おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ

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067 ジャミルの現状

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「ふぅ……」

中性的な顔立ちの青年は深いため息をついた。
装飾の施された高級な椅子に背を傾けて、ティーカップが一つ置かれただけのテーブルに肩肘をつき、頬杖をついて遠くを見る目で物思いにふけっている。

物憂げなその姿は絵画のように見栄えた。
王都住まいの暇を持て余した貴婦人達が見れば黄色い声を上げるだろう。
事実、彼は王都でも名の知れた存在だった。

優れた文才は王都で催された詩歌や絵画の大会で数々の栄光を誇っている。
その上、晩餐会では華麗なダンスを披露して貴婦人達を魅了していた。
無骨な家系に現れた文化人として名を馳せ、若干15歳ながら将来を有望されている。
そのため年頃の娘を持つ貴族達は良縁を求めて彼との仲を取り持つ事に余念がなかった。

「煩わしい限りだな……」

ポツリと呟いた。
不満ではない。
呆れにも似た感情である。
その原因は手に持っている手紙にあった。

「豚が何か言ってまいりましたか?」

そう聞きつつ若者はティーポットを傾けて熱い紅茶を注いだ。
主人であるジャミルに負けず劣らずの美青年である。
仕立ての良い衣服を着て、高度な礼儀作法を窺わせる流麗な所作で紅茶と菓子をジャミルに給仕した。

「口を慎めローレンツ。落ちぶれた豚でも枢機卿だぞ」

「これは、ジャミル様の方が酷い言い様かと」

ローレンツ・オルトーは小さく笑った。
ムンジェスに対する軽蔑はそのままに。

「そうだな、確かにそうだ」

ジャミルはフッと笑うと淹れたての紅茶を口にした。

「だが男爵家の三男が言って良い言葉ではないな。例え正しいとしてもだ。愚鈍な豚の機嫌を損ねたら面倒な事になる」

「心得て御座います。豚の前では聖人を持て成すように振る舞いましょう」

ローレンツは胸に手を当てて丁寧に一礼した。

「それにしても目障りな奴だ。何度説明しても理解できんらしい。今が慎むべき時期だとどうして分からないのか」

「それだけ金に執着が強いという事では?」

「貧すれば鈍する、か。羽振りの良い時はそこそこ使える奴だったのだがな。どうにも過去の栄華が忘れられんらしい」

手紙をローレンツに差し出した。
無言で読んでみろと催促する。

「拝見いたします」

ローレンツは丁寧に受け取ると内容を確認した。
記載された情報を受け取ると不機嫌そうに眉根を寄せる。

「なるほど、諜報員の報告書でしたか。しかし困った内容ですね。豚がよからぬ行動に出ているようですが、如何なさいますか?」

「放っておけばいい。どうせ奴一人では何もできん。非合法の商品は俺の手中にあるからな。それよりも、問題はシュキンベルだ」

「ゴブリンめが目ざとくも嗅ぎつけたようですね」

ムンジェスが豚ならシュキンベルはゴブリンと、ローレンツの言葉には嫌悪感が色濃く根付いていた。

「女商人に偽装していたのだがな。やはり断罪裁判の件が悪い結果を招いたようだ。ムンジェスめが愚鈍なせいで手助けしたが、それが裏目に出たのだろう」

断罪裁判にはムンジェスと共にシュキンベルも枢機卿として列席していた。
傍聴者席がよく見える配置だったため、声を上げたジャミルを視認できたはずだ。
それが正体に気づかせる要因になったかもしれない。
エルロンドを追い落とすために躍起になった結果がこれだ。
ジャミルは返す返すも浅慮だったと猛省していた。

「レミントン枢機卿が豚の後釜の最有力候補かと思っておりましたが」

「デグメットの後援を得たようだが果たしてどうなることか。シュキンベルには中堅だが小賢しい連中が後援に付いたようだ。流れ次第ではどちらにも転ぶ可能性がある。軽々に結論を出す訳にはいかなそうだ」

ムンジェスが用済みになれば新しい後釜と手を結ぶ必要がある。
それだけに先の読めない後釜争いはジャミルの頭を悩ませた。

「最良なのはシュキンベルでしょうか。ムンジェスに負けず劣らずの品性下劣な輩です。ですがレミントン枢機卿は頭の切れる御方。手を結ぶのも大変なのでは御座いませんか?」

ローレンツは堂々と私見を述べた。
自分がジャミルの腹心であると自負するように。

その思惑を察したジャミルは微笑を浮かべた。
そしてムンジェスとシュキンベルを嫌悪しつつも、レミントンには一目置いていると感じ取る。

「シュキンベルに協力してレミントンを追い落とすべし、か。確かにローレンツの言い分にも一理ある」

ジャミルに褒められローレンツは嬉しそうに笑みを浮かべた。

嫌悪する相手でも利益に繋がるなら手を結ぶべき。
ローレンツはそういう柔軟な考え方ができる。
だからジャミルはそばに置いて重用していた。

「だが同じ轍を踏む可能性がある愚か者でもある。そういう意味では大変でもレミントンと手を結ぶ方が有益だ。奴なら下手を打って馬脚を露わす事はまず無いだろうからな」

「なるほど、たしかに仰られる通りかと。私の考察は浅はかで御座いました」

ローレンツは浅慮を恥じるように頭を下げた。
それをジャミルは手で制し。

「いや、一考の余地はある。レミントンを追い落とす算段は考慮しておくべきだ。手を結べない場合には脱落してもらわねばならないからな」

「承知いたしました。諜報員を増員してレミントンの周辺を探らせましょう」

「ああ、頼んだ」

ローレンツは丁寧にお辞儀すると部屋を出て行った。
ジャミルは椅子にもたれかかって天を仰ぎ深い溜息をつく。

「しばらくはアルフレッドに溝を開けられるな。……くそっ、手痛い失態だ」

ジャミルは後悔の念を滲ませつつ諜報員の手紙をロウソクの火で燃やした。
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