たゆたう青炎

明樹

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戸惑う青

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家の敷地に入るとすぐに、ロウが人型に戻る。僕を抱き抱えて家の中へ入り、リビングの革張りのソファーに寝かせた。


「ルカ様、少し待っていて下さい」
「ん…」


僕の頬をスルリと撫でて、ロウがリビングを出て行く。
肩の傷は熱を持ってズキズキと疼き、僕の額からは汗が次から次へと流れ落ちていた。


「はあ…っ」と荒い息を吐いた時に、手に何かを持ってることに気づいた。
怠い腕を持ち上げて見ると、それは、リツが狼に変身する時に投げ捨てたシャツだった。


「あ…持って来ちゃった…」


リツのシャツは、僕の肩から流れた血で汚れてしまっている。これはもう、洗ったところで取れないな…と力なく笑って、腕を降ろした。その瞬間、フワリとリツの匂いが僕の顔の周りを漂う。


ーーリツの匂い…だ。


なぜか、僕の心臓がドキドキと高鳴り始める。自分の意思とは関係なく騒つく胸にイラついて、僕は眉を寄せて、シャツをソファーの下に落とした。


すぐにロウが戻って来て、また僕を抱えて風呂場へ行く。風呂場の床にそっと降ろすと、僕のシャツを脱がせ始めた。


「これはひどい。よく、声をあげませんでしたね」
「だって…こんな身体、バラバラになったとしても構わない」
「ルカ様。それ以上言うと許しません。いつも言ってるでしょう。俺の大事なあなたを貶めるな」
「……」


ロウにきつく睨まれて、僕は息を吐いて目を閉じた。
シャツを脱がせたロウは、シャワーからお湯を出して、肩の傷にゆっくりとかけていく。お湯が傷にしみて、強い痛みに気を失いそうだ。僕は深く息を繰り返して、震える指を強く握りしめた。


「今からかなり痛いですよ。我慢出来なければ、俺の肩を噛んで下さい」
「ん…」


ロウがシャワーを止めて、僕を腕に抱き込む。そして僕の肩に唇を当てると、舌で傷口を抉るように舐め始めた。
僕はロウの服を握りしめて、痛みを堪えて小さく声を漏らす。


「う…、ん…ぅ、いっ…」


尖らせた舌の先で傷口をグリグリと弄られ、僕は堪らずロウの肩に噛みついた。
グッと歯を立てて、ロウの肩に僕の歯がめり込んでいく。
両方の肩を舐め終わった頃には、僕は息も絶え絶えになって、ロウの胸にもたれていた。


人狼は、怪我の治りが人間の数倍早い。舐めると更に早くなる。だから僕が怪我をした時は、ロウがいつも舐めて治してくれる。「放っておいても治るからいい」と言っても、嫌がっても、ロウは僕を押さえつけてまで、僕の肌に舌を這わせるのだ。


肩を上下させて、荒い呼吸を繰り返す僕を、ロウがずっと抱きしめている。顔を上げて、シャツから覗くロウの肩を見ると、見事に紫色に歯型がついて、血が滲んでいた。
僕は、シャツを掴んで歯型に顔を寄せ、舌を伸ばしてペロリと舐める。その瞬間、ロウの肩がピクリと跳ねて、僕の髪にキスを落とした。


「ルカ様、俺は大丈夫です。治さなくてもいい。これは、あなたが俺につけた印だから…。残しておきたい」
「でも…僕、かなり強く噛んだ…。血だって出てるし痛いだろ?」
「いい…。この痛みですら、俺には大切で愛おしい」


僕は眉根を寄せて、歯型を人差し指で優しくなぞった。クルクルと撫でた後に、グッと指で強く押す。瞬間、ロウの口から小さな声が漏れた。


「う…」
「ふふ…、ほら、痛いくせに。痛みが愛おしい…って、よくわかんないよ。ロウは、やっぱり変だ」


したり顔で笑った僕の頭を、顔をしかめたロウが強く引き寄せる。そして、ロウが舐めて傷口を塞いだ赤い箇所をカプリと噛んだ。


「あ…っ、や…め…、んぅ」
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