たゆたう青炎

明樹

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たゆたう青炎

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僕は部屋に入るなり、羽織っていた黒いマントを脱ぎ捨てて、そのままベッドの上に飛び乗った。


エアコンも点いていない蒸し暑い部屋の中だというのに、僕の身体はカタカタと小刻みに震えていた。
両手で自分の身体を抱きしめ、猫のように丸くなって固く目をつむる。
閉じた瞼の裏側に赤い血の色が広がって、胃がせり上がってくる感覚に慌てて身体を起こすと、部屋を飛び出した。


震える足を前に出して何とかトイレに辿り着き、便器にしがみついて胃の中の物を全部吐き出した。
でも、昨夜に今日の作戦を聞いてから、僕はろくに食べ物を口にしていない。胃はキリキリと痛むのに、喉の奥から吐き出されるのは、透明な粘つく液体だけだ。


喉が痛くなりもう吐くものも無くなって、床に座り込んで虚ろな目で壁を見つめる。ポタポタと顎から滴り落ちる雫が、涎か汗か、それとも涙なのか、僕にはもう、何が何だかわからなかった。



今日僕は、何の恨みも無い人達を傷付けてしまった。血を流す二人を見て、僕はとんでもないことをしてるのじゃないかと、怖くなった。だけど、引き返すことなど出来ない。僕に拒否権はないんだ。



ようやく落ち着いた僕は、ノロノロと立ち上がり、トイレの水を流して廊下に出た。壁伝いにゆっくりと歩いて部屋に戻り、部屋の中にある小さな洗面台で顔を洗った。


ぼやけた瞳で、目の前の鏡に映る顔を見た。
驚く程白い顔に、自分でもゾッとする。まるで幽霊のような顔の中で、目だけはいつもにも増して青く光っている。
その目から避けるように顔を逸らして、洗面台の横にある棚からタオルを取る。無造作に顔を拭くと、再びベッドに身を投げ出して、まだ震えている身体を隠すように、薄い布団を身体に巻き付けた。


トウヤさんに許可をもらって、家に荷物を取りに戻ろうとしたあの日、赤築家の前で、ロウとリツがルキを襲っていると思い込んだ僕は、力に目覚めた。
そして、燃え尽くされてしまうのではないかと思うくらいの熱に包まれて、長い時間、眠り続けた。


ようやく熱が引いて目を覚ました時には、僕の腕から管が伸びて、点滴のパックが繋がれていた。
手を持ち上げてじっくりと見ても、何ら変わったところはない。自分の顔をペタペタと触っても、いつもと同じ感触だ。
僕は、大きく深呼吸をして、ゆっくりと身体を起こした。


きっと長い間寝ていた筈なのに、頭痛もなく身体に痛むところもない。
僕は、腕に刺さる点滴の針をそっと抜いて、ベッドから足を下ろした。
足に力を入れて立ってみるけど、ふらつくこともなく歩けそうだ。喉が乾いたしお腹も空いた。ダンに何か作ってもらおうと思い、部屋の取っ手に手をかけようとしたその時、ガチャリとドアが開いた。
咄嗟に当たらないよう、後ろに下がる。
ドアから顔を覗かせたダンが、目を見開いて驚いた顔をした。
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