たゆたう青炎

明樹

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ルカ様が、黒い狼と共に俺の目の前から去った直後から、俺の胸の中にポッカリと穴が開いてしまった。
ルカ様が生まれた瞬間から、片時も傍を離れずにお世話をしてきた。大事に慈しんできた。年を経るごとに美しく成長するルカ様を、ずっと愛してきた。


俺の存在する理由の全てであるルカ様。あなたが俺の前から消えて、しかも俺を助けるなどと言う、俺にとっては耐え難い理由で消えてしまって、俺はどうすればいいかわからなくなってしまった。


青蓮家に運び込まれた俺は、数日は生きる屍のように、誰の言葉にも反応を示さず、飲み食いもせず、ただぼんやりと空を見つめて過ごした。


ルイ様は、俺を見て呆れていたらしいが、「そのうち元に戻るだろう」と言って、奥様と出掛けてしまわれたそうだ。
ルキ様は、心配して毎日俺に話しかけてくれた。


ルカ様が去って四日目に、ルキ様が、赤築の人狼…リツと言う名だったか…を連れて部屋に来た。
彼も憔悴した顔をしてはいたが、驚いたことに、あの次の日から、ルカ様を捜し回っていたらしい。
赤築は、部屋に入って俺を見るなり、いきなり飛びかかってきた。


「てめぇっ!何してるんだよっ!なんでルカを捜しに行かないんだよっ!こんな所でぼんやりしてる場合じゃねぇだろうがっ」
「リっ、リツさんっ」


俺の上に馬乗りになって、シャツの襟を握りしめる赤築の腕を、ルキ様が慌てて掴む。


「ロウは、兄さんがいなくなったショックがとても大きいんですっ。かけがえのない存在だったから…、動きたくても動けないんです…っ」


チラリとルキ様を振り返って、赤築が俺の上から身体を退かす。ルキ様を見た後に俺を見て、クシャリと顔を歪ませた。


「俺だって…ルカが大事だったんだ。あの時、俺は先生と違って動けたのに、あの黒狼とルカを止めれなかった。目の前で連れて行かれるのを、黙って見てることしか出来なかったっ。裏切るようなことをした俺を、ルカは、それでも友達だと言ってくれたのに…っ」
「赤築…」


肩を震わす赤築が、ポツリと呟いた俺の言葉に顔を上げる。


「俺は…ルカ様がいたから、全てのことを人一倍頑張ってやって来れたんだ。毎朝あの人を目にするだけで、俺はその日一日、幸せだった。ルカ様がいなくなることで、自分がこんな風になるなんて、知らなかった…。まるで、身体の機能が停止してしまったみたいだ。赤築…俺はどうしたらいい?」
「はあっ?そんなの決まってるだろうがっ!…うっ、ずっ…、ル、ルカを捜して連れ戻すんだよっ!」


赤い瞳を更に赤くして、鼻水をすすりながら俺を怒鳴りつける。
彼のそんな姿に、停止していた身体の機能が動き出した気がした。


ーーなんとなく…なんとなくだが、誰にも心を開かなかったルカ様が、彼には開いた理由がわかった。


俺は、仰向けに倒れていた身体をゆっくりと起こし、赤築を鋭く睨む。


「赤築、さっきから黙って聞いていたが、誰に向かってそんな口を聞いている?おまえに言われなくとも、俺が必ずルカ様を捜し出して連れ帰る。くれぐれも邪魔はするなよ」
「はっ!いきなり何だよっ。さっきまで死にそうな顔をしてたくせに。絶対に俺が先にルカを見つける!そんでもって、今度こそ俺を選んでもらうからなっ」
「いいだろう。望むところだ」


睨み合う俺達を見て、黙って成り行きを見守っていたルキ様が、俺と赤築の間に飛び込んできた。


「ぼ、僕も手伝うっ!しばらくは父さんも母さんも帰って来ないから、自由に動けるよ?だからお願い、僕にも手伝わせて?」
「いいですけど、危険なことはダメですよ?」
「うんっ、わかった!」
「…なんか、ルカとは正反対な弟だな…」


赤築に上に乗られたことは、後日仕置きをするとして、とても不本意だが協力し合うことに決めた。
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