たゆたう青炎

明樹

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リツが何かグチャグチャと言ってるけど、よくわからない。僕は首を捻ると、黙って新しいシャツに袖を通した。
着替え終わっても、まだ目を閉じてるリツに、「終わった」と告げる。手を退けたリツの顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。


「リツ、顔が赤いよ?熱、出てきたの?」


リツの額に触れようと伸ばした手を、リツに握られた。その手を引かれて、リツの胸に抱き込まれる。
僕の頬が当たるリツの胸から、ドクドクと激しい心音が聞こえた。


「リツ…、すごくドクドク言ってる。大丈夫?」
「ルカが、そうさせてるんだ。ルカを見ると、近寄ると、触れると、俺は平静じゃいられなくなる。俺の全てが叫んでるんだ。ルカが好きだ、って…」
「リツは…、僕を必要としてくれるの?青蓮家で、ずっと要らないモノとして扱われてきた僕を…?」
「うん、必要。俺、ルカがいないと、たぶんダメ」
「ふ…ふふ、大げさ…」
「いやマジで。だってさ、ルカに近寄れなかったこの一週間、世界が灰色に見えてた。食べ物も喉を通らないしさ…。でも今は、何もかもがキラキラと輝いて見える。ルカの態度一つで、俺はこんなにも変わってしまうんだ。ルカ…、俺がルカを好きだってことは、ちゃんと知ってて。男の俺に触れられるのは嫌かもしんないけど、たまに触れることを許して…」


そっと顔を上げると、リツがとても優しい目で僕を見ていた。その吸い込まれそうな赤い瞳に、今度は僕の胸がドキリと鳴る。僕は再びリツの胸に顔を埋めて、リツに聞こえないくらいのとても小さな声で、「別に嫌じゃない…」と呟いた。


結局、先生が戻って来てすぐに、リツは帰って休んだ方がいいと言われて、なぜか僕も一緒に早退することになった。
ロウに言っておいた方がいいのかな…と考えていると、先生が「青砥先生には伝えておくから」と言ってくれた。僕は、先生にロウへの伝言を頼むと、先生が教室に行って取ってきてくれた鞄を受け取って、リツと学校を出た。


リツは薬が効いているのか、スタスタと普通に歩いている。あの貼り薬といい、痛み止めらしい飲み薬といい、赤築には優れた医療従事者がいるのだなと感心した。


「リツ、傷は痛くないの?」
「ん、大丈夫。姉ちゃんにもらった薬がよく効いてる。というより、ルカが舐めてくれたのが一番効いてる」
「…バカ。そんなわけないだろ…。僕は、ロウほど上手く治せないんだ…。だから、ちゃんと治療して」


ふいに、リツが足を止めて、俯いて黙り込んでしまう。リツの少し後ろを歩いていた僕は、危うくリツの背中にぶつかりそうになった。


「急にどうしたの?早く帰ろうよ」


リツを追い越して進む僕の背中に、リツが暗い声をかける。


「青砥…先生は、この前の白蘭につけられたルカの傷を治した?」
 「ああ、あれ…?うん、ロウが治してくれたよ。僕の傷は、いつもロウが治してくれる。僕の身体に、ほんの小さな傷でもつくのはだめなんだって。ロウこそ、僕には何の価値もないって一番よく知ってる筈なのにね…」


僕は、足を止めると前を向いたまま答えて、また歩き出す。


「置いてくよ」
「え?あっ、待って…っ」


いつまでも動こうとしないリツを置いて、僕がドンドンと進むから、リツも慌てて追いかけてきた。
リツは僕の隣に並ぶと、そっと手を握ってきた。
僕は、リツに握られて、ジワリと温かくなる手を見つめた。


「ルカ…、もしルカが怪我をしたら、俺が治したい。俺も、ルカの身体に傷一つ、つけたくない。なあ…、ルカにとって先生って…」
「ロウは僕に仕える者だ。それ以外の何者でもない」
「そっか…」


ふっ、と息を吐いたリツが、僕を見て微笑んだ。


リツが何を気にしてるのかがわからない。ロウが…なに?ロウのことは、あまり深く聞かれたくない。


強くそう思い、なぜそう思うのかわからなくて、僕は少し苛立った。
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