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天狗の花嫁 7
しおりを挟む「お久しぶりでいいのかしら? 鉄の妹の茜です。あなたは、銀様のお嫁さんでいいのよね?」
「あっ、はいっ。凛と言います。よろしくお願いします」
慌てて頭を下げると、隣の銀ちゃんにふわりと髪の毛を撫でられた。
「ふふっ、仲良いのねぇ。銀様もお久しぶり。なんだか、兄様よりも幸せそうね」
茜さんは、この前は紺色のワンピースを着てたけど、今日の白地に小花柄のワンピースもよく似合っている。それに、茜さんもどことなく銀ちゃんに似た綺麗な顔をしている。
「茜に翠。久しぶりだな。改めて紹介する。俺が契約した花嫁の、凛だ」
銀ちゃんの紹介に合わせて、再びぺこりと頭を下げた。
すぐに頭を上げると、俺の目の前に座る翠さんと目が合った。白のブラウスに鮮やかな赤のスカート姿の彼女は、俺ににこりと微笑んだけど、目が笑ってないように見えて、俺の中に不安が広がる。
ーー俺の出自の事で、よく思われてないのかもしれない。皆んながみんな、祝福してくれるとは限らないよね…。
そう思って暗くなりかけたけど、明日はおめでたい日なのだから空気を暗くしちゃ駄目だと、俺も翠さんに笑い返した。
最初に乾杯をしてから食べ始める。チキンはハーブの香りが効いて、皮もパリパリとよく焼けていてとても美味しい。カボチャやレンコンなどの焼き野菜が乗ったサラダも美味しくて、どんどんと口に入れていく。パンも焼きたてらしく、ついつい食べ過ぎてしまった。
最後のデザートを食べ終わった頃には、俺はかなり苦しくて、銀ちゃんに凭れてゆっくりと深呼吸を繰り返していた。
「凛、大丈夫か?おまえ、普段の倍は食べたんじゃないか?」
「…だって…美味しかったから…。はぁ…、でも、晩ご飯はいらない…。明日の朝も…いらない…」
「まあ、食べれたら食べろよ?」
「無理…」
銀ちゃんと小声でやり取りをしていると、前からくすりと笑う声が聞こえた。
俺は少しだけ顔を動かして、前を見る。心配そうに俺を見る茜さんの隣で、翠さんが呆れた様子で俺を見ていた。
「あなた、男の子だものね。よく食べるわね。銀様の花嫁だったら、もう少しお上品に召し上がらないとね」
くすくすと笑いながら話す翠さんの目が、俺を明らかに見下している。やはり最初に感じた通り、俺の事は歓迎してないようだった。
「翠、言い方に気をつけろ。凛は美味いからたくさん食べただけだ。それに出されたものを残すのは、作ってくれた人に悪いと言って、なるべく残さないように食べるんだ。どうしても食べれない時は、俺に頼んでくる。今日全部食べたのは、それほど美味しかったからだろう?」
「うん…すごく美味しかった。鉄さん、ありがとう。ご馳走様でした」
「喜んでもらえて良かった。僕もこの料理は好きなんだ。楽になるまで休んでいくといい」
「うん…。でも、鉄さんは準備が終わってると言っても、やることがいろいろあると思う。だから帰ります。食事に誘ってくれてありがとう。明日、楽しみにしてるね」
「俺も、家でゆっくりと凛を休ませたい。慌ただしくて悪いが帰るよ。茜と翠も、明日な」
「ええ、お気をつけて」
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