おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ

文字の大きさ
24 / 69

024 奴隷解放

しおりを挟む
ワインの増産が決まり、新たに開拓した農地に苗木を植える作業を行った。
ハンゾウ率いるオーガ隊が土地を耕し、奴隷達が慣れた手つきで苗木を植えていく。
今回も遺伝子改造した苗木だ。
しかもパワーアップした苗木である。
先に植えた苗木は収穫したあと再び実をつけるのに半年ほどかかるが、今回の苗木は半分の3ヶ月で再び結実するよう改造した。

つまり一年で4回も収穫できる計算になる。
そのぶん土地の管理が重要になるが、そこはすでに手配済みだ。
鶏の糞を堆肥とし、農地の栄養素を補う仕組みになっている。
そのため鶏糞には無臭で分解し易い遺伝子改造を施した。
反面、鶏舎の清掃を怠れば床が細かい粉末で覆われて粉塵が舞い上がる恐れがあった。

「まあ、奴隷達が働き者だから心配いらないけどね」

購入した奴隷達は身を粉にして良く働いた。
奴隷という立場だから拒否権も無く仕方のない事なのだろう。
だが暗い顔で働く者はおらず、むしろ笑顔で働く者が多いくらいだ。
アクセルの住民達も最初こそは敬遠していたが、農作物の世話や収穫祭などの催しを通じて仲良くなったのだろう。
いつしか分け隔てのない関係を築き上げていた。

「そろそろ頃合いかな」

屋敷に戻るとリオンに命じてマールスを呼び寄せた。
何事かと慌てて訪れたマールス。
執務室に通されると直立して深く頭を下げた。

「お待たせいたしました。お召しにより参上いたしました」

「待ってたぞ。さっそくだが頼みがある」

「頼み、ですか」

今度はどんな無理難題を押し付けられるのかと気が気でないマールス。
鶏確保の件でも相当に骨を折らされた。
今回も簡単な内容ではないだろう。
そう思うと胃がキリキリと締め付けられる。

「ベルナール。例の書類を」

「かしこまりました」

ベルナールに促されて応接用の椅子に座るマールス。
俺も執務机から移動して応接用の椅子に腰掛けた。
テーブルを挟んで向かい合うと、ベルナールがマールスの前に書類を置いた。

「これは?」

テーブルに置かれた書類に目を落とす。
なにやら契約書のような文面だ。

「アクセルの町長として判断してもらいたい」

「はあ……」

意味がわからず間抜けな声を漏らすマールス。
とりあえず書類に目を通すと。

「え、えぇ!?こ、これは……」

困惑して狼狽するマールス。
動揺して視線が泳ぎ、うっすら冷や汗を浮かべている。

「どうだ?」

「どうだと申されましても……」

歯切れの悪い答えに事の重大性が窺える。
無理難題を受け入れてきたマールスにしては珍しい対応だ。
それだけ書面の内容は突拍子もない文面だった。

「これは本気で仰られているのですか?」

「無論だ。極めて大真面目に言っている」

「そんな……いや、しかし……いくらなんでも、これは……」

書類を手に取り言葉を濁す。
吹き出る汗を袖で拭い、確かめるように何度も何度も文面に目を走らせた。

「できないか?」

催促するような言葉にマールスの顔が強張る。

「そ、それは……」

「正直に言ってくれ。遠慮は無用だ」

マールスはゴクリと生唾を飲み込んだ。
そして暫しの沈黙の後に。

「全ての奴隷をアクセルの市民にするのは難しいかと」

「なぜだ?」

「前例が御座いませんし、そもそも奴隷が市民権を得る事は極めて稀な事案です。歴史的に見ても数えるほどで、それこそ多大な貢献を行った一部の奴隷のみで御座います」

「それは知っている。だから新たな前例を作りたいんだ。奴隷にも未来はある。やり直せる。少なくとも、そういう前例を作りたいんだ」

熱く語られたマールスは更に困惑の度を深めた。
どうして貴族が奴隷にここまで?
そんな考えが表情に表れている。

平和な日本から転生した人間だから。
などと説明しても理解できないだろう。
むしろ余計に混乱させるだけだ。
だから熱心に口説くしか手がない。
マールスは心根が優しい男だ。
そこに賭けるしかない。

異世界の不条理は理解している。
奴隷を奴隷として扱い、奴隷は奴隷として扱われる。
それがまかり通る世界だ。
簡単な事ではない。
だが、なんとか改革したい。
平和な日本で育ったエゴかもしれないが、嘘偽りない本心だった。

「……ですが、アクセルの住民が反発するかもしれません」

「そうなったら僕が説得する。困難かもしれないが、頼まれてくれないだろうか?」

「こればかりは。エルロンド様の仰せでも、お引き受け致しかねます」

マールスは書類を置くと深々と頭を下げた。
やはり異世界の垣根を取り払うのは困難らしい。
心根が優しいマールスですら拒否する現実だ。
やはり改革など夢物語に過ぎないのだろうか。
俺は激しい落胆を覚えた。
するとベルナールが。

「マールスよ、これは困難な仕事だが巡り巡ってアクセルの将来に寄与する課題だ」

「それは、どういう意味でしょう?」

ベルナールの言葉が理解できないマールスは困った顔で首を傾げた。

「そもそもアクセルの人口は減少傾向にあった。それを回復させたのは奴隷達の労働力だ。今、奴隷がいなくなればアクセルの市民だけで農作物の管理を行えるのか?断言する。不可能だ。なぜなら農作物の管理は奴隷達が行っているからだ」

「それは、そうですが……」

現実を突きつけられてマールスは言葉に詰まった。
奴隷がいるからアクセルの経済は回っている。
しかし奴隷は奴隷だ。
アクセルの市民ではない。

「仮に奴隷のまま使役し続けたとしよう。労働力の点で問題はない。だが、アクセルの人口はどうかな?奴隷が圧倒的な割合を占めるアクセルに、果たしてどれだけ移住したいと思うか」

「あっ……」

指摘されて気づいたマールスは狼狽した。
今でこそ分け隔てのない関係を築き上げているが、かつては急増した奴隷に住民が不安を抱いた経緯がある。
真面目に働く姿を見ていた住民ですら不安を抱いたのだ。
何も知らない人間だったら移住など考えないかもしれない。

「わかったか。移住者がいなければ、いずれアクセルの人口は無くなる。代わりに奴隷達がアクセルの住民に成り代わるだろう。それが現実的か、非現実的か、判断するのはお前だマールス」

ベルナールの厳しい言葉にうなだれるマールス。
事の重要性を認識して判断に迷っているようだ。
推すべき頃合いと判断した俺は。

「すぐに答えを出す必要はない。だが、熟考してくれ。なにがアクセルの将来にとって最善かを」

「エルロンド様……ありがとうございます。少し、考えさせていただきます」

マールスは憔悴しきった表情で足取り重く執務室を出ていった。





一週間後。
マールスは提案を受け入れた。
快諾ではなく苦渋の決断だったことが憔悴しきった様子から見てとれる。
それほど奴隷に対する異世界の認識は厳しいものがあった。

「長く険しい道のりだが一歩を踏み出せたな」

晴れてアクセルの住民になった奴隷達は夢のような現実に感激していた。
二度と人間らしい生活などできない、と諦めていただけに喜びも一層大きい。
特に子を持つ親達は号泣していた。
我が子の未来を案じてきたのだろう。
きっと呵責の念に苛まれてきたに違いない。
その心配が無くなったのだ。
嬉しさから号泣するのも無理からぬ事だろう。

「これからが正念場だ。アクセルを手始めに改革を起こしてやる」

不条理な現実を打破するには実績を積み上げていくしかない。
その手始めがアクセルだ。
過疎化した街が潤えば蔑視する感情にも変化が起きるだろう。
少なくとも、いまはそう信じて突き進んでいくしかない。

「エルロンド様。テオドール様からの使者が参りました」

「父上の?一体何事だろう」

戦地に赴いているテオドールから使者が遣わされるとは普通じゃない。
なにか不測の事態でも起きたのだろうか。

「領地を与えて1年になるため近況報告を受けたいそうです。ですがテオドール様は戦地に赴いていらっしゃいますので書面にて提出するようにとのご命令です」

「わかった。さっそく成果を認めよう。使者には数日待つよう伝えてくれ」

「承知致しました」

テオドールは一礼すると来た道をもどって行った。
俺は解放された奴隷達に視線を向けると。

「この成果も報告しないとな」

この時の俺は、後にこの報告が人生を大きく左右するとは夢にも思っていなかった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。 「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」 どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。 彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。 幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。 記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。 新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。 この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。 主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。 ※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~

月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」 ​ 猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。 彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。 ​チート能力? 攻撃魔法? いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。 ​「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」 ​ゴブリン相手に正座で茶を勧め、 戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、 牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。 ​そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……? ​「野暮な振る舞いは許しません」 ​これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...