たゆたう青炎

明樹

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週明けの月曜日には、すっかり熱も下がり元気になった。本当はだめなのだけど、ロウの車で学校の近くまで送ってもらう。


週末の休みの間は、ロウはずっと優しかった。僕が起きてる間は膝の上に抱え、寝ている間は腕の中に閉じ込めていた。
打撲の跡は、舐めても治らないと言うのに、ロウは、僕の肩にたくさんのキスをした。その時に、僕を抱き寄せるロウの手が素肌に触れて、不覚にも身体を震わせてしまった。そのことに、ロウが気づいたのかどうかわからない。ただロウは、丁寧に何度もキスを繰り返していた。





学校に向かう車の中で、ロウが口うるさく言う。


「赤築の人狼が、またしつこく寄って来るでしょうが、気をつけるように。あいつが傍にいるせいで、ルカ様が傷ついてるように思えてならない」
「…わかった。気をつける。だからリツに当たったらだめだよ」


僕が車を降りるまで、何度もブツブツと文句を言っている。
僕が溜め息を吐いて車を降りようとすると、突然、ロウに腕を引かれた。ロウの胸に倒れ込んだ僕の額に、柔らかいモノが押し当てられる。


「…なに?」
「おまじないです」


不満気な僕に反して、ロウは楽しそうに笑う。ロウを睨んで降りようとした僕の背中に、ロウが声をかけた。


「あ、ルカ様。今日の放課後、職員会議があります。だから、終わるまで俺の車で待っていてもらえませんか?」
「え…嫌だ。待つのは退屈だし、先に帰る」
「そうですか。わかりました。では、気をつけて帰るのですよ」
「大丈夫だよ。ロウは過保護だ…」
「なんですか?」


聞き返してきたロウに、僕は車を降りて振り向くと、ニコリと笑って言った。


「ロウのおまじないがあるから、大丈夫だって言ったんだよ。じゃあね」


そう言い捨てて、僕はすぐに歩き出した。
だから、後ろでロウが、掌で口元を押さえて「なんて顔をするんだ…」と赤い顔をして呟いたことを、僕は知らない。
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