強がりな邪神ちゃんのストーカーは僕

おかだしゅうた。

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第三章 能力の覚醒

お互い レンガイ

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 その夜、僕は夢を見た。

「レンガイくん、大人になったらけっこんしよ!」
「へっ? プーアちゃん、どういうこと?」
 かなり幼い頃の夢を見ていることを理解するのには、しばらくの時間を要した。いつの間にか見ることのなくなったプーアの純粋で大きな愛らしい笑顔に、僕は見惚れていた。
「何って、そのまんま! プーアは、レンガイくんのことが好きだから、いつかけっこんしよ!」
「すすすす、好き? えっと、えーと、その――」

 ここで僕が言葉に詰まって、プーアが泣き出したんだっけ――――。
 あの頃はプーアの方から僕に寄ってきてくれてたのにな。知らないうちに嫌われて、もうほとんど笑わなくなってしまった。ついでに言うと性格もねじ曲がって、からかう時にしか楽しそうな顔をしない。
 そもそも、子供の「すき」なんて意味も分かってないし、簡単にそれを言い出す。間に受けた僕もバカだな。
「――
 知らないうちに、僕の目から涙が出ていた。



「なんで泣いてるのよ、ちょっと、起きてよ、ねえ」
 夢から覚めても寝そべっていた僕を、プーアは蹴って叩き起こした。
「あれ? プーアちゃん、おっきい」
「また身長の話? おっきいもちっこいも、前から全然変わってない」
 今だに床に突っ伏していたら、もう一発蹴られた。
「昔よりは伸びてるよ。……さっき、僕らが幼い頃の夢を見ていたんだ。変わったよね、プーアちゃん。すごい変わった」
 プーアは怪訝な目で僕をまじまじと見る。いきなり人の変化について話されたら当たり前かな。
「自覚はないけど。それより、アンタのほうが変わってる。?」
 もう無理するのはやめたら? どういう意味だ、プーア。君のほうが強がって、無理をしているクセに。なにも…………本当に?

 プーアが僕のことを叩き起こした理由は、「お腹が空いたからご飯を作って欲しい」らしい。ヒナノさんやヒュウガくんは、どうしてかは分からないが今日一日出かけるらしく、この隠れ家に居るのは僕とプーアだけということになる。何気に久しぶりだ。
 偏食大魔王のプーアの好き嫌いはしっかり把握しているので、プーアの苦手な野菜などの食材は使用せずに、簡単な品物を作る。どうせならココは日本なのだから和食を振る舞いたいと思うが、大抵の魚も野菜も嫌いとなると満足のいくものは作れない。
 ついでに言うとプーアに料理を褒められたことは、ない。プーアの大好物がジャンクフードなせいもあると思うが、多分、僕の料理がそもそも美味しくないんだと思う。
「どうかな。プーアちゃんの苦手なものはないと思うけど」
「どうも何も、いつものご飯とみそ汁と目玉焼きじゃない。……これで味を判断しろと言われても……」
「そっか。……そういえば今日は、何か予定とかあるの?」
 もう少しで食べ終わりそうなプーアになんとなく聞く。
「うーん、予定って予定はない。そもそもいつアンナが現れるかも分かんないし、外はジメジメして暑いし。……かと言って、この薄暗い家にずっと居るのも気が引けるわね」
 なんだかよく分からないことをプーアは言う。
「じゃあ、どっか行きたいところは?」
「まずココらへんに何があるのよ」
「……山。川。くまくま牧場」
 苦し紛れに3つ挙げたが、どれもプーアの好みではなさそうだし、最後のくまくま牧場に至っては明らかにボケたとしか捉えられないだろう。いきなり熊を見に行こうなんて言い出すヤツは最低だ。でも、プーアの回答は予想とは違った。
「くまくま牧場、面白そう。かわいいクマさんがたくさんいるんでしょ? いいな。ね、レンガイ、そこ連れてってよ」
 ――物語のクマさんはいない。そこにいるのは現実の熊だ。ツッコミを入れたかったけど、プーアの目が珍しくキラキラしていたから、何も言えなかった。指摘したら指摘したでまた絶望されそうな気がした。
「そ、そうだね。じゃあ、早く準備をしよう。暑くなる前にさ」



 プーアとどこかに出かけるなんて、初めてかもしれない。夏の太陽のせいで熱気ムンムンの倉庫を漁りながら考えた。しかも行く場所が熊牧場なんて、おかしい話だ。どうせなら無理やりでも川を選ばせるべきだったかな。そっちのほうが夏らしい気がする。いやそれが絶対に夏だ。
「思ったんだけど、くまくま牧場って……歩いてどれくらいなの?」
「プーアちゃん、歩いたら日が暮れるって。だから、今日は自転車で行くよ」
 そう言って倉庫から引っ張り出してきた自転車をプーアの前に置いた。
「自転車あったの? じゃあ今まで歩いていた苦労は一体なんだったの」
「別に隠してたわけじゃないけどね。ヒュウガくんもヒナノさんも要らないって言うし、プーアちゃんはそもそも自転車に乗れないんじゃあ」
「乗れる! いつの話してるのよ!」
 僕は頭をはたかれた。
「そうなの? 成長したなあプーアちゃん。あんなに小さかった時とは大違いというか……そんなプーアちゃんの輝かしい姿を見たいところだけど、あいにく自転車は1台しかなくてね。だから2人乗りでいこう」
 僕は自転車に跨った。プーアを後ろに乗せようと手招きをしたが、なぜか僕ごと自転車を横に倒される。突拍子もない彼女の行動に、僕は目を疑った。
「なんで!? 2人乗りは確かに悪いことだけど、ココらへんの地域はメチャクチャ田舎だから警察という組織も取り締まりが緩いんだ。管理している世界のシステムの穴を突くやり方だけど、今回は仕方ない!」
「そういうことじゃないわ。……話は戻るけど、アタシが自転車に乗れる程度で変に騒がないでよ。普通に乗れるから……ほら」
 プーアは自分で倒した自転車を立て直し、それに乗った。サドルが高すぎたせいか、足が地面に着いていない。それを指摘しようとしたが、それよりも早くプーアは言った。
「アタシが漕ぐから、アンタは後ろに乗りなさい。ほら、ちゃんと掴まっててよ」

 変だ。かなり変だ。
 150センチにも満たない小さな女の子の腰にしっかり掴まっている180センチの男。ハタから見たらかなり危ない人だ。この地域が人の全くいない所でよかった。それにしてもプーアの安定しない運転がとても怖い。重さに耐えられないのか、かなりグラついている。そのせいでスピードが全く出ていない。多分、歩いた方が、速い。
「プーアちゃん! やっぱり僕が運転する! プーアちゃんが自転車に乗れるようになったのは分かった! でもさすがにそろそろ限界だろう! 止めよう! ストップ!」
 恐怖に耐えられなくなった僕は声を張り上げた。プーアがこっちを振り向いて言い返してきた。振り向いてきた時の顔から、かなり機嫌が悪いのが分かった。
「うるさい! アンタにこれ以上貸しを作りたくないのよ! だから――」
「プーアちゃん! 前見て! 前! 危ない!」
「は? 前? って、あれ! なんでこんなに曲がってるの! え、ちょっと!」
 こうして僕らは昔の漫画みたいに道路の横の畑に突っ込んだ。

「だから言ったでしょ……プーアちゃん……僕は、君の安全も考えて話してるんだから、言うことは聞いてくれよ」
 流石に懲りたのか、プーアは僕の後ろで縮こまりながら座っている。プーアはボソッと呟いた。
「うるさい。アンタのそういう気遣い、好きだけど、嫌い」
「たった一言で矛盾しないでよ。つまりはどうすればいいんだ」
「…………」
 プーアは無視を決め込んだ。僕は質問を変える。
「でも、どうして、いつもそんなに強がるんだい、プーアちゃん。昔はそんなことなかったのに」
「もっと答えにくい質問ね。そもそも強がってない。これが素なの。昔も今も同じよ」
 本当にそうかな、僕は心なく笑った。自転車を立て直し、今度こそ僕がサドルに座る。その時、プーアが言った。
「逆に質問。アンタの性癖が異常に歪んでストーカー行為に及ぶようになったのこそいつからなの? 昔はもっとマトモな人だと思ってたけど」
「……僕は別に幼女が好きなロリコンじゃなくて、ただただプーアちゃんが好きなだけだよ。ストーカー行為? 自覚はないな」
 いや、ある。は、本能じゃなくて、意識的にやっていることだから。だから、ヒナノさんが言っていた欲望のままに生きているっていうのは、残念だけどハズレだ。
 ――――だったら、何の為にやっているんだろう。
 僕は、朝にプーアに話されたあの言葉を思い出した。
――――もう無理するのはやめたら?



 プーアと色々会話をしながら、結局1時間以上自転車を漕いで、やっと目的地「くまくま牧場」に到着した。到着したとき思ったことはこれだ。やっぱり川にしておくべきだった! そんな僕とは打って変わって、プーアはめちゃくちゃウキウキしていた。愛くるしいクマさんを想像しているプーアの顔が悲壮感溢れる顔に変わってしまうのがとても気の毒に思った。
 実際そのとおりだったようで、プーアは瞬間的に「帰りたい」と言い出した。クマさんに対するイメージが熊に変化した。そこにいるのは猛獣だった。熊エサやり体験コーナーもあったが、恐怖に怯えてしまったプーアがそんなことやるはずはなく、僕が熊にちびちび食料を与えるだけだった。何も面白くなかった。
 そんな中でも一応プーアが興味を引いていたものがあって、それは「子クマ触れ合いコーナー」だった。クマの赤ちゃんを抱っこできるということで、子供でも楽しめそうだなと思った。実際、子供っぽいプーアは本当に嬉しそうに子クマを撫でたりしていたが、その和やかな雰囲気をブチ壊す発言をした。
「このクマさん達も、いつかはあの凶悪な姿に……」
 プーアじゃなくて、特に何もしていないのに嫌われる熊さんのほうが気の毒だと思った。他のくまは「熊」なのにこのコーナーだけ「クマ」になっているというどうでもいいことが、プーアのせいで闇が深いものに感じてしまった。



 帰り道、僕はなんとなくプーアに謝る。
「ごめんね、プーアちゃん。あんまり楽しくなかったでしょ。そもそも、僕と出かけること自体あんまり楽しくないか。目的も、イメージ通りのクマさんに会いに来ることだったでしょ?」
 なんだか要らないことまで口走ってしまった、僕は心の中で舌打ちをする。
「……まあ。確かに、アタシの思うクマさんとは違ったわね。でも、楽しくなかったって言えば嘘になる」
「へえ、それってどういうこと?」
 プーアが前に乗り出して、僕に耳打ちをする。驚きのあまり、ハンドル操作がグラついてしまった。
「そもそも、2人で出かけるなんて――」
 その瞬間、僕らは1台のバイクとすれ違った。そのバイクは物凄い音を立てて過ぎ去り、プーアの小さな声をかき消した。
「え? ごめん、さっきのバイクのせいで後半が聞こえなかった。もう1回言ってくれよ」
「……やだ」
 またプーアはだんまりを決めてしまった。
 なにか、大切なことを聞き逃した気がするのは、多分、間違いではない。
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