90 / 95
2
しおりを挟む「ああ…目を覚まされたのですね。良かった。そのように立ち上がっても大丈夫なのですか?」
「…うん。大丈夫みたい。ねぇダン、お腹が空いたんだけど、何か作ってくれる…?」
「ええ、いいですよ。何が食べたいですか?」
「パンケーキ…」
「ふふ、わかりました。ではリビングに行きましょうか」
優しく笑うダンに背中を支えてもらいながら、リビングへと向かう。
リビングに向かう間に、ダンから、僕が三日間眠っていたこと。大変な高熱を出して、さすがのトウヤさんも心配していたこと。食事はもちろん、水分も口にしないから、仕方なく点滴をしたということを聞いた。
いつも食事を摂る大きなテーブルの前の椅子に座り、キッチンでパンケーキを焼くダンの後ろ姿をぼんやりと見る。
目はダンの姿を映しているけれど、頭の中では、あの日のロウとリツの倒れる姿、そして遠のく意識の中で、トウヤさんが言った言葉が反芻される。
『こんなに上手く覚醒させることが出来るとは思わなかった。コウタは想像以上の活躍をしてくれた』
ーー覚醒させる?僕は無理矢理、力を出させられたの?それにコウタって誰?もしかして僕がルキだと思った男の子が、コウタ…?
部屋に充満する甘い匂い。いつもは気持ちが浮き立つ大好きな甘い匂いなのに、僕の心は沈んだままだ。
僕の中に、トウヤさんに対する疑念が生まれる。
僕が力に目覚めるまで待つと言ったのに。あれは嘘だったのか。僕を覚醒させる為に罠にかけて、あれ程会いたかったロウに力を使ってしまった。しかも僕を目覚めさせる為に、自分の一族の子供を囮にさせたのではないのか。致命傷ではなかったのかもしれないけど、あの子はかなりの大怪我をしていたんだ。
冷静に考えてみれば、ロウとリツは、子供に手を出したりはしない筈だ。ルキそっくりのあの子を襲わせる為に、トウヤさんが何かをしたのだ。
でも、それでも、ロウとリツには、あの子を傷付けて欲しくなかった。あの子はルキではなかったけれど、僕はやはり二人を止めて正解だったのだろうか?
頭の中を、疑念と後悔がグルグルと渦巻く。
「どうぞ。お召し上がりください」
コトリと音がして、目の前に甘い香りのパンケーキが乗った皿が置かれた。パンケーキの皿の横に、いちごジャムと生クリームが乗った小皿と、ハチミツも置かれている。
僕は緩く頭を振ると、手を合わせてナイフとフォークを持って食べ始めた。
口の中に広がる優しい甘さに、一瞬、心が軽くなる。だけど、またすぐに重くなって、ダンに気づかれないように密やかな溜息を吐いた。
気が重いながらも、お腹が空いていたのもあって、皿に乗せられていた分は全部食べた。お代わりを勧められて、「もういい…」と首を振り、ダンを見た。
「何か?」
「ダン…、僕が倒れた日の出来事、詳しく知ってるんでしょ?僕の弟にそっくりのあの子は、黒条家の人狼だね?」
「そうだ」
僕の質問に答える低い声が、僕の背後から聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる