たゆたう青炎

明樹

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青蓮家の邸を出ると、赤築家から来たらしい迎えの車がすでに門の前で止まっていた。俺が近づくと、後ろのドアが開いて、赤築 リツが顔を覗かせた。


「先生、迎えに来たぜ。早く乗って」
「…悪いな」


 赤築が横にずれて、開いた席に乗り込んでドアを閉める。すぐに車がスムーズに動き出して、俺は背凭れに深く身を沈めた。


「なぁ、姉ちゃんからのメール見た?」


チラリと横目で赤築を見て、すぐに前に視線を戻して迫り来る木々を眺める。


「ああ、見たよ。興味深い話だ」
「だよな。もっと早くに知ってたら、ルカを守れたかもしれないよな…」
「そうだな…」
「俺さ、ルカが心配で何にも手につかないんだ…」
「夏休みの課題は、ちゃんとやっておけよ」
「ええ!無理だっ!そんな気になれない」
「おまえの場合、わからないからじゃないのか?」
「そ!…んなこと、あるけど…。ルカが戻って来たら、一緒にするっ」
「ルカ様とおまえじゃ、頭の出来が違う。ルカ様はすぐに終わらせられるが、おまえは間に合わないぞ」
「…くっ!先生って、ほんとにルカ以外には冷たいよね…」
「当たり前だ」


赤築が、眉尻を下げた情けない顔をして、シュンと俯く。
やっと静かになった赤築には目もくれずに、俺はそっと目を閉じた。




ルカ様が小さい頃に、真夜中に邸を抜け出して、俺の背中にルカ様を乗せてどこまでも行ったことがある。
その時の、森の中を駆ける俺の背に乗ったルカ様を思い浮かべる。滑らかな白い頬を俺の背につけて、細い腕で俺にしがみつくルカ様の重みが、愛おしくて堪まらなかった。



ルカ様、今、どうされているのだろうか。
早く、会いたい。


「先生、着いたよ」


肩を揺すられて、ハッと目を覚ます。
車に揺られてルカ様のことを考えているうちに、眠ってしまったようだ。
俺は、背凭れから身体を起こすと、大きく息を吐いて車を降りた。


赤築の後について、赤築邸の中に入る。
案内された場所は、前に赤築と共に寝かされていた、あの和室だった。
部屋の真ん中に黒壇の大きな机が置かれ、縁側を背にして、すでに赤築先生が座っていた。


「青砥先生、ご足労様です。どうぞ、こちらへ…」


赤築先生が、床の間の前の席を俺に示した。
俺は軽く頭を下げて、示された席に座る。
 そして俺の隣に、当たり前のように赤築が座った。


「ちょっとリツ、あんたなんでそこに座るの」
「いいじゃん。どこに座っても。姉ちゃん、早く話して」
「…もう」


苦笑いをしながら溜息を吐いて、赤築先生が俺に向き直って話し出した。
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