たゆたう青炎

明樹

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橙色に染まる罠

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週明け、教室に入るなり、席に座るリツと目が合った。
一瞬、リツの目が泳いだように見えたけど、すぐにいつもの優しい笑顔になって、「ルカ、おはよう!」と挨拶をしてくる。
僕は、リツの傍に行くと、頭を下げた。


「リツ…ごめん。僕、自分勝手にリツを振り回してた。僕に怒っていいよ…」
「ルカ…、違うよっ?俺が、勝手に好きでやったことだから…っ。ルカに怒ることなんて何もないし。謝られたら、俺、逆に落ち込んじゃうよ?だからそんな顔しないで、笑ってくれよ」


僕は、ゆっくりと上げた顔を横に傾ける。


「そんな顔…って?」
「泣きそうな顔。俺は、ルカには笑っていて欲しいの。なあ、ルカは今、幸せなんだろ?青と…、んっ…、あの人と、両思いになったんだろ?」
「…うん。僕、自分の気持ちに気づいてなかったから…。そのことも…ごめ…」
「だからっ、謝んなくていいって。ルカが幸せならそれでいーの。だって俺達、一番の友達だろ?」
「…うん」
「なっ。じゃあ一番の友達のルカ。もうすぐ夏休みじゃん?今度はさ、俺ん家の海の近くにある別荘に行こうぜ」
「…うん。リツ、ありがと」
「おうっ」


ニッコリと笑うリツに、僕も笑顔を向ける。


初めは、とても鬱陶しく思っていたリツだけど、僕はずいぶんと助けてもらった。いつか、リツが困った時には助けたいと思う。何の力もない僕では、役に立たないかもしれないけど。


僕も席に座ると、リツが振り向いて心配そうに僕を見た。


「ルカ…俺の背中、どうだった?姉ちゃんにさ、『あんたの走り方は乱暴だから、ルカ君は疲れたんじゃないの?』って怒られた…。ルカ、正直に言ってくれ…」


色々と助けてもらったリツに、本当のことを言っていいものかと迷うけど、嘘はつけない。だから、僕は正直に言った。


「うん…、ちょっとだけ、身体が痛くなった。でも、リツは初めて人を乗せたんじゃないの?だったら仕方がないよ。でも、リツの毛並みは気持ち良かったよ」


肩を落としてこちらを見るリツに、ニコリと笑ってみせる。


ーー本当に。リツの毛並みは気持ち良くて、暖かくて、僕はとても安心したんだ。


リツは、大きく溜め息を吐いて俯いた。


「そっか…。早く走れるだけじゃダメなんだな。俺、もっと上手く乗せて走れるようになる。だからルカ、また乗ってくれる?」
「いいよ。というか、また乗せてくれるの?」
「もっ、もちろんっ!俺、頑張るからっ」
「ふふ、ありがとう…」


笑う僕を見て、リツが顔を赤く染めて照れ笑いをする。
今までと同じように、優しく明るく接してくれるリツ。だけどもう、僕に決して触れない。触れようとしない。
リツの想いを断ったのは、僕だ。だからこれは、当たり前のことだ。
以前より少しだけぎこちなくなったリツの態度。それを少し寂しいと思ってしまうのは、僕の我が儘だ。


無言でリツを見る僕に、リツが問うように首を傾げる。
その時、前の扉が開く音がして、白シャツに黒いズボン姿のロウが入って来た。
僕と目が合い、微かに目を細める。今まで何とも思わなかった、そんな些細なロウの仕草に、ドキリと心臓が跳ねた。


これが、好きということなんだ。ロウの仕草一つ一つに、ドキドキとして目が離せない。


僕は知らず知らずのうちに、頬を緩めてロウを見つめていたらしい。
だから、リツが赤い瞳の奥に暗い色をたたえて僕を見ていたことに、ちっとも気づかなかった。
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