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030 いざ、モストティアへ③
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アスタールにとって青天の霹靂だっただろう。
まさかエレオノーラと電光石火で婚約にまで漕ぎ着ける事になろうとは、夢にも思わなかったはずだ。
かく言う俺自身も速すぎる展開に若干の早まった感を覚えた程だ。
とはいえ未亡人が直ぐに再婚するのは珍しい事ではない。
夫が戦場に出る家系では、むしろ常套手段として多用されるくらいだ。
それは財産や領地を守るために他ならない。
だから貴族の婦人は常日頃から有望な男子に触手を伸ばして恋愛に勤しんでいる。
貴婦人と騎士の不倫関係は、そういう意味合いもあったりするのだ。
だからアスタールとエレオノーラの結婚に倫理的な問題はない。
ただ一つだけを除いては。
「やっぱり問題視されたか」
「仕方ないッスよ。俺が奴隷だった事は消しようのない事実ッスから」
そうなのだ。
アスタールは元奴隷で、俺が購入して商人として用いた人材なのである。
身分格差の激しい今の時代では、一度奴隷に堕ちた人間は差別の対象にされる。
だから豪商婦人のエレオノーラとでは身分的な格差が明白なため、反対する人間が必ず出てくるのだ。
今でこそ伯爵家の子息に重用された商人として名を馳せているが、蔑視の感情だけは依然として向けられたままだった。
そんなアスタールがエルネスト商会の次期会長になる。
大手に並ぶ規模の商会だ。
身分的には準貴族的な地位になるのは間違いない。
しかもエレオノーラという美人を娶ってのことだ。
当然、不愉快に思う人間が出てくるだろう。
その筆頭が交易都市グラスの司祭だった。
祝福すべき立場の人間でありながら、身分格差を理由に公然と批判したのだ。
おかげで順調だった結婚に水を差されて難航している、というのが現状である。
「それはそうかもしれないけど。しかし困ったな。まさか司祭が反対するとは想定してなかったよ」
エルネスト商会の執務室で椅子に寄りかかっている俺は重い溜息を吐いた。
言い方は悪いが、サッサと形をまとめて出発したいからだ。
本来の目的はモストティアに行って鉄を購入する事なのだ。
いつまでもグラスで足止めを食っている訳にはいかない。
「まあ、前代未聞のことッスからね。協会の教義に反するんじゃないッスか?」
「馬鹿馬鹿しい。過去にも奴隷と貴族が結婚した事例はあるじゃないか」
「それは奴隷が亡国の貴族だったからッスよ。元々の身分が高かったから例外的に認められたレアケースで、生粋の庶民の俺とじゃ宝石と石ころッス」
「そもそも教会の教義に人間は生来身分の上下はない。って説かれてなかったか?」
俺は教会で説法を受けた時の記憶を思い起こした。
貴族である以上、教会との繋がりは大事にしなければならない。
教会の権力は侮り難く、様々な祭儀において便宜を図って貰う事が多いからだ。
だから決して信仰崇拝に熱心ではなく、建前として熱心な素振りを演じている。
だって信仰する主神がリュシーファなのだ。
余計に信仰する気が失せるというものだろう。
「それは建前ッスよ。実際は教会でも奴隷を使役してますし。そもそも奴隷市場の発端は教会の仕業ッスよ。時の皇帝と共に邪教徒を制圧したのはいいけど、数の多さに困った挙げ句に売り飛ばしたのが起源ッス」
ろくでもない起源説だ。
そんな連中が宗教家として人に教えを説いて良いのかと考えてしまう。
まあ、大昔の出来事を今に持ってきても仕方がないのだが。
「どうにかして司祭を説得しないとな。このままじゃエルネスト商会を譲り受ける話は御破算になる」
「そりゃ困るッス!こんなチャンスは二度と無いッスよ!」
「そうだな。エレオノーラと結婚出来ないと嫌だよな」
俺は悪戯っ子の笑みを浮かべてアスタールをからかった。
エレオノーラに惚れているアスタールは強く否定することができず、小さい声で「いや、それは、ほ、ほら、従業員が路頭に迷うと困るッスから」と要領の得ない事を呟いていた。
「失礼します。エレオノーラ様をお連れしました」
リオンと共に執務室に現れたエレオノーラは顔を合わせるなり申し訳なさそうに頭を下げた。
「この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「いや、エレオノーラは何も悪くないよ。悪いのは明確な理由もないのに認めない司祭さ」
「ですが、教会の認可を得られないのでは結婚は出来ませんし。なによりオスカーシュタイン家にご迷惑が」
従業員の行く末を心配しながらも気遣いを忘れないとは。
さすがはエルネスト商会を率いてきた女傑だけはある。
「司祭の機嫌を損ねたくらいで教会と不和にはならないさ。父上は枢機卿と仲が良いし、教皇の覚えも良いみたいだからね」
「そうですか」
エレオノーラは安堵したように胸に手を当てた。
実際は多額の寄付をしているから、なのだが。
辺境伯のオスカーシュタイン家が王都にいる教皇や枢機卿の関心を得るには他に手がない。
地獄の沙汰も金次第。
おかげで枢機卿と面識を持ち、教皇に名を売る事が出来た。
まあ、それだけ多額の寄付を行って信頼を買っているのだ。
これくらいの事で関係にヒビが入っては堪らない。
「問題はどうやって司祭を説得するかだ。このままじゃエルネスト商会から権利を得る事も難しくなる。元奴隷という理由でアスタールが拒絶されたんじゃ会長に就任出来ないだろうからね」
もっともらしい文句をエレオノーラに告げた。
俺は是が非でもアスタールとエレオノーラを結婚させたいからだ。
今まで俺のワガママで振り回し、しかし一生懸命に尽力して結果を出てきたアスタール。
その忠臣の幸せを叶えてやりたい。
惚れた女と一緒になる。
そんなささやかな幸福くらい叶えてやったっていいだろう。
危惧していたのはエレオノーラの気持ちだった。
元奴隷のアスタールを受け入れてくれるのか。
身分格差が顕著なだけに嫌悪されても仕方がない。
だが、エレオノーラは出自が庶民であったため偏見は無かった。
むしろエルネスト商会を救ってくれたアスタールに好意を抱いていたほどだ。
だからこそ俺は結婚に反対する司祭に怒りが湧いていた。
もちろん表情にはおくびにも出さないが。
フツフツとはらわたが煮えくり返っている。
「司祭のロジャーノは顔見知りですが、奴隷に偏見のある人物ではなかったはずです。少なくとも私の目にはそう見えていました」
エレオノーラは困惑しながらロジャーノの人物像を説明した。
エルネスト商会を率いてきた女傑の鑑定眼は確かだ。
だからロジャーノが偏見で反対している可能性より、他に理由があると見た方がいいだろう。
「もしかしてロジャーノはエレオノーラさんに好意を持ってるんじゃないッスか」
「ホホホッ、それは有り得ませんわ。彼は色恋に興味がありませんもの。言い寄る女性は多いけれど、色欲の感情を表した姿を見た事が御座いませんわ」
「背が高くて顔立ちも良いからな。放っておいても女性が言い寄るのは理解できるけど。いくら聖職者でも男性なら女性に言い寄られて完全に感情を押し殺すって出来るものかな?」
「エルロンド様はお若いですから理解できないのも仕方がありませんわ。教会の司祭ともなれば厳しい自己管理を行っているものです。特に禁欲は聖職者にとって最重要事項ですもの。感情をコントロールする事くらいは出来るのではありませんか」
子供だからと理由にされたのは癪だがエレオノーラの意見にも一理ある。
前世でも坊さんが禁欲生活していた時代があったのは確かだ。
もちろん欲に負けた破戒僧も少なくはなかったが。
「エレオノーラに固執してないなら反対する理由がわからないな。奴隷にも偏見がなく、エレオノーラにも恋慕してないなら、他に何の理由があって反対してるんだろう」
「やはり元奴隷が準貴族の地位になるのが嫌なんじゃないッスか。あるいは他の商会から圧力を受けたとか。教会も寄付が無ければ運営出来ないッスから」
「う~ん・・・・・・可能性として無くはないな。他の商会の反応はどんな感じかわかるか?」
振られたエレオノーラは細い顎先に手を当てて記憶を思い起こしながら考察すると。
「特に反対する感じでは無かったと思いますわ。もちろん批判的な感情は見受けられましたが、結婚に対しては歓迎していたと思います」
「批判的な感情とは、アスタールが元奴隷で結婚を機に準貴族になることか?」
「恐らく、それ以外の理由が見当たりません」
「ふぅ~・・・・・・じゃあ、そこら辺を探るしかないか」
奴隷に対する蔑視の感情に心底から辟易した。
平和な日本で暮らした前世があるだけに、どうしても唾棄すべき嫌悪の感情が湧き上がる。
奴隷に堕ちた人間が努力して成り上がってはいけないのだろうか?
仮に自分自身がそうなったら絶望すると思わないのだろうか。
それが現世の価値観だから憤っても仕方が無いのだが、どうにも納得し難い現実に苛立ちが募る。
「リオン」
「はっ!」
「いくら金を使っても構わない。ロジャーノの情報を片っ端から集めてくれ。些細な情報も漏らさず全てだ」
「承知しました」
リオンは一礼すると足早に執務室を出ていった。
これで暫くグラスに逗留する事になるだろう。
モストティアにはいつ発てることやら。
「あっ・・・・・・」
忙し過ぎて大事なことを失念していた。
俺は困ったように人差し指で頬を掻き。
「アスタール。すまないがテイルに出発が延期になったと伝えておいてくれないか」
「あっ・・・・・・そうッスね。テイルの事すっかり忘れてたッス」
きっと今後テイルは今か今かと出発を待っている事だろう。
無理言って同行した上に待ちぼうけを食わせて申し訳ない事したな。
テイルを振り回して悪い事したなと少しだけ反省した俺は、アスタールに命じて高級な酒と女を手配して届けさせたのだった。
まさかエレオノーラと電光石火で婚約にまで漕ぎ着ける事になろうとは、夢にも思わなかったはずだ。
かく言う俺自身も速すぎる展開に若干の早まった感を覚えた程だ。
とはいえ未亡人が直ぐに再婚するのは珍しい事ではない。
夫が戦場に出る家系では、むしろ常套手段として多用されるくらいだ。
それは財産や領地を守るために他ならない。
だから貴族の婦人は常日頃から有望な男子に触手を伸ばして恋愛に勤しんでいる。
貴婦人と騎士の不倫関係は、そういう意味合いもあったりするのだ。
だからアスタールとエレオノーラの結婚に倫理的な問題はない。
ただ一つだけを除いては。
「やっぱり問題視されたか」
「仕方ないッスよ。俺が奴隷だった事は消しようのない事実ッスから」
そうなのだ。
アスタールは元奴隷で、俺が購入して商人として用いた人材なのである。
身分格差の激しい今の時代では、一度奴隷に堕ちた人間は差別の対象にされる。
だから豪商婦人のエレオノーラとでは身分的な格差が明白なため、反対する人間が必ず出てくるのだ。
今でこそ伯爵家の子息に重用された商人として名を馳せているが、蔑視の感情だけは依然として向けられたままだった。
そんなアスタールがエルネスト商会の次期会長になる。
大手に並ぶ規模の商会だ。
身分的には準貴族的な地位になるのは間違いない。
しかもエレオノーラという美人を娶ってのことだ。
当然、不愉快に思う人間が出てくるだろう。
その筆頭が交易都市グラスの司祭だった。
祝福すべき立場の人間でありながら、身分格差を理由に公然と批判したのだ。
おかげで順調だった結婚に水を差されて難航している、というのが現状である。
「それはそうかもしれないけど。しかし困ったな。まさか司祭が反対するとは想定してなかったよ」
エルネスト商会の執務室で椅子に寄りかかっている俺は重い溜息を吐いた。
言い方は悪いが、サッサと形をまとめて出発したいからだ。
本来の目的はモストティアに行って鉄を購入する事なのだ。
いつまでもグラスで足止めを食っている訳にはいかない。
「まあ、前代未聞のことッスからね。協会の教義に反するんじゃないッスか?」
「馬鹿馬鹿しい。過去にも奴隷と貴族が結婚した事例はあるじゃないか」
「それは奴隷が亡国の貴族だったからッスよ。元々の身分が高かったから例外的に認められたレアケースで、生粋の庶民の俺とじゃ宝石と石ころッス」
「そもそも教会の教義に人間は生来身分の上下はない。って説かれてなかったか?」
俺は教会で説法を受けた時の記憶を思い起こした。
貴族である以上、教会との繋がりは大事にしなければならない。
教会の権力は侮り難く、様々な祭儀において便宜を図って貰う事が多いからだ。
だから決して信仰崇拝に熱心ではなく、建前として熱心な素振りを演じている。
だって信仰する主神がリュシーファなのだ。
余計に信仰する気が失せるというものだろう。
「それは建前ッスよ。実際は教会でも奴隷を使役してますし。そもそも奴隷市場の発端は教会の仕業ッスよ。時の皇帝と共に邪教徒を制圧したのはいいけど、数の多さに困った挙げ句に売り飛ばしたのが起源ッス」
ろくでもない起源説だ。
そんな連中が宗教家として人に教えを説いて良いのかと考えてしまう。
まあ、大昔の出来事を今に持ってきても仕方がないのだが。
「どうにかして司祭を説得しないとな。このままじゃエルネスト商会を譲り受ける話は御破算になる」
「そりゃ困るッス!こんなチャンスは二度と無いッスよ!」
「そうだな。エレオノーラと結婚出来ないと嫌だよな」
俺は悪戯っ子の笑みを浮かべてアスタールをからかった。
エレオノーラに惚れているアスタールは強く否定することができず、小さい声で「いや、それは、ほ、ほら、従業員が路頭に迷うと困るッスから」と要領の得ない事を呟いていた。
「失礼します。エレオノーラ様をお連れしました」
リオンと共に執務室に現れたエレオノーラは顔を合わせるなり申し訳なさそうに頭を下げた。
「この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「いや、エレオノーラは何も悪くないよ。悪いのは明確な理由もないのに認めない司祭さ」
「ですが、教会の認可を得られないのでは結婚は出来ませんし。なによりオスカーシュタイン家にご迷惑が」
従業員の行く末を心配しながらも気遣いを忘れないとは。
さすがはエルネスト商会を率いてきた女傑だけはある。
「司祭の機嫌を損ねたくらいで教会と不和にはならないさ。父上は枢機卿と仲が良いし、教皇の覚えも良いみたいだからね」
「そうですか」
エレオノーラは安堵したように胸に手を当てた。
実際は多額の寄付をしているから、なのだが。
辺境伯のオスカーシュタイン家が王都にいる教皇や枢機卿の関心を得るには他に手がない。
地獄の沙汰も金次第。
おかげで枢機卿と面識を持ち、教皇に名を売る事が出来た。
まあ、それだけ多額の寄付を行って信頼を買っているのだ。
これくらいの事で関係にヒビが入っては堪らない。
「問題はどうやって司祭を説得するかだ。このままじゃエルネスト商会から権利を得る事も難しくなる。元奴隷という理由でアスタールが拒絶されたんじゃ会長に就任出来ないだろうからね」
もっともらしい文句をエレオノーラに告げた。
俺は是が非でもアスタールとエレオノーラを結婚させたいからだ。
今まで俺のワガママで振り回し、しかし一生懸命に尽力して結果を出てきたアスタール。
その忠臣の幸せを叶えてやりたい。
惚れた女と一緒になる。
そんなささやかな幸福くらい叶えてやったっていいだろう。
危惧していたのはエレオノーラの気持ちだった。
元奴隷のアスタールを受け入れてくれるのか。
身分格差が顕著なだけに嫌悪されても仕方がない。
だが、エレオノーラは出自が庶民であったため偏見は無かった。
むしろエルネスト商会を救ってくれたアスタールに好意を抱いていたほどだ。
だからこそ俺は結婚に反対する司祭に怒りが湧いていた。
もちろん表情にはおくびにも出さないが。
フツフツとはらわたが煮えくり返っている。
「司祭のロジャーノは顔見知りですが、奴隷に偏見のある人物ではなかったはずです。少なくとも私の目にはそう見えていました」
エレオノーラは困惑しながらロジャーノの人物像を説明した。
エルネスト商会を率いてきた女傑の鑑定眼は確かだ。
だからロジャーノが偏見で反対している可能性より、他に理由があると見た方がいいだろう。
「もしかしてロジャーノはエレオノーラさんに好意を持ってるんじゃないッスか」
「ホホホッ、それは有り得ませんわ。彼は色恋に興味がありませんもの。言い寄る女性は多いけれど、色欲の感情を表した姿を見た事が御座いませんわ」
「背が高くて顔立ちも良いからな。放っておいても女性が言い寄るのは理解できるけど。いくら聖職者でも男性なら女性に言い寄られて完全に感情を押し殺すって出来るものかな?」
「エルロンド様はお若いですから理解できないのも仕方がありませんわ。教会の司祭ともなれば厳しい自己管理を行っているものです。特に禁欲は聖職者にとって最重要事項ですもの。感情をコントロールする事くらいは出来るのではありませんか」
子供だからと理由にされたのは癪だがエレオノーラの意見にも一理ある。
前世でも坊さんが禁欲生活していた時代があったのは確かだ。
もちろん欲に負けた破戒僧も少なくはなかったが。
「エレオノーラに固執してないなら反対する理由がわからないな。奴隷にも偏見がなく、エレオノーラにも恋慕してないなら、他に何の理由があって反対してるんだろう」
「やはり元奴隷が準貴族の地位になるのが嫌なんじゃないッスか。あるいは他の商会から圧力を受けたとか。教会も寄付が無ければ運営出来ないッスから」
「う~ん・・・・・・可能性として無くはないな。他の商会の反応はどんな感じかわかるか?」
振られたエレオノーラは細い顎先に手を当てて記憶を思い起こしながら考察すると。
「特に反対する感じでは無かったと思いますわ。もちろん批判的な感情は見受けられましたが、結婚に対しては歓迎していたと思います」
「批判的な感情とは、アスタールが元奴隷で結婚を機に準貴族になることか?」
「恐らく、それ以外の理由が見当たりません」
「ふぅ~・・・・・・じゃあ、そこら辺を探るしかないか」
奴隷に対する蔑視の感情に心底から辟易した。
平和な日本で暮らした前世があるだけに、どうしても唾棄すべき嫌悪の感情が湧き上がる。
奴隷に堕ちた人間が努力して成り上がってはいけないのだろうか?
仮に自分自身がそうなったら絶望すると思わないのだろうか。
それが現世の価値観だから憤っても仕方が無いのだが、どうにも納得し難い現実に苛立ちが募る。
「リオン」
「はっ!」
「いくら金を使っても構わない。ロジャーノの情報を片っ端から集めてくれ。些細な情報も漏らさず全てだ」
「承知しました」
リオンは一礼すると足早に執務室を出ていった。
これで暫くグラスに逗留する事になるだろう。
モストティアにはいつ発てることやら。
「あっ・・・・・・」
忙し過ぎて大事なことを失念していた。
俺は困ったように人差し指で頬を掻き。
「アスタール。すまないがテイルに出発が延期になったと伝えておいてくれないか」
「あっ・・・・・・そうッスね。テイルの事すっかり忘れてたッス」
きっと今後テイルは今か今かと出発を待っている事だろう。
無理言って同行した上に待ちぼうけを食わせて申し訳ない事したな。
テイルを振り回して悪い事したなと少しだけ反省した俺は、アスタールに命じて高級な酒と女を手配して届けさせたのだった。
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