たゆたう青炎

明樹

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僕が五歳の時に母親が死んだ。元々心臓の弱かった母は、風邪をこじらせてあっけなく逝ってしまったのだ。
母親が死んでから半年経った頃に、父親が新しい母親を連れて来た。肩までの黒髪に化粧の濃い、若い女だった。綺麗なのだけど、僕の母親のような透明な美しさがない。
だけど父親は、若いだけが取り柄のその女を可愛がり、すぐに子供が出来て、僕が六歳の時に弟が生まれた。


義母は、僕と初めて会ったその日から、父親がいる時以外は全く僕に話しかけてこなかった。まるで僕の姿など目に入っていないかのようだった。
僕は最初は、家族になったのだからと出来るだけ話しかけていたのだけど、ほとんど反応が返ってこなかったので、そのうち話しかけるのを止めた。


僕の家は一族の中でも名門で、森の奥にある大きな洋館には召使いが何人もいた。だから義母が僕を無視していたとしても、世話をしてくれる人はいる。特に七つ上のロウは、僕が生まれた翌日から、僕の子守りを始めたそうだ。ロウは常に僕の傍にいて、僕の身の回りの世話から勉強や武術の練習まで、全てを面倒見てくれた。


だから僕があの洋館を出て、この小さな家に移った時も、ロウは何も言わずについて来た。


僕は、あの洋館で暮らす資格がないのだ。直接口に出しては言わなかったけれど、父親もそう思ってる筈だ。だから僕が家を出ると言った時も、止めなかったのだ。





父親が僕に冷たくなったのは、弟が生まれてからだと思う。小さな弟が可愛いのだから仕方がない…。そう自分に言い聞かせていたけど、父親が僕を可愛がることなど、二度となかった。
そして、父親が僕を確実に見放したのは、三歳になった弟が、狼に変身出来た時だ。


我が青蓮(しょうれん)家は、人狼の一族だ。人狼界の中でも名門で、赤築(しゃづき)、白蘭(びゃくらん)、黄麻(おうま)と並んで、四大名家に入る。
人狼族の誰もが、三、四歳になると、狼に変身出来るようになる。稀に、人狼界で位の低い者や、人狼と人間の間に生まれた者の中に、完璧に変身が出来ない者が出てくる。彼らは、耳や尻尾を出すことしか出来ないのだ。


しかし、四大名家の者は皆、立派な狼に変身する。
青蓮は青味がかった黒毛に青い目の狼に、赤築は赤味がかった栗毛に赤い目の狼に、白蘭は雪のように真っ白な白毛に緑の目の狼に、黄麻は輝く金の毛と金の目の狼に。


それなのに、僕は、三歳になっても四歳五歳になっても、変身出来なかった。そして、十七歳になった今でも、変身出来ないままだ。
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