強がりな邪神ちゃんのストーカーは僕

おかだしゅうた。

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第三章 能力の覚醒

ヒュウガの覚醒③と2人の夢

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 ヒュウガは信じられなかった。
 ヒナノの服が、徐々に濃い血の色に滲んでいく。男が刃物で刺したのだ。ヒナノの無表情は変わらない。ヒュウガの頭に、最悪の事態が過ぎった。もしかして、お姉ちゃん、これで死んじゃうんじゃないか……? ヒュウガは止めに入ろうとしたが、足がなぜか動かない。お姉ちゃんを守るって決めたのに。
「……驚い、た。この、ナイフ、そこの、スーパーで、売ってるもの、だ。……神に、下界のモノは、ほとんどは、効果が、ない。仮にも、神なら、理解して、いなかったのか」
 ヒュウガの自責の念に反して、ヒナノは自身に刺さっているナイフを手に取り、何事もなかったかのように抜いた。そのナイフを、地面に落とす。ヤレヤレ、男は言う。
「知ってるに決まってるだろ、そんなこと。ただ……オレたちは必ずっていう意志表示だ」

「ね、ねえ、プーアちゃん? あの屈強で野蛮な男たちは君の仕込みかい?」
 今なお物陰に隠れている2人。さすがに見ていられないと思ったレンガイは、恐る恐る聞く。
「いや、あの人たちは知らないわ。アンナの刺客とは思えないし。本人たちの言うように個人的な恨みがある人なんじゃないかしら」
「だからこそ危険だと思うんだけど。もし本当に怪我とかさせられちゃったらどうするの?」
「本気でヤバそうだったらアンタが止めなさいよ。でも、ヒナノさんには……ほら、ヒュウガがいるじゃないの」
 プーアはこの状況を楽しんでいるようだった。レンガイは無責任なプーアと、危機に直面しているヒナノとヒュウガの身を案じた。


「……お前たちは、私のスキルを、分かって、いる、のか」
 何かまた新しい凶器を取り出した男たちを、ヒナノは睨む。
「ああ、知ってるよ。五感を惑わせるんだってな。ま、もちろん弱点だって知ってるさ。その対策は、もう万全にしてある」
 ヒナノは慌てて後ろを振り向く。その時、自分の腕が握られているのを感じた。なんとかその手を振り払おうとしたが、それは叶わなかった。男は満足げに言う。
「どうだ。これで、オレに対してスキルを発動したとしても、お前の後ろにいるオレの仲間がお前を刺す。つまり、なんだ……無駄な抵抗はやめろ」
 男が一歩、また一歩ヒナノに近づいていく。
「お、お姉ちゃん……えと、その」
 どうしても足が動かないヒュウガは、震えた声をヒナノに送る。ヒナノはそれを聴いてヒュウガを見るが、それよりも先に男がヒュウガに向けて叫んだ。
「だまっとれ! クソガキ! ……って、なんだ、おい、お前もしかして、コイツの弟か? これはいい。まずはお前からだ。お前の苦痛に歪む姿を姉さんに見せてやる。そっちのほうが絶望に落とせるってもんだ」
「……おい、やめろ。そいつは、関係ない。だから……」
 必死の制止も男たちには響かない。先ほどまではヒナノに攻撃の手を伸ばしていた男が、今度はヒュウガに近づいていく。
 男が刃物を振り落とそうとした時、ヒュウガはか細い声を出した。
「な、なあ……約束してくれよ、お、オイラは……別に殺しても構わないから、お姉ちゃんだけは……頼むよ」
 「なんだ、お前ら。兄弟仲良く揃ってお互いの身を案じてよお。でも残念だな。それを決めるのはオレたちだ。つまり、お前は死んで姉さんも死ぬ!」
 ヒュウガは身体中がボンヤリしていた。お姉ちゃんが死ぬ……要するに、このクソ男にお姉ちゃんは殺られちまうのか。そんなことあってはいけないよな。オイラが守らなきゃいけないよな。でも、。ゴメンな、お姉ちゃん。オイラ、バカだから考えてもよく分かんねえ。
「文句があるなら、オレを倒してからにしろよ」
 倒す、か。倒す? ああ、そうか、なるほどな。コイツを叩き潰せばお姉ちゃんは……。

 それを思い出した瞬間、
 ヒュウガの世界は突然光で満ちあふれた。

「……?」
「あ? そうだな、弱虫くんにそれができるんなら――――」
 刹那、男の世界は深淵の闇に染まった。自分の目が潰された、と気づいた時には、もう1発喰らわされていた。男は思わずその場に跪く。ヒュウガは極め付けに低くなった男の頭に、全力のかかと落としをする。
「前に、レンガイの兄ちゃんが言ってたんだ。頭の回るタイプじゃないって。そうだな、オイラは考えるようなヤツじゃねえよな。……さっき、お姉ちゃんもオイラに言ったんだ。って。オイラはその時は、単純な意味だと思ってたんだけど、違うみたいだな。お姉ちゃんと久しぶりに2人きりになれたから嬉しかったんだ。だから甘えた……そういう意味もあるけど、お姉ちゃんが言いたかったのって、もっと深い意味なんだな」
 ヒュウガは、自分の下でうずくまる男に言うわけでもなく、姉のヒナノに言うわけでもなく、自分自身に語るように淡々と口を動かし続けた。
「自分のスキルが使い物にならなくなった、下界での生活にうんざりしてた、自分ではどうしようもなくなった。
「な、何言ってんだよお前! わ、ワケわかんねえよ!」
 ブツブツと呟き続けるのを不気味に思った男は、地面に這いつくばりながら恐怖に慄き叫ぶ。
「あ、ああ……わりぃ。その、なんつーか、えーと」
 ヒュウガはそれに一瞬驚いてあたふたしたが、平然を取り戻した後は、初めてプーアたちの前に現れた時のように堂々と、しかし子供らしさは感じさせない様子で、言い放つ。

「オイラはもう、今までのオイラじゃないんだ」

「……なあ、おい。お前、言ったよな。オイラがお前を倒したらちゃんには手を出さないって。それ、ちゃんと守れよな」
 未だ倒れている男の胸を踏みながら、ヒュウガは言う。その目と口調には、明らかに強い感情が込められていた。男には理解できなかった。彼が、何を思っているのかを。
「へ、へ! 兄貴が倒されたとしても……俺たちのこと、忘れてるんじゃねえだろうな!」
 声を出したのは、の為にずっとヒナノを押さえつけていた2人の男だった。ヒナノを抑える力をより一層強める。
「……そう、だ。無理、だ、ヒュウガ。お前だけ、でも、逃げ、ろ」
ちゃんも、忘れてないか? オイラは、最速の格闘王。『快速少年』の異名を持つ史上最強の破壊神。スピードは光速の100万倍。快速のヒュウガ。…………これは、ノエルにスキルを書き換えられてからも変わってないんだぜ」
 それを言い終えた瞬間、男たちとヒナノ、隅から見ていたプーアとレンガイの視界からも、。みんなが状況を理解するのに、一呼吸の時間はかかった。そして、ヒュウガにとって、戦況を覆すのにその時間は十分過ぎた。
「一体なんなんだ、ん? あれ、おい、神ヒナノが消えた!? どうなって……」
 何かヤバイことが起きた、それだけは把握した男たちが、辺りをキョロキョロ見渡す。男たちはある一点を見つめた。
「へっ、ちゃんとターゲットは捕らえておけよ! ちゃんはココだ!」
 男たちとはやや離れた所で、ヒナノより小さいヒュウガがヒナノを抱え、立っていた。流石に無理があったのか、ヒュウガの腕や脚はかなりプルプル震えていたが、そんなのは気にせずにヒュウガは立ち続ける。
「う、うるせえ! こ、こっちだって一応は神なんだよ! スキルだって使える……そう、お、オレのスキルなあ……『拳銃』! へ、いくら動くのが速くたってな、遠距離射撃の武器には敵わねえだろ!」
 そう言って、男はスキルによって生み出したハンドガンを構え、ヒナノを標準に捉える。ヒナノは思わず目を瞑った。ヒュウガはその様子を見て思う。当たり前だ、神の道具なら、オイラたちも無傷では済まない。いつもクールなちゃんが、怯えてたって当然だ。でも、安心してくれ、ちゃん。
「大丈夫だから、ちゃん」

 ――――『守る』って、なんなんだろうな。
 そんなことを、足りない頭でずっと考えていた。やっぱりオイラはバカだから、考えるほどワケわかんなくなってきて、結局「オイラには、無理」この結論に至る。でも、当たり前だよな。『守る』って、ぼんやりしている、抽象的なことだから。
 なんか、吹っ切れたのか分かんないけど、今はなんか頭がスッキリしていて、頭がよく回る。オイラもやる時はやるな。
 オイラが本当にやりたいこと、それは――――


「守るんじゃねえ、『護る』んだ!!」


 男の手元から、いつもうるさいセミの声をかき消すほどの、乾いた銃声が鳴り響く。
 発砲音と共に、弾がヒナノに向かって空気を切り裂きながら進む。大抵の人には捉えられない速さ。対応できたのは、快速のヒュウガ、ただ1人。
 ヒュウガにも分からなかった。自分が何をしているかを。『護る』、そう言い放った途端、うっすら赤色の透明のバリアが2人を包んだ。そして――そのバリアは、銃弾を跳ね返し、男の肩を貫通する。男は痛みに耐えきれず倒れ込み、悲痛の叫びをあげる。
「は、はあ? ど、どういうことだよ、これ?」
 元々ヒュウガは自分の手で、こちらに向かってくる弾を止めようと思っていた。それなのに、謎のバリアが同じような働きをしたのだ。ヒュウガは困惑した。
「……そ、それだ、ヒュウガ、お前の、それが、『後天的スキル』だ!」
 珍しくヒナノが感情を込めて言う。ヒュウガは自分の手でスキルを覚醒させたということに、大きな驚きを見せる。
「え! ま、まじかよ! ちゃん! す、すげえ!」
 ヒュウガは天に腕を伸ばしながら、強く拳を握りしめた。

「へえ、なるほどね。スキル開発のポイントが、なんだか分かった気がするよ」
「そうね、アタシの仮説は当たってたみたい。ほら、アンタも来てよかったでしょ」
 ずっと物陰に隠れていたレンガイとプーアが、急に飛び出してきた。しかも、どちらも何故か戦闘態勢だ。
「ああ、ごめんね、ヒナノさん、ヒュウガくん。実は、ずっとんだよね。……後始末は僕らに任せていいから、後は二人で、ね」
 レンガイはヒュウガにアイコンタクトを送った。ヒュウガは頷く。
「に、兄ちゃん……ありがとな。サンキュー!」
 そして、2人は遠くに走り去っていった。



 2人はプーアたちのいる所から程よく離れた場所に木陰を見つけ、腰を下ろした。
「……驚い、た。ヒュウガ、お前は、変わったん、だな」
「へへ、ちゃんも思うか? なんだろ、よくわかんねーんだけどよ、自分でも思うんだよな」
 ヒュウガは照れくさそうに言う。ヒナノは珍しく微笑んだ。
「……そう、だ。ヒュウガ、は、止めたの、か」
「あ、ああ。えっとな、なんか、それじゃあ『護る』って感じじゃないってか……なんかシスコンっぽくねえ? オイラも成長したんだ」
「……そう、か。じゃあ、もう、
 ヒナノはどこか寂しさを感じさせる様子だった。
「あ、いや、そんなことはないんだって! オイラは……姉ちゃんに、今まですげー『守って』もらってたんだ。オイラは、いつか姉ちゃんがオイラにしてくれたみたいに……恩返しがしたかったんだ」
 ヒュウガはゆっくりと、丁寧に話す。ヒナノは真剣に聞いて、時々噛みしめるように頷く。
「でもよ、オイラは姉ちゃんじゃないんだ。姉ちゃんみたいに姉ちゃんに接する……なんか意味わかんねえけど……オイラには無理だなって感じてた」
「……続けて、くれ」
「……そこで思ったんだ。じゃんって。つまり、たぶん、それがスキルに現れたんだろうな。姉ちゃん決めたよ、オイラは……姉ちゃんの『護衛者ガーディアン』になる!」
「別に攻撃の威力がプーア並になったとか、そんなのは関係ねえ! それなら、スピードを活かして、的確に攻めていけばいい! 護るときは、『護衛』のスキルを使って、姉ちゃんへの攻撃は全部跳ね返せばいい!」
 ヒュウガの顔は自信に満ちあふれていた。ヒナノはその堂々とした逞しい顔を見て、また微笑んだ。
「……本当に、変わった。でも、実は……言いにくい、しかし、言わなければ、いけない。私も、『護衛』の、スキルが、覚醒して、いる」
 ヒュウガはポカンとした。そして、衝撃の発言をした姉をジッと見つめる。あまりにも可笑しくて、思わず声を出して笑ってしまった。
「なんだよ! それじゃ、オイラがやったのは意味なかったってこと!?」
「……そんなことは、ない。そもそも、おかしい、じゃない、か。私たちは、姉弟だ。双子、の」
 あっ、とヒュウガは声を洩らす。
「…………そっか。そうだったな! なんでだろ、変だよな! 双子の姉に甘える双子の弟って……オイラたちは、対等な立場なんだよな!」
「……でも、1つ、だけ。として、最後の、頼み事が、ある」
 ヒナノはいつもでは考えられないくらいハッキリとした声で、言った。

「夏祭りの花火大会」

「あ、ああ! 当たり前だよ、姉ちゃん! 絶対だ! そうだ、じゃ、オイラからもとして、頼み事をしたいんだけどいいかな」
 ヒナノは頷いた。少し、涙が潤んでるように見えた。
「オイラが姉ちゃんのこと、『護って』るから、姉ちゃんはオイラのこと、『守って』てくれよな!」
「もちろん、だ。アホの、弟、め」
 2人は笑った。
 おそらく、これまでに無いくらい。

 夏にひたすらに鳴き続けるセミのように、いつまでも、笑っていた。
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