たゆたう青炎

明樹

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「ああ…目を覚まされたのですね。良かった。そのように立ち上がっても大丈夫なのですか?」
「…うん。大丈夫みたい。ねぇダン、お腹が空いたんだけど、何か作ってくれる…?」
「ええ、いいですよ。何が食べたいですか?」
「パンケーキ…」
「ふふ、わかりました。ではリビングに行きましょうか」


優しく笑うダンに背中を支えてもらいながら、リビングへと向かう。
リビングに向かう間に、ダンから、僕が三日間眠っていたこと。大変な高熱を出して、さすがのトウヤさんも心配していたこと。食事はもちろん、水分も口にしないから、仕方なく点滴をしたということを聞いた。



いつも食事を摂る大きなテーブルの前の椅子に座り、キッチンでパンケーキを焼くダンの後ろ姿をぼんやりと見る。
目はダンの姿を映しているけれど、頭の中では、あの日のロウとリツの倒れる姿、そして遠のく意識の中で、トウヤさんが言った言葉が反芻される。


『こんなに上手く覚醒させることが出来るとは思わなかった。コウタは想像以上の活躍をしてくれた』


ーー覚醒させる?僕は無理矢理、力を出させられたの?それにコウタって誰?もしかして僕がルキだと思った男の子が、コウタ…?


部屋に充満する甘い匂い。いつもは気持ちが浮き立つ大好きな甘い匂いなのに、僕の心は沈んだままだ。


僕の中に、トウヤさんに対する疑念が生まれる。
僕が力に目覚めるまで待つと言ったのに。あれは嘘だったのか。僕を覚醒させる為に罠にかけて、あれ程会いたかったロウに力を使ってしまった。しかも僕を目覚めさせる為に、自分の一族の子供を囮にさせたのではないのか。致命傷ではなかったのかもしれないけど、あの子はかなりの大怪我をしていたんだ。


冷静に考えてみれば、ロウとリツは、子供に手を出したりはしない筈だ。ルキそっくりのあの子を襲わせる為に、トウヤさんが何かをしたのだ。
でも、それでも、ロウとリツには、あの子を傷付けて欲しくなかった。あの子はルキではなかったけれど、僕はやはり二人を止めて正解だったのだろうか?


頭の中を、疑念と後悔がグルグルと渦巻く。


「どうぞ。お召し上がりください」


コトリと音がして、目の前に甘い香りのパンケーキが乗った皿が置かれた。パンケーキの皿の横に、いちごジャムと生クリームが乗った小皿と、ハチミツも置かれている。


僕は緩く頭を振ると、手を合わせてナイフとフォークを持って食べ始めた。
口の中に広がる優しい甘さに、一瞬、心が軽くなる。だけど、またすぐに重くなって、ダンに気づかれないように密やかな溜息を吐いた。


気が重いながらも、お腹が空いていたのもあって、皿に乗せられていた分は全部食べた。お代わりを勧められて、「もういい…」と首を振り、ダンを見た。


「何か?」
「ダン…、僕が倒れた日の出来事、詳しく知ってるんでしょ?僕の弟にそっくりのあの子は、黒条家の人狼だね?」
「そうだ」


僕の質問に答える低い声が、僕の背後から聞こえた。
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