が話すなんてありえない。いや、猫というかこれは……
「も、持ってきたおぼえないけど!?」
カバンから出てきたそれは、誕生日に友達がくれた猫のぬいぐるみだ。
豹がらに似た模様、わたが多めにつめられた下半身、そして毛の合間からうっすらとのぞく糸目。
「持ってきた、なんて失礼にゃ。そこは連れてきたって言ってほしいものだにゃ」
「ご……ごめんなさい」
「分かればいいにゃ」
猫は満足げに微笑んだ。
……糸目だからそう見えるだけかもしれない。
私のカバンの上ですっくと立ち上がった猫は、重たげにジャンプし二本足で床に着地する。
ふふん、とドヤ顔で振り返った。
い、糸目だからそう見えるだけ……。
戸惑う私をよそに、猫はほてほてと二足歩行で歩いていく。
連結部の扉へ突進していくので、慌てて開けてやる。
酔いそうになる蛇腹をとおり、となりの車両へ移った。
「雲にゃ!」
そりゃ、雲くらい見えるでしょ……と突っ込んだ私は目をみはる。
わたあめのような雲が、窓をこするように流れていく。
(うそ、飛んでる!?)
はるか下の方に町が見えた。
ゆっくり観賞する間もなく、猫はほてほてと行ってしまう。
海にゃ、お城にゃ、遊園地にゃ!
猫の言葉に合わせて、車両を移るたびに次々と違う世界が広がった。
一体何両あるのだろう。
永遠とも思える時間、私たちは車両から車両へと移っていく。
次の車両では何が見られるのだろう。
わくわくとした気持ちが、私の足を動かした。
そして、いくつ目の車両だろうか。
蛇腹を抜けると、ぱっと白い光がはじけた。
かくんと景色が揺れる。
「きゃあ!」
ころぶ寸前、猫がこちらを振り返った。
白い光の中で、糸目をさらに細めたような顔で笑っていた――
そこではっと目が覚めた。
顔がひりひりする。カバンを抱くような姿勢で眠ってしまい、顔にカバンのあとがついてしまったようだ。
カバンの中をのぞき込む。
スマホ、化粧ポーチ、教科書に筆記用具。
(そうよね、ふふ)
あんな丸々とした猫が、この小さなカバンに収まるはずもない。
そう思ってから、私は慌てて時刻を確認した。
猫と過ごした時間は、感覚にして優に一時間はあった。
やばい、確実に寝過ごした。
「八時十分。あれ……?」
つぶやくと同時に、降りるはずの最寄り駅の名が、放送で告げられる。
狐につままれたような気持ちで、私は電車を降りた。
そういえば、最後の車両は何が見えたのだろう。
そう考えた時、足元をほてほてと何かが歩いていく。
猫だ。
ぬいぐるみではなく、本物の猫。
しっぽを揺らし、猫は顔だけこちらへ向けた。
糸目だ。
私は慌てて追いかけた。
一緒に改札を抜け、外へ出る。
太陽の眩しさに目をすがめ、ふと思う。
家に帰ったら、書きかけの小説を書いてみようか。
落選続きで書けなくなっていたけれど、今日は何だか書けそうな気がする。
私の足元で、猫がにゃあと一声鳴いた。
~おしまい~
はっと目を覚ました私の耳に「この先、揺れます」と車内放送が聞こえてくる。
(もう、最悪。一時間目からテストなのに……)
手に持っていたはずの教科書は足元に落ちていた。
イライラしながら拾い上げる。
眠ってしまったのは自業自得なのだが、ここ最近うまくいかないことが多くてすぐにイライラしてしまう。
カバンからスマホを取り出し、時刻を確認する。
八時五分……
最寄り駅まであと五分といったところだ。
教科書をしまおうとカバンを開ける。
その時だった。
「にゃにゃ、もう着くにゃか?」
「きゃあ!?」
おどろきのあまり悲鳴をあげた。
カバンの中から、見知った猫の顔が覗いている。
にょきっと毛むくじゃらの手も伸びてきて、あっという間に私のカバンの上に座り込んだ。
猫が話すなんてありえない。いや、猫というかこれは……
「も、持ってきたおぼえないけど!?」
カバンから出てきたそれは、誕生日に友達がくれた猫のぬいぐるみだ。
豹がらに似た模様、わたが多めにつめられた下半身、そして毛の合間からうっすらとのぞく糸目。
「持ってきた、なんて失礼にゃ。そこは連れてきたって言ってほしいものだにゃ」
「ご……ごめんなさい」
「分かればいいにゃ」
猫は満足げに微笑んだ。
……糸目だからそう見えるだけかもしれない。
私のカバンの上ですっくと立ち上がった猫は、重たげにジャンプし二本足で床に着地する。
ふふん、とドヤ顔で振り返った。
い、糸目だからそう見えるだけ……。
戸惑う私をよそに、猫はほてほてと二足歩行で歩いていく。
連結部の扉へ突進していくので、慌てて開けてやる。
酔いそうになる蛇腹をとおり、となりの車両へ移った。
「雲にゃ!」
そりゃ、雲くらい見えるでしょ……と突っ込んだ私は目をみはる。
わたあめのような雲が、窓をこするように流れていく。
(うそ、飛んでる!?)
はるか下の方に町が見えた。
ゆっくり観賞する間もなく、猫はほてほてと行ってしまう。
海にゃ、お城にゃ、遊園地にゃ!
猫の言葉に合わせて、車両を移るたびに次々と違う世界が広がった。
一体何両あるのだろう。
永遠とも思える時間、私たちは車両から車両へと移っていく。
次の車両では何が見られるのだろう。
わくわくとした気持ちが、私の足を動かした。
そして、いくつ目の車両だろうか。
蛇腹を抜けると、ぱっと白い光がはじけた。
かくんと景色が揺れる。
「きゃあ!」
ころぶ寸前、猫がこちらを振り返った。
白い光の中で、糸目をさらに細めたような顔で笑っていた――
そこではっと目が覚めた。
顔がひりひりする。カバンを抱くような姿勢で眠ってしまい、顔にカバンのあとがついてしまったようだ。
カバンの中をのぞき込む。
スマホ、化粧ポーチ、教科書に筆記用具。
(そうよね、ふふ)
あんな丸々とした猫が、この小さなカバンに収まるはずもない。
そう思ってから、私は慌てて時刻を確認した。
猫と過ごした時間は、感覚にして優に一時間はあった。
やばい、確実に寝過ごした。
「八時十分。あれ……?」
つぶやくと同時に、降りるはずの最寄り駅の名が、放送で告げられる。
狐につままれたような気持ちで、私は電車を降りた。
そういえば、最後の車両は何が見えたのだろう。
そう考えた時、足元をほてほてと何かが歩いていく。
猫だ。
ぬいぐるみではなく、本物の猫。
しっぽを揺らし、猫は顔だけこちらへ向けた。
糸目だ。
私は慌てて追いかけた。
一緒に改札を抜け、外へ出る。
太陽の眩しさに目をすがめ、ふと思う。
家に帰ったら、書きかけの小説を書いてみようか。
落選続きで書けなくなっていたけれど、今日は何だか書けそうな気がする。
私の足元で、猫がにゃあと一声鳴いた。
~おしまい~
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