銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「旅かぁ、いいなぁ。俺もゆっくり旅をしたい」

 ネロがフィル様と共に椅子に腰掛けて、うらやましそうに言う。
 俺の話を聞いて、つい口にした言葉だろうが、フィル様が気にされるだろうがと思わず舌を打ちそうになる。
 だが、それほどフィル様は気にしていない様子で聞き返したので、俺は安堵あんどした。

「旅はいいよね。この城から出された時にリアムと出会って旅をしたんだ。楽しかったなぁ」
「あ…聞いたよ。殺されかけたんだろ?大変だったな」

 眉じりを下げて聞くネロに、フィル様が笑って頷く。

「ふふっ、そうそう、大変だった。だけど覚悟もできてたから怖くはなかった。それにね、城を出されたからリアムと出会えたと思うと、今までの全ての事柄ことがらに感謝しかないんだ」
「フィルは強いな。絶対に幸せになれよ!」
「もちろん。ネロも無理しすぎないでね。困ったことがあったらしらせて。すぐに駆けつけるから」
「わかった。頼りにしてる」
「うん。それと王としてのやるべき事が落ち着いたら、他国の情勢を見る名目でいろんな国に行ってみたらいいと思う、トラビスとお忍びで」
「そうだな、そうす……え?なんでトラビスっ?」
「だってお互い想いあってるでしょ?トラビスは剣の腕もあるから護衛に最適だしね」
「え?想い……え?」

 赤面するネロを、フィル様がにこやかに見ている。
 いつもそうだ。フィル様は、自身ではなく誰かが幸せだと嬉しいのだ。
 フィル様が幼い頃に、騎士の誰かに恋人ができたとか、使用人の誰かが結婚したとかの噂話を聞いては、顔もよく分からない人達の幸せに喜んで、かわいらしく笑っていた。俺からすれば、そんな話、心底どうでもいいのだが。俺は、フィル様が幸せになることだけを願っていたから。
 フィル様は「ラズールにも大切な人ができるといいねぇ」とよく言っていたが、それに対して肯定はできなかった。大切な人ならば、すでにいる。目の前に。直接口に出して言ってもいた。しかしフィル様の目には、俺は家族のような存在としてしか映っていなかった。それでも良かった。バイロンの第二王子が現れるまでは。
 フィル様とネロ、トラビスが話しているのをぼんやりと見つめていると、いきなりフィル様がこちらを向いた。

「ラズール、庭に行かない?後で軽食を運んでくれるって」
「よろしいですよ。しかしお疲れではないですか?」
「庭で休むから大丈夫。それにラズールと話していると癒されるから」
「それは光栄です。では参りましょうか」
「うん」

 俺が差し出した手に、フィル様が手を乗せる。
 ネロとトラビスが何かを言い合い、それをなだめるレナードを置いて、フィル様の手を引き部屋を後にした。
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