たゆたう青炎

明樹

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肩から全身へとゾクリとした痺れが広がり、僕の口から高い声が漏れた。
ロウの頭を押すけど離してくれず、ジワジワと痛みを感じ始めた頃に、ようやくロウの顔が離れた。
僕の肩を見ると、ロウの歯型がしっかりとついている。僕は、ロウを睨んで文句を言った。


「何をしてるの?バカなの?」
「ルカ様の肌に、俺以外の奴が跡をつけるなど許さない。ほら、ご覧なさい。もうそこには、俺がつけた跡の方が大きい。それを見るたびに、俺を思い出して下さい」
「は?意味わかんない。どうせ噛むなら、白蘭の奴らがつけた傷を治さなきゃよかったのに…っ」
「だから俺は…っ。いや、なんでもない…。ルカ様、後で念の為、薬を塗ります。それと明日はちょうど休みです。ゆっくり養生して下さい。家から出てはだめですよ」
「どうせロウが見張ってるんだろ?…勝手にすればいい」


僕が文句を言いながら顔を背けると、ロウが僕を抱き上げて風呂場を出た。


ロウに着替えさせてもらって、僕の部屋に連れて行かれた。僕をベッドに置いて部屋から出て行こうとするロウに、声をかける。


「ロウ、肩の傷はロウが治してくれたし、まだ眠くない。リビングに行きたい」
  「傷が治ったとはいえ、疲れたでしょう?すぐに食事を持って来ますから、安静にしてて下さい」
「嫌だ。まだ寝たくない」
「ふっ、あなたは私にだけは我が儘を言う。仕方ないですね。でも、ソファーが汚れてるので拭かないといけません。綺麗にして来ますので、少し待っていて下さい」
「わかった。終わったら迎えに来て」
「はい」


なぜかとても嬉しそうに笑って、ロウは部屋を出て行った。


ーーロウは、僕が無茶を言う時ほど、嬉しそうにする。もしかしてマゾなのかな…。


やっぱりロウは変な奴だ、と横向きに寝転んでいた僕は、ゴロリと仰向けになった。
白い天井を見つめて、もう一人の変な奴のことを考える。


ーーリツも変な奴だ。僕は青蓮でリツは赤築だよ?それに、まだ知り合って数ヶ月だし、僕はリツに冷たい態度しか取ってない。なのに、俺の大事な…って。リツは、今まで僕の周りにいた人狼とは全然違う反応をするから、正直困る…。


目を閉じて、燃えるような赤毛の狼の姿を思い浮かべる。「すごく綺麗…」と呟いたその時、ドアが開いてロウが戻って来た。


無言で僕を抱き上げて部屋を出る。リビングまで運ばれながら、『自分で歩くと言ってもロウは聞かない』と小さく息を吐き、大人しくロウの胸に頭をつけた。


綺麗に拭かれたソファーに降ろされて、本を手渡される。首を傾げてロウを見ると、僕の頬を撫でて微笑んだ。


「それを読んで待っていて下さい。すぐに食事を用意します」
「うん…」


僕は持たされた本に視線を落とす。そんな僕にクスリと笑って、ロウがキッチンに入って行くのをぼんやりと眺めた。


ーーこれ…ロウの本じゃん。僕はこんなの読まないし…。


再び本に視線を落として、パラパラとめくる。ロウが好んでよく読んでいる純愛物。一人の人だけを永遠に思い続ける話。


ーー見た目はあんなに男らしいのに、中身はロマンチックで乙女…。


僕はなんだか可笑しくなって、知らず知らずのうちに声を出して笑っていた。
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