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暁の中で
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あの後二回休憩を挟んで、夜が明ける少し前に目的地に着いた。
車一台がやっと通れるくらいの細い道を進むと、薄明の森の中に、大きな家が現れる。日が昇ってないから全貌がよくわからないけど、かなり大きな家のようだ。
人型に戻ってそそくさと服を着たリツが、僕の背中を押して玄関へと促した。
躊躇いながら、玄関前の階段に足をかける。
「ルカ様」
その時、聞こえる筈のない声がした。僕は驚いて動きを止める。
それはリツも同じだったようで、僕の斜め後ろで、ビクリと身体を揺らして足を止めた。そして、音が聞こえそうな程にぎこちない動きで振り向いて、声を上げる。
リツの視線の先に目をやると、そこには、立ち並ぶ木々の間で、静かに佇むロウがいた。
「あ……な、んで…」
「…やっぱり追いかけて来たんだ、先生」
ロウが笑みを浮かべて、僕達の方へ一歩近づく。
「追いかけたんじゃない。待ち伏せしていたんだ」
「待ち伏せってなんだよ?」
リツが、僕を背中に隠すようにして前に出る。
「赤築、おまえの駆ける足が遅いから、追い抜かしてしまったんだ。おかげで、到着するまでずいぶんと待たされたぞ」
「べっ、別にそこまで飛ばしてなかったからなっ。それより、何でここがわかったんだよっ?」
「家に帰るとルカ様がいなかった…」
リツの背中から半分顔を出した僕に、ロウが射るような視線を向ける。穏やかな表情をしているけど、目が怒っている。
「今まで、ルカ様が連絡も無くいなくなることは、一度も無かった。それに昨日は様子がおかしかったから、慌てて捜しに行こうと外に出たら、赤築、敷地内におまえの匂いが残っていた。そこですぐに赤築先生に連絡を取った」
「姉ちゃん…」
「家に確認してもらったら、おまえはいないと言う。俺が、赤築家所有の持ち家の場所を聞いたら、この別荘の鍵が無くなっていることがわかった。俺は、場所を聞いてすぐに追いかけた。ふっ…、人生で一番速く走ったよ」
ロウが、僕とリツの前まで来て、「おまえは邪魔だ」とリツの肩を掴んで横へ押しやった。
大きくよろけて離れたリツには目もくれず、ロウは、僕の真正面に立って、手を伸ばす。僕の頬に触れたロウの手は、氷のように冷たくて、小刻みに震えていた。
僕は、恐る恐るロウを見た。ロウが、整った顔を歪めて、苦しそうに言葉を吐き出した。
「ルカ様…、なぜ、俺に黙って家を出たのですか?なぜ、俺から離れようとしたのですかっ?」
「だっ、だって!ロウは…青蓮家に戻るんだろ?ルキがそう言ってたし、ロウも電話で父さんとそんな話、してたじゃないかっ!そ、それを聞いて…、僕はロウを解放してあげなくちゃ…って、お、思って…っ。それに…」
「それに?」
僕の視界が滲んで、ロウの顔がぼやけて見える。話してるうちに涙が溢れてきて、僕の頬を包むロウの手を濡らしていく。
「…それに、僕の傍にロウがいないなら…もういいや、って思った。ロウと生きていけないなら、役立たずの僕はもう、消えていいかな…って。…リツの優しさに甘えて、こんな所まで一緒に来てもらったけど…、リツにはすぐに帰ってもらうつもりだった。僕一人で、せめて景色のいい場所で、消えてしまおうと…」
「ルカ様っ!」
いきなり叫んだロウに、強く抱きしめられた。慌てて離れようともがくけど、ガッチリと腕に抱き込まれて、動くこともままならない。頬を当てたロウの胸から、激しい心音が聞こえる。
「やだっ、離してっ!ロウはルキに仕えるんだろ?僕のことなんてもう、放っておいてよっ」
「ルカ様っ!俺が誓った言葉を忘れたのですかっ?俺は何度も繰り返し言った筈だ!あなたの傍を、決して離れないと!」
車一台がやっと通れるくらいの細い道を進むと、薄明の森の中に、大きな家が現れる。日が昇ってないから全貌がよくわからないけど、かなり大きな家のようだ。
人型に戻ってそそくさと服を着たリツが、僕の背中を押して玄関へと促した。
躊躇いながら、玄関前の階段に足をかける。
「ルカ様」
その時、聞こえる筈のない声がした。僕は驚いて動きを止める。
それはリツも同じだったようで、僕の斜め後ろで、ビクリと身体を揺らして足を止めた。そして、音が聞こえそうな程にぎこちない動きで振り向いて、声を上げる。
リツの視線の先に目をやると、そこには、立ち並ぶ木々の間で、静かに佇むロウがいた。
「あ……な、んで…」
「…やっぱり追いかけて来たんだ、先生」
ロウが笑みを浮かべて、僕達の方へ一歩近づく。
「追いかけたんじゃない。待ち伏せしていたんだ」
「待ち伏せってなんだよ?」
リツが、僕を背中に隠すようにして前に出る。
「赤築、おまえの駆ける足が遅いから、追い抜かしてしまったんだ。おかげで、到着するまでずいぶんと待たされたぞ」
「べっ、別にそこまで飛ばしてなかったからなっ。それより、何でここがわかったんだよっ?」
「家に帰るとルカ様がいなかった…」
リツの背中から半分顔を出した僕に、ロウが射るような視線を向ける。穏やかな表情をしているけど、目が怒っている。
「今まで、ルカ様が連絡も無くいなくなることは、一度も無かった。それに昨日は様子がおかしかったから、慌てて捜しに行こうと外に出たら、赤築、敷地内におまえの匂いが残っていた。そこですぐに赤築先生に連絡を取った」
「姉ちゃん…」
「家に確認してもらったら、おまえはいないと言う。俺が、赤築家所有の持ち家の場所を聞いたら、この別荘の鍵が無くなっていることがわかった。俺は、場所を聞いてすぐに追いかけた。ふっ…、人生で一番速く走ったよ」
ロウが、僕とリツの前まで来て、「おまえは邪魔だ」とリツの肩を掴んで横へ押しやった。
大きくよろけて離れたリツには目もくれず、ロウは、僕の真正面に立って、手を伸ばす。僕の頬に触れたロウの手は、氷のように冷たくて、小刻みに震えていた。
僕は、恐る恐るロウを見た。ロウが、整った顔を歪めて、苦しそうに言葉を吐き出した。
「ルカ様…、なぜ、俺に黙って家を出たのですか?なぜ、俺から離れようとしたのですかっ?」
「だっ、だって!ロウは…青蓮家に戻るんだろ?ルキがそう言ってたし、ロウも電話で父さんとそんな話、してたじゃないかっ!そ、それを聞いて…、僕はロウを解放してあげなくちゃ…って、お、思って…っ。それに…」
「それに?」
僕の視界が滲んで、ロウの顔がぼやけて見える。話してるうちに涙が溢れてきて、僕の頬を包むロウの手を濡らしていく。
「…それに、僕の傍にロウがいないなら…もういいや、って思った。ロウと生きていけないなら、役立たずの僕はもう、消えていいかな…って。…リツの優しさに甘えて、こんな所まで一緒に来てもらったけど…、リツにはすぐに帰ってもらうつもりだった。僕一人で、せめて景色のいい場所で、消えてしまおうと…」
「ルカ様っ!」
いきなり叫んだロウに、強く抱きしめられた。慌てて離れようともがくけど、ガッチリと腕に抱き込まれて、動くこともままならない。頬を当てたロウの胸から、激しい心音が聞こえる。
「やだっ、離してっ!ロウはルキに仕えるんだろ?僕のことなんてもう、放っておいてよっ」
「ルカ様っ!俺が誓った言葉を忘れたのですかっ?俺は何度も繰り返し言った筈だ!あなたの傍を、決して離れないと!」
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