たゆたう青炎

明樹

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「メールでも軽く説明したけど、聞いてちょうだいね。赤築家には、私とリツの祖父に仕えていた、かなりの年の人狼がいてね。祖父よりも年上だったから、何か知ってるかもと思って訪ねて行ったの」
「その方が、ルカ様のような人狼の話を知っていたのですね」
「そう。五百年もの昔に、変身出来ない人狼がいたということをね。そしてその人狼が、ある能力を持っていて、その能力でもって他の人狼族を支配していたらしいと…」
「その人狼が、黒条家の者だったのか…」


そこまで話した時に襖が開いて、使用人がお茶と和菓子を盆に乗せて入って来た。
手早く机の上に並べて、静かに出て行く。
俺は、透明なガラスで出来た丸い形のコップを持って、よく冷えた緑茶を一口飲んだ。

「だからあの黒条の人狼は、ルカを欲しがったんだな。昔に自分の一族に同じ能力の人狼がいたから、ルカも能力を持ってるって知ってたんだ。ずっと狙ってたんだ!」


赤築は一気にまくし立てると、和菓子を指で摘んで口の中に放り込んだ。
その様子を苦い顔で見て、赤築先生が、厳しい声でたしなめる。


「リツ!行儀の悪いっ。ちゃんと楊枝があるでしょうが。もう…っ」
「姉ひゃん、うるへー。話終わっらんなら、はひゃくへんへいとルカを連れもろすそうらんを…」
「リツ!食べ終わってから喋りなさいっ」


ふん、とそっぽを向く赤築を見て、知らず知らずに、ふ…と笑みが漏れる。


ルカ様も俺が注意をすると、よく口を尖らせて文句を言ってきた。あの方の怒った顔が可愛くて、 何度でも見たくて、どうでもいいことで頻繁に注意をしていたものだ。


ルカ様を思い出していた俺を見て、赤築が怪訝な顔で覗き込んできた。


「センセー…、気持ち悪いんだけど。今、俺のこと、慈しむ目で見てなかった?」
「は?誰が?誰のことを?おまえ…ふざけたことを言ってると、二度とルカ様の前に出れないようにしてやるぞ…
「こ、こわっ!え?先生が生徒を脅していいの?それってパワハラじゃね?姉ちゃんも見てただろっ?
「…今のはあんたが悪いわ」


 助けを求めて、赤築先生の方へ手を伸ばした赤築を、赤築先生は呆れた顔で見た。


「チッ、ちょっと揶揄っただけじゃねぇか…。先生がそんな顔をしてる時は、何を考えてるかなんて、よくわかってるよ。ルカのことを考えてたんだろ?ずっと一緒に過ごしてきたルカのことを…。いいよな、先生は。いろんなルカを知ってて。俺もルカのこと、もっと知りたい。いろんな思い出作りたいっ。だから黒条に利用される前に、早く連れ戻そうぜ」


真剣な表情で力説する赤築に、俺の口元を指で指して教えてやる。


「口の端に何か付いてるぞ。おまえはいつもどこか抜けている。…でも、おまえのそういう所に安心して、ルカ様は心を開かれたのかもな。当然、一刻も早くルカ様を連れ戻したいさ。だけど、黒条一族がどこに潜んでいるのかが、全く掴めない…」
「そのことなんだけどね、黒条一族の話をしてくれた人狼が、たぶん隣町にいるんじゃないか、って言ってたの。人狼同士って、会えばどこの人狼か、大体わかるじゃない?でも黒条の名前は知られていないから、もし会っても、どこにも属していない逸れた人狼なんだな…って、普通は思うの。でも、黒条を知ってた彼は、街で見かけてすぐに黒条の人狼だとわかったらしいの。長い間隠れていた一族だから忘れかけていたけど、こんな所にいたのかと、不思議に思ったみたいよ」
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