たゆたう青炎

明樹

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七月も終わりに近づいたある日、今日もルカ様を捜す為に、赤築の邸に向かっていた。
まだ朝も早い時間だというのに、肌に刺さる陽射しが痛い。この暑さの中、ルカ様はどうしているのだろうか?


ルカ様は、暑さに弱い。白い肌は、強い陽射しに当たると赤く腫れてしまう。帽子も被らずに太陽に晒されたら、すぐにフラフラと身体が揺れ出すのだ。
ちゃんと快適な場所で過ごされているだろうか。


今までもそうだったが、本当に四六時中、俺の頭の中はルカ様で一杯だ。


赤築邸に続く緩い坂道を登りながら、ルカ様の笑顔を思い浮かべる。
想いが通じ合ってから、頻繁に愛らしい笑顔を俺に向けてくれるようになった。あの笑顔を悲しみに変える奴は、誰であろうとも許さない。


両拳を握りしめて、赤築邸の門を潜る。入ってすぐの所で、赤築が木に凭れて待っていた。


「遅いよ先生。三十分も前から待ってたんだぜ」
「…時間通りだと思うのだが…。まあいい。今日は東の方に少し足を伸ばそうと思う」
「わかった。前に、俺が一瞬だけルカの匂いを感じた場所だよな。俺もあの辺が一番怪しいと思う」
「おまえのその野生の勘だけは、褒めてやるよ」
「え、ありが……、褒めてないよねっ?」



フッと赤築を一瞥して、門へ足を向ける。
実に癪なのだが、こいつと行動を共にしていると、ルカ様のいない虚無感に落ち込んでいる暇は無く、必ず俺が捜し出してやるという、強い気持ちが湧いてくる。
ルカ様が見つかった暁には、お礼を言ってやってもいいかもしれないと、密かに頷いた時だった。


「なぁ、あんた達、青蓮の変身出来ない人狼を捜してんの?」


キャップ帽を目深に被り、大きなマスクを付けた、ルキ様と同じ年くらいの少年が、門の内側の塀に背中を預けて、こちらを見ていた。
帽子から覗く黒い髪に黒い瞳。ルカ様を連れて行った、あの黒い人狼と同じだ。


「おまえ、その人狼の行方を知っているのか?」
「知ってるよ。だって、僕の黒条家が連れて行ったんだもん」
「「黒条…?」」


訝しげに出した俺と赤築の声が、重なった。


少年は、塀から離れて俺と赤築の真正面に来た。俺達を見上げて、また話し出す。


「やっぱり知らない?寂しいなぁ。昔には、全ての人狼族のトップにいた一族なんだよ?その人狼…、青蓮ルカだっけ?ルカは、やっぱり青蓮じゃなく黒条に生まれるべきだったよね」


コテリと首を傾けて笑う仕草は、とても愛らしいのだけど、その目は子供らしくない薄ら寒さを感じる。
俺は、努めて冷静に、少年に尋ねた。


「ルカ様を連れて行ったのは、黒条という一族なのだな?そいつらは、ルカ様をどうしようというのだ。ルカ様に、乱暴などしていないだろうな」
「乱暴?そんな野蛮なことはしないよ。だってルカは、黒条にとって大切な人狼だからね」
「どういうことだ?」


少年は、西洋人がよくそうするように、両掌を上に向けて肩をすくめ、呆れたように笑った。


「あはっ!ホント、他の人狼族ってなーんにも知らないんだね。ルカはすごいんだよ?唯一無二なんだよ?でも心配しないで。黒条で、大事に大事に預かるから」
「おまえと話していても時間の無駄だな。早くルカ様の居場所を教えてくれないか?」
「なんで?」
「おまえ、最初にルカ様を捜してるのかと聞いてきたじゃないか。教えてくれるんじゃないのか」
「教えるわけないじゃん。バカなの?」
「黙って聞いてりゃあ、このクソガキっ」
「赤築っ」


少年に容赦なく飛びかかろうとする赤築を、左腕を伸ばして制する。
「クッ…」と歯を食いしばって、赤築は少年を睨んで踏み止まった。


「じゃあ、何しに来たんだ」
「んー?おじさん達と遊んであげようと思って。ねぇ見て。僕の顔、誰に見える?」
「なに?」


少年が、おもむろに帽子とマスクを外した。こちらを見上げて笑ったその顔は、ルキ様にそっくりだった。


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