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第16話 一理も何もそれがすべてよ!

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 レニのパーティ加入を決めた、とはいえ。

 当然のごとく、レニ自身が猛反対した。

「ななななんでそんな話になっているの!?」

 今日は戦闘訓練を取りやめて、レベッカ宅に集まっていた。レベッカ宅がいちばん広いのと、両親ともに冒険者で家にいないのとで、集まりやすいのがその理由だ。

 そしてリビングで、レニとレベッカとオレと、同じテーブルを囲んで話し合いを始める。

 引きこもりに戻っていたレニは「大切な話があるから来て欲しい」と言って連れ出した。レベッカが同席するとも伝えたので、レニ本人は「本格的に養子縁組の話!?」と期待に胸膨らませていたようだが……残念ながら、そうは問屋が卸さない。

 そうしてオレは、落ち着いた口調でレニに言った。

「この前、レベッカに言われたんだよ。レニをパーティに加えるのはどうかって」

「レベッカママ!? はかったなママ!」

「いえ別に、謀ったわけではないのだけれど……あと、そろそろママ呼ばわりはやめてくれない……?」

 ちなみにレニは、レベッカのことを『ママ』と決めつけるようになってからは物怖じしなくなっていた。高等部の三年間でも慣れなかったというのに。

 アイツの精神構造は、いったいどうなってんだろうなぁ……?

 オレは内心で首を傾げながらもレニに言った。

「とにかく落ち着け。順を追って説明するから」

 なんとかレニをなだめてから、オレは説明を始める。

 まずオレとレベッカのパーティは、攻撃魔法担当のレベッカと、回復魔法担当のオレだから、適性的には二人とも後衛なのだ。まぁオレの場合は回復適性がありながら剣士になったから、回復をしながら剣も振るう中衛になる。もっとも、オレ一人で防御も攻撃も可能だが、そこは固有魔法がバレるかもしれないので伏せておく。

「つまり防御がいないんだよ。そこを、防御適性のあるレニが担当して欲しいんだ」

「こ、このわたしを敵前面に出すつもり!? ずっと引きこもっていたこのわたしを!」

「胸を張って言えることかよ。だがまぁ……最もでもある」

 だからオレは、レニは盾使いではなく、防御魔導師にと考えていた。確か、現状の冒険者で防御専門の魔導師は一人もいなかったはずだが、職種としては存在している。

 役割としては、後衛で防御結界を張ったり、敵の力を弱めたり、逆に味方の能力をアップしたりなどになる。

 そうなると、必然的に前衛がいなくなるから、中衛予定だったオレが繰り上がって前衛ということになるが、オレ自身は別にそれでも構わない。

 パーティとしては異色の編成になるものの、少なくとも、都市周辺のダンジョンを見回る程度なら問題ないはずだ──

 ──などと細かな編成を説明するも、その間もレニは、ずっと首を横にフルフルと振るばかりだった。もはや体全体で震えている。

「わ、わたしは……ジップとレベッカの子供になりたいだけなのに……」

「うん。冷静に考えるほどに、同い年であるオレたちの子供になるっておかしいからな?」

 オレのツッコミをスルーして、レニはさらに泣き言をいう。

「だというのに! なんでいきなりダンジョンにまで連れ出そうとするの!? そもそも、ジップはダンジョンに行くことを反対してたじゃない!」

「それはそうなんだが……しかしお前をこのままにしておくわけにもいかないし……だったら、オレの目に届く範囲にいて欲しいと思ったんだよ」

「えっ……?」

 今までずっとイヤイヤしていたレニだったが、なぜか今の言葉は効いたようだ。だからオレはこれを好機と見なして畳みかける。

「そうだろレニ? 今のままってわけにはいかないのは、お前だって分かってくれるよな?」

「今のままでいいもん! だからジップとレベッカでわたしを養って!」

 あ、あれぇ……?

 今ちょっと、レニの気持ちが傾き掛けた気がしたんだが、やっぱり全力否定……?

 またぞろ頑なな態度に戻ってしまったレニに、今度はレベッカが口説きに掛かる。

「ねぇレニ。ジップって、なんというか……いつも素直じゃないでしょう?」

「そうだよねママ。ジップって、本当に素直じゃなくて、最近はすごくいぢわる……!」

「いやあの……ママって呼ぶのは本当にやめて欲しいんだけど……わたしまだ18だし……」

「そ……そうなんですか……? そんなにイヤなら……分かりましたケド……」

 ママと呼べなくなった途端、レニは急によそよそしくなった。コイツの人見知りって、いったいどんな基準で発動するの?

 他人行儀に戻ってしまったレニに、レベッカは寂しそうな様子だったが話を続けた。

「だからわたしたちは、ジップが何を言おうとしているのか、よくよく考えないといけないのよ」

「…………そう……なんですか……?」

「そうなのよ。今し方、ジップが言ったことを思い出して?」

「………………」

 なんだか酷い言われような気がするが、女性同士だし、何か感じ入るものでもあるのだろう。確かにオレは、生前から女性と接することが少なかったから、レニやレベッカの気持ちを完全に理解することは難しい。

 そうしてしばらくは沈黙が降りる。置き時計の小刻みな音だけが聞こえてきた。

 やがてレニがぽつりとつぶやく。

「でも……無理だよ……わたしが冒険者になるなんて……」

 レニは肩を落としてうつむき、落ち込んでしまう。するとレベッカがオレにウィンクをしてきた。ここで、気の利いたことを言えということか……

 だからオレは、改めて説得に掛かる。

「大丈夫だレニ。そこはオレがしっかりフォローするから──」

 と言い掛けたら、レベッカが小さく首を横に振った。どうやら台詞が間違っていたらしい。

 なら、いったい何を言えばいいと……?

 オレは数秒ほど、頭脳を高速回転させてから、別の言葉を選び出す。

「例えレニが役に立たなくても──」

 レベッカがさらに激しく頭を振ってくる。これも間違いらしい。

「えーっと……だからその……足手まと──」

 レベッカが鬼の形相で睨んでくるんデスガ!?

 くっ……いったい何を言えばいいというんだ!?

 前世から、女性を励ますことは元より、勧誘だなんてしたこともないんだぞ!? 会社にいれば、人事は人事部が決めてくれるんだからな!

 どんだけ残機があったって、この手の経験をたくさん出来るはずもないし……

 なんだかもう、一人で戦っていたほうがよっぽどラクな気がしてきた。

「ジップ、ちょっとこっちに」

 オレが逡巡していると、いよいよタイムオーバーと見なされたのか、レベッカが立ち上がる。

「え、でも……」

「いいから!」

 そうしてオレは廊下に連れ出されてしまった。

 するとレベッカは、怒り半分、呆れ半分という感じで言ってくる。

「レニは、あなたに『一緒にいて欲しい』って言われたいのよ……!」

「は? けど今はパーティ編成の話を──」

「編成の話を勝手にしだしたのはジップでしょ! レニはそんな話聞きたくないの!」

「そ、そうなのか? でも、どれだけ安全に冒険できるかを説明した方が──」

「だからそういうのは加入後でいいのよ! 今はレニの望む言葉を言ってあげなさいよ!」

「分かったけど、それが『一緒にいて欲しい』なのか? 今までずっと一緒にいるのが当たり前だったのに?」

「だからこそでしょ! レニがあんなに不安がっているのは、今までずっと一緒にいたけれど、、、、これからはそうじゃなくなるからなのよ!」

「な、なるほど……一理あるかもしれない」

「一理も何もそれがすべてよ!」

 などと作戦会議をしたのち、オレとレベッカはリビングに戻ってくる。その間、レニはうなだれたままだった。

 オレの向かいに着席したレベッカが、強い視線で促してくる。

 っていうか……

 いざ言おうとすると……

 なぜかとてつもなく恥ずかしいんだが……!?

 それに、レベッカと打ち合わせしてきたのは丸わかりなわけで、そんなの、レベッカに言わされているだけで、オレの本心じゃないってすぐバレるだろ……?

 などとオレが尻込みしていると、いよいよ、レベッカの頭から鬼のツノが生えそうだった。

 くっ、仕方がない……!

 ダメ元で言ってみるか!

「な、なぁ……レニ」

 うつむいたままのレニは、ピクリとも反応しない。

「オレ、これからもレニと一緒にいたいんだよ……」

 うつむいたままのレニは、その言葉にピクリと肩を震わせた。

「だから一緒に冒険してほしい。それじゃダメか……?」

 うつむいたままのレニだったが、ゆっくりと顔を上げる。

 その瞳は涙でいっぱいになっていて、でも悲しんでいる涙ではなく、不安と喜びが入り交じっているかのような涙だった。

 いつも青白い頬も、今は真っ赤に火照っていて、そこに、一筋の涙が伝っていく。

 そんなレニが、ゆっくりと頷いた。

「………………はい」

「え?」

「……………………分かった。一緒に冒険する……」

 ……ま、まぢで?

 驚いてレベッカを向けると「やれやれ……」とでも言いたげな感じのドヤ顔になっていた。

 ああなってはテコでも動かないはずのレニが、こうも簡単に……

 18年間一緒に暮らしてきたも同然だというのに、生まれて初めての経験に、オレは唖然とするしかないのだった……
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