たゆたう青炎

明樹

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僕はゆっくりと振り返る。いつの間に入って来たのか、トウヤさんが、後ろの壁に腕を組んで凭れて立っていた。


「そうだ。ルカの言う通り、あの子はコウタという名の黒条の人狼だ。俺と薄く血が繋がっている。まだ子供だけどその辺の大人よりも優秀で強い。でもさすがに、青蓮と赤築のあの二人には、歯が立たなかったようだ。手を抜いてやられるフリをしろと命令していたが、『全力出したのに強かった』と愚痴っていたよ」
「…あの子は、無事なの?」
「ルカが眠っていた間に、傷口も塞がって、もう歩き回ってるよ」
「そう…」


僕は顔を伏せて、ホッと息を吐く。
トウヤさんが、壁から離れて歩いて来て、僕の向かい側の席に座った。テーブルの上に肘を置いて両手を握り、僕を真っ直ぐに見つめて口を開いた。


「さて、青蓮ルカ。おまえは、最強の力を手に入れた。いよいよ我が黒条家の為に、力を貸してもらおうか」


トウヤさんの言葉に、僕はゆっくりと顔を上げて、小さく首を横に振る。
一瞬、鋭い目をしたトウヤさんが、「なぜ?」と低く呟いた。


「僕は、あなたを信用してたのに、信頼出来る人だと思っていたのに、僕を騙すようなことをした。僕の力を引き出す為に、仲間の、それもまだ子供を利用した。僕はあなたを不審に思ってしまった。こんな気持ちでは、とてもあなたや黒条の為に、力を貸そうとは思えない…」


テーブルの下の両拳に力を入れて、僕は一息に言った。
はあっ、と大きく溜息を吐いて、トウヤさんが冷たく笑う。


「なら仕方ないな。こういうやり方は嫌だけど、ルカが素直に言うことを聞いてくれないのだから。ルカ、今度こそおまえの弟がどうなってもいいのか?」
「なっ、なに?どういうことっ?」


僕は、ビクンと肩を震わせて、両手を机に乗せて身を乗り出した。


「もう普通に動けるようになったコウタに、ルカの弟を見張らせている。もしもルカが、俺の言うことを聞かない時は、弟を襲うように言ってある。さあルカ。これを聞いてどうする?力を貸してくれるか?」
「……なにを…すれば、いいの…」


僕は、脱力した身体を椅子の背もたれに凭れさせて、掠れた声を出した。


「明後日の夜、四大名家が集まる会合が、赤築家所有のホテルで開かれる。そこに行って、各家の当主を操るのだ」
「四大…。操る?」
「そうだ。何も全人狼を操らなくとも、その四家を従えればいいことだからな。おまえに断ることなど出来ないと思うが、明後日まで考えるといい。おまえの父親も操ることになるのだから」


それだけ言うと、トウヤさんはダンにコーヒーを淹れるように頼んで、テーブルに置いてあったタブレットを手に取った。
僕は、すっかり氷の溶けたアイスティーが入ったグラスを手に持つ。グラスを覆った水滴が、ポタポタと僕のスボンに落ちて染みを広げていく。その染みを見つめながら、機械的にアイスティーを飲み干すと、緩慢な動作で立ち上がり、ノロノロと歩いてリビングから出た。


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