たゆたう青炎

明樹

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熱い。身体の中も外も、実際に燃えてるんじゃないかと思うくらいに熱い。
ふと顔を上げて周りを見ると、何も無い真っ白な場所。俯いて自分の両手を見る。熱いけど、本当に燃えてるわけではない。その手で同じく熱い顔に触れても、少し温度の低いいつもの肌だ。
座っていた僕はゆっくりと立ち上がり、もう一度周りを見て、どうしたものかと途方にくれる。
長い溜め息を吐いて、ついさっきのロウとリツの異常な姿を思い浮かべた。
ロウは、僕にはもちろん従順だったけど、青蓮家の誰に対しても従順だった筈だ。なのに、ルキに対して攻撃するなんて…。ロウは、どうかしてしまったんだろうか。それとも、さっき目にした光景は、僕の悪い夢だったんだろうか。


俯いた僕の目から雫が落ちて、真っ白い地面に消えていく。
もう、辛い現実は見たくない。僕はこのまま、ずっと、ここにいたい。


全身が熱く喉が渇いて水が欲しい。きっと、このままでいたら、僕は身体から水分が抜けて、干からびてしまうだろう。それでもいいや…と、フラリと身体が傾きかけた僕の腕を、誰かが柔らかく掴んだ。


「大丈夫?」


優しい声に顔を上げると、目の前に、僕より少し年上くらいの男の人がいた。
もう片方の手も添えて、僕の身体を支えてくれる。
何とか踏みとどまった僕は、彼を見て首を傾げた。


「…だれ?」
「ふふ、怪しい者じゃないよ。俺の名前は、黒条 カイ。今から五百年前の…変身出来ない人狼だ」
「五百年前…」
「そうだ」


カイは頷くと、右手で僕の頬に触れ、息がかかる程に顔を寄せた。


「ふ~ん…、綺麗な青い瞳だね。俺は黒一色だから、羨ましいよ」
「あなたの瞳も、宝石のようで…綺麗です…」


カイは、一瞬目を大きく見開いて、破顔した。


「そっかぁ、ありがとう。君の瞳を見てわかったけど、君は優しいね。その優しい君を、そんなに悲しませてる理由は何?」
「あ…そ、れは…」
「ん…、辛ければ無理に話さなくてもいいよ。俺もね、辛い思いをしたことがある。君の気持ちは、少しはわかるつもりだよ。君に力を貸してあげたいけど、それは出来ないんだ、ごめんね。でも…俺は嬉しいよ。もう二度と、俺みたいな人狼は現れないだろうって思ってたけど、五百年振りに君が現れた。つい珍しくて見に来てしまった。…ああ可哀想に、身体が熱いんだね…」


ハァハァと熱い息を吐き、ポタポタと汗を落とす僕を見て、カイが苦笑する。


「今、君の身体の中で、細胞が作り変えられてるんだよ。もうしばらくかかると思うけど、ちゃんと耐えてね?その熱が引くと、君は人狼界最強の、青狼になる」
「…最強?僕が?」


カイが服の袖で僕の汗を拭いて、そっと抱き寄せた。


「そう、最強。だって全ての人狼が、君の命令を聞くんだよ。君に逆らえる奴なんていない。君を悲しませる原因のモノだって、簡単に消すことが出来る」


カイの少し冷たい手が、僕の首筋に触れて、ホウッと息を吐く。
そんな僕にクスリと笑って、カイが耳元で囁き続ける。


「ねぇ君、これからは周りに気をつけるように。人狼界のほとんどの者が、俺の存在を忘れてしまっているけど、中には覚えている奴等もいる。君が力に目覚めたという噂は、もうすでに人狼界に広まりつつある。俺と同じ力を持つ君を、厄介だと狙う人狼が必ず現れる。黒条の者が君を守るだろうけど、油断しちゃダメだよ。俺は油断して……。まあ、俺のことはいいか。とにかく俺は、君が現れてくれて嬉しいよ。次に目覚めた時には、君は新しく生まれ変わっている。これからは、君の感情の赴くままに動けばいい」
「僕の…気持ちの、まま…?」


カイが更に僕を強く抱きしめる。
カイの腕の中は心地よくて、とても落ち着く。
僕は、カイの言葉を聞きながら、そっと瞼を閉じた。
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