死体蹴りから成り上がり~勇者パーティーに殺された元最強冒険者は、スキル『下克上』を使い、蘇生魔法を使う魔王の娘と共に復讐を誓う~

斑塚レン

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1話:最強冒険者の成り下がり

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 世界から魔王が消えた、数百年後――。

 人間界を脅かす魔物が住まうという、数々のダンジョン。世界で唯一の『反スキル』を持つ者はキングと呼ばれ、その他の挑戦者は、総称として冒険者と呼ばれた。


 同時期、ダンジョン:『竜の横穴』第三六階層。

「目覚めて。最強の冒険者、ゼロ・エドウィン」

 このダンジョンでは、最深部に近づくにつれ保存期間が長くなる。数百年経過した現在でも残っているゼロの鮮血の上に立つのは、シルバーを主軸に金メッシュがかった髪を腰まで伸ばす、無愛想で小柄な少女。

 彼女が自分の指を傷つけ、血液を垂らすと、大きな魔方陣が地面に展開された。

「……復讐。復シュウ、フク讐、フクシュウ……!」
「思ったより闇が深いみたい」

 魔方陣の中心には、黒一色に染まるかつての最強冒険者の姿があった。

 人間の形をした、ただの漆黒。墨で塗りつぶされたかのような、どこまでも深い黒。

「……殺ス。殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス」
「これじゃ使い物にならない。ちょっと黙って」

 少女は自身の首に提げていたペンダントをぎゅっと握り、漆黒に手を伸ばした。
 すると彼を覆っていた闇は瞬く間にペンダントを黒く染め、かつての最強冒険者は元の理性を取り戻していた。

「あなたの闇は私が預かる。これで話せるようになったね」
「……ここは……ダンジョン? あれ、俺は……」

 三日間見続けた岩肌、洞窟を小さく照らす結晶。あの時受けた仕打ち、痛みは全て嫌と言うほど覚えているのに、飲み込まれそうになる程の怒りは沸いてこない。

 まるで、復讐心が抑制されているみたいに。

「……それよりも。腕がある! 足がある! 傷ついた体もなんともない、動ける……なんで生きているんだ!? ど、どうなってる!? このレベルの治癒魔法を使えるやつなんて存在しないし、ましてや蘇生なんて……! いや、もしかしてあれは夢……」

 目の前には、じとーっと見つめる銀髪金メッシュが一人。あいつらはどこにもいない。

「……じゃないよな」
「声に出すぎ。うるさい」
「あだっ」

 混乱し、感じたことを全て口にしてしまうゼロの頭をはたく少女。

「細かいことはどうでもいい。あなたは何も考えず、私と一緒に復讐すればいい」
「復讐……」

 短くも、楽しかった日々。それは全て仮初めで、ただゼロを嵌めるためだった。その事実は闇を取り除かれてもまだ尚、彼の怒り、悲しみ、絶望を増幅させていく。

「普段温厚な人ほど、怒ると怖い。あなたはまさにそれ」

 ゼロの右腕が黒く染まり、顔には竜の爪痕のような三本の黒いアザが浮き出る。
 綺麗な黒目は右だけ血のような赤となり、魔物のような容姿となったゼロ。

「はあ。もう人格が変わるところまできたんだ」
「うるせえ。僕を――いや、俺を早く奴らの所に案内しろ」
「命令しないで」
「は?」
「私に命令しないで。あなたを蘇生させたのは私。だから主人は私。あなたは奴隷」

 ゼロは大きく息を吐いた。
 蘇生魔法、蘇生スキルなど、この世には存在しないし、ガキの戯言に付き合っている暇はない。

「だったら死ね。俺は一人で生きていく」

 完璧とまではいかないが、対魔獣戦用に練習した高威力の風魔法。
 ヒュンッと空を切る音と共に、刃となった風が少女の首を切り落とす。

 という、ビジョンは見えていたはずなのに。

「な、どういうことだ……?」

 周囲の岩ごと切り裂くどころか、頬を撫でるような優しい風さえ出せていない。

「残念だけど、あなたに魔法は使えない。いや……今、魔法を使えるのは世界に五人だけ」

 先程と同じ、少女の戯れ言。ゼロは再び風魔法を展開しようと試みるが、やはりできない。
 焦りの表情を浮かべるゼロに、少女は続ける。

「その五人とは、『キング』シュード・ルシフェル、『魔女ウィッチ』フレイヤ・フリードール、『仏鬼シャーマン』ブラント・ロンド、『勇者』アドラ……そして、私」

 どうやら、目の前の少女はゼロを怒らせるのが得意らしい。魔法は生活に欠かせないし、個人差はあれど物心ついた頃には誰だって使うことができる。

 それを、あのクズ共とこいつしか使えないだって?

 ゼロは少女の冗談を鼻で笑い飛ばすと、か細い腕をぐっとつかんだ。

「どうやらお前は死にたがりみたいだな。さっき俺がお前を殺せなかったのは、魔力が薄れていたからだ。今度は確実に殺してやるよ」
「痛い。離して」

 対象に触れている際にのみ発動するスキル、『加速クイック』。これによって少女の血流は早くなり、内側から破裂させることができる。

 そう、ゼロの受けた痛みのように。

「……はあ?」

 またもや、少女はぴんぴんしている。スキルが発動した様子もない。

「諦めて。今のあなたに魔法やスキルは使えない。あなたはもう、最強でもなんでもないの。私に使われるだけの、ただの傀儡」

 ゼロは少女の言葉などまるで聞こえていないように、必死にスキルを発動し続ける。

「『察知』! 『幻影イリュージョン』! 『発光ライト』! 『魚釣フィッシング』……は意味がねえ!」

 近場の生物の気配は感じとれず、擬態ができない。体は光らないし、釣る魚……いや、まず水がない。

「くそっ、一体どうなってんだよ……!」
「もう、抵抗しない?」
「はあ?」
「抵抗しないか聞いているんだけど」

 いつになく高圧的な少女。ゼロは一瞬たじろぎ、

「あ、ああ」

 と心にもない返事をしてしまった。

「そう。なら、外に出よう。そこで色々教えてあげる。あなたが死んでいる間に起きたこと。そして、今の現状を」

 ゼロたち人類が滅ぼそうと躍起になっていた存在、魔族。ダンジョンを住み家とする彼らは、竜など様々な獣の姿として、独特なオーラを纏いながら現れる。

 そう、今の少女のように。

「そのオーラ……! お前……何者だ?」

 少女はその問いかけに足を止め、ゆっくりゼロへと振り返った。

「私は、ローネ・フリル。魔族と人類のハーフ」
「ま、魔族と人類のって……」

 魔族で人間の姿をしているのは、どこに住んでいるか定かではないが、存在は認知されている魔王とその幹部のみ。幹部の魔法は既に知られているが、魔王の魔力は未知数……その娘ならば、もしかすると蘇生魔法が使えることだってあり得るかもしれない。

「私に従う気になったかな。『死者デッドマン』ゼロ・エドウィン」
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