炎の国の王の花

明樹

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俺は、怒鳴りそうになるのを抑えて続ける。

「そうか…。なぜ燃やした?」
「なぜ?特に理由なんてないけど…。強いて言えば、君の方が綺麗だと言われて苛ついたからかな?イライラして歩いてたらいっぱい燃えちゃった」
「そうか…。あともう一つ。なぜおまえは炎が出せる?」
「うーん…」

男は、顎に人差し指を当てて上を向く。
しばらく何かを考えている様子だったけど、顔を戻して笑った。

「ごめん。わからないや。なんでか出せるんだよ。こう掌を向けて『 燃やせ!』って念じると火が出る」

男の掌から、俺に向かって炎が伸びる。
俺も炎を出して、男の炎を弾き飛ばした。炎が湖に落ちて、ジュっと音を立てて消える。
男が驚いた顔で大きな声を出した。

「えっ!君も炎を出せるの?すごい!もしかして俺達は兄弟なのかな?」
「違う。俺に兄弟はいない。たぶん…おまえはこの世界の住人ではない。他の世界から来たんだ。無害な人物なら保護しようと思っていたけど、どうやら危険人物のようだ。悪いけど、俺と一緒に来てもらう。おまえを野放しにはしておけないし、いろいろと聞きたいこともある」
「えー。俺…自由を奪われるの嫌いなんだけどぉ」
「おまえが街を燃やすから悪いんだ。街の被害状況を見ておまえの処罰を決める。被害の大きさによっては、早く自由になれるかもしれない。…その逆もあるけど…」

男はまた、しばらく腕を組んで黙っていたけど、急に満面の笑顔を俺に向けた。

「ねぇ!街の人が言ってたけど、この世界で黒髪は尊いんだって?それでもって黒髪の人って、君一人しかいないんだってね?でも俺も同じ黒髪だ。だから、君と俺が入れ替わってもわからないんじゃない?」
「はあ?わかるに決まってるだろ。顔が違うんだから」
「でもさ、君の顔を知ってる人を全員殺したとしたら?或いは怪我をしたとかで顔を隠してたら大丈夫じゃない?」
「入れ替わってどうするんだよ」
「俺、王様になってみたい!ねぇねぇ、やろうよ!殺すのは面倒だし後味悪いから、顔を隠してさ」
「…ふざけるのもいい加減にしろっ!民も国も守る覚悟のない者が、上に立つなど有り得ない!」
「ちぇっ…」

男は口を尖らせて横を向く。
俺はシアンを呼ぶために、小さな火の粉を風に乗せて飛ばした。

俺は男に近寄り、腕を掴む。
男は大人しくついて来たけど、馬に乗る直前に腕を引いて俺の手を振り解いた。

「じゃあさ、力比べをしよう。勝った方が王様な!」
「はあ?」

俺は、心底疲れた。話が通じないというのは、こういうことか。それに俺と同じ歳くらいなのに、男の言動が幼稚過ぎる。
俺は大きな溜息を吐くと、「おまえ…何歳だ?」と聞く。

「あっ、それは覚えてるんだっ。十六歳だよ!君は?」
「同じだ…」
「へえっ!じゃあちょうどいいじゃん!やっぱり入れ替わろうよっ」

俺は更に大きな息を吐いて、深く項垂れた。


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