ある情事

アキノナツ

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【3】話をしよう。

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ぽや~としてます。
波風のない二人…かな?


==========



パンパンと頬を叩く。
頭の片隅のピンクの思考を追い出す。

「ヨシ!」
パソコン前に陣取る。

ここから数時間集中……。



ーーーーーー取引終了。

「こんなもんかな……」
んーーーーッと伸びをして、席を立つ。

キッチンで簡単な昼食をとって、朝読み切れなかった新聞に目を通す。
テレビではニュースが流れてる。
粗方目を通すと、新聞入れにしてるボックスにボソンと入れる。

コーヒーを淹れ直して、午後に備える。
無理はしない。
柔軟に。自分を信じ、大きな視点で、繊細に。



午後の取り引き開始。
パソコン前に陣取る。
集中……



ーーーーーー取引終了。

ふぅ……

この緊張と開放が好きだ。
だから、辞めれないのだろう。

そこそこ。
うんうん、そこそこがいいのだ。
そこそこを続けるのが重要。

大きく儲けた事もあったが、大きく損失した事も経験してる。大きな痛手にはなってないのは、そこそこを続けてるからだろうか。
お陰さまで、大きく見れば儲けさせて貰っている。

さてと、メッセージアプリを立ち上げる。

『お待たせぇ』と送っておく。
昼間会うのは初めてだ。

昨晩の乱れっぷりが蘇って、股間が疼く。

今晩は無し!無し!
息子に言い聞かせる。オレの分身のくせして暴走しやがる。

昨晩の幹典みきのりさんの乱れっぷりは、なんだったんだろう…。
もの凄く煽情的で、乱れて、何時になくトンでた。

抱く度に、感度が上がってる気がする。

目元を赤くして乱れる幹典さんを抱き締められずにはいられない。
今まで付き合いが続かなかったって言ってたけど、なんでみんな離れちゃったのか不思議だ。

抱く方でも色っぽいと思うし、きっと優しく情熱的に抱いてたと思うんだけど。

同棲したら、毎日でもしたいし、ずっとくっついていたい。
あのフカフカのおっぱいに顔をすりすりするのが好き。いつまでも揉める。

んーーーー、これではダメだなぁ。身体だけって思われる!
話がしたいって言ってたんだから。

同棲って言葉に驚いてた。

こういうところを見透かされてるんだ。だから、「いいね」って即答してくれなかったんだ。
そうじゃないんだからね!ってところをちゃんと見せないと。

クローゼットを開けて、物色する。




待ち合わせはベタに駅の前の噴水広場。

近づいて、幹典さんの場所はすぐに分かった。

すれ違う女子の視線が同じ方向を向いてる。
見遣れば、幹典さんがスマホを触って、花壇の側に立っていた。
モデルさんですか?

今日は濃紺のジャケットに中に薄手の燕脂のタートルネック。濃紺のスラックスに黒っぽい革靴。すらりとしたモデル体型にお似合いです。

照れ臭くて、無言で幹典さんの腕をトントンと叩く。

オレはめっちゃカジュアルに纏めてしまった。
青系のチェック柄スイングトップに全面プリントの白Tシャツ。カーキ色のスラックス。足元は濃紺のバッシュ。頭に薄茶の大きめのきのこ型の細かいチェック柄のキャスケットをもっこり被ってる。

里見さとみくん、可愛いね」
率直に感想を伝えてくれてるのだろうけど、周りが誤解してる。
周りの視線が痛い!

彼女かなんかだと思われてるみたいだ。
ここで喋ると、男だと脆バレなので、サッサと移動してしまおう。
バレても良いんだけど、周りのイメージを壊したくなかった。
彼ってカッコイイもんね。

袖をクイッと引っ張って移動を促す。
オレは長身だけど、彼の隣だと少し低いから、女性だと勘違い? 格好から勘違いされたか。

繁華街に向かう横断歩道を肩を並べて歩く。
コーヒーショップが目につく。
ツイッと指差すと、頷いてる気配がする。

適当に頼んで、席について幹典さんの手元を見て驚いた。
なになに?!クリームとかなんか乗ってるんですけどぉ?

オレの視線に気づいて、柔らかく笑う。
「コレ、美味しいよ?」
ストローを弄ってる。
なんだか可愛い。

「幹典さん、こういうところ慣れてる?」
「どうかなぁ。買ったのは初めて。同僚とかが買ってるの見てたり、生徒が教えてくれる事もあるから、知ってるだけだよ」
「生徒?」

太めのストローを咥えて、一口。喉が動く。
色っぽい……。絵的にアンバランスなのが、倒錯的なのが、反対にイイ。

「やっぱりお話するのはいいね。私の事も話してなかったね。塾で講師をしている」
講師? 先生なの?

「里見くんは?」
オレの職業か。デイトレーダー? 投資家? んーーーー?
「えーと、株やってる。デイトレーダー的な?」
職業を名乗った事なかったからオドオド。

「そうなんだ。よく知らないけど、神経使いそうだね。大変そうだ」
やんわり、ふんわり話す。バーでも思ってたけど、静かに話す人だ。

煙草とか燻らしてる姿が似合いそうだ。
でも、煙草は吸わないと思う。
以前出てきた灰皿を断ってた。

今日はいつもよりふんわりセットした髪がシャープな顔立ちなのに表情を優しく見せる。
額に少し髪が掛かってる。

「塾でもそんな風に話すの?」
「ん? どうかなぁ。厳しいと言われるけど。生徒は質問に来てくれたり、雑談はよくしてくれるから、怖がられてないとは思うけど」
たぶん、授業中はキリキリした声で、普段がコレだ。ギャップ萌えされてるんだろ。

よくここまで、恋人作らずに来れたな。

「塾だから土日祝が基本ダメなんだ」
「そう」
クリーム掬ったり、溶かしたりして飲んでる。時々首を傾げてカップを眺めてる。たぶん『コレどうやって飲むんだ?』って悩んでるんだ。

「その飲み方で合ってると思うよ。好きに飲めばいいよ」
目を見張ってオレを見てる。
なんかしたか?

「ありがとう」
柔らかく笑われた。

「教科、何?」
照れる。
「数学」
静かに語る声に聞き入る。
手元のカフェオレを啜った。

オレたちは、空いてた席に座っただけだったが、その席はガラス張りの通りに面した席だった。

突然、制服姿の女子学生がガラスをコツコツと叩いた。
五人ぐらいいる。
幹典さんが見遣って、微笑むと手を振る。女学生は外で何か言ってるが、よく聞こえない。
幹典さんが腕時計を向けて、指先で盤面をコツコツ叩いて手を振る。
じっと盤面を見てる子が、ハッとして、周りに何か言って、きゃーきゃー騒ぎながら、皆慌ただしく手を振って駆けていった。

「ギリギリだな…」
「生徒?」
「うん。明日の授業中は煩くなるな」
顎に手を当てて眉間にシワ。どう収めようか考えてるのかな?

「職場近かったんだ」
「別に構わない。里見くんは、弁えてくれる人だと思ってるから」

「ありがとう」
更に照れ臭くなった。
ゆっくりした時間だ。

「居酒屋でいいかな。もっと洒落た感じのところがいい?」

明るいところで話すのは良かったかもしれない。

もっと、もっと幹典さんの事が知りたい。


◇◇◇


動悸が変だ。
落ち着いて話が出来ただろうか。
路地の奥にある行きつけの居酒屋へ。
オヤジ臭いかな。

カウンター席で隣り合って座った。

料理は大将に任せた。

里見くんは、キョロキョロしてる。
お気に召さなかったか?
「居酒屋って言うから、チェーン店とか想像してた」
なるほど……。
そっちにすれば良かったかな。
「今度はそっちにしましょうか」

「こっちの方がいい」
お通しとぬる燗。
あ、ビールの方が良かったのか?
訊けば良かった。

「勝手に決めてしまった。次は一緒に考えようか?」
完全に浮かれてる。

お猪口をコツと合わせる。
「お疲れさま」
里見くんは仕事明け。
「明日の英気を」
里見くんは優しい。




店を出た時、足元が少々怪しかった。
「幹典さん、帰れる?」
「大丈夫」
頭が回るな。ちょっと飲み過ぎた。悪い回り方では無い。気分が良い。
悪い酒では無いので、すぐ抜けるだろう。

駅まで一緒に戻って、別れた。

電車の向きが違う。
向こうのホームで小さく手を振ってる。
可愛い。

手を上げて応える。
ふわふわと幸せに浸っていた。

この人となら、こんな私も受け入れてくれるように思った。

変な動悸は相変わらずだけど、変に緊張せず居れた。
いつも演じてるようなあの感覚もなかった。

同棲の話、実現にしていいかなぁ。
話に乗ってくれるだろうか。

里見くんの電車が入ってくる。
こちらから見える扉に近寄って、視線を送ってくれる。

スマホを取り出して、コールボタン。

耳に当てる。

里見くんが慌ててる。電車の中だから喋れないけど、耳には当ててくれてる。
視線は捉えてる。電車が動き出す。

「里見くん、好きだよ」

通話を切った。

里見くんを乗せた電車は小さくなってる。
私の乗る電車が入ってくる。
扉が開いて乗り込むと、握りしめてたスマホが震える。
メッセージ。

『オレもです』
『好きです』
次々と…可愛いスタンプがいっぱい送られてくる。
ハートも飛んでる。

殺風景な私のスマホが急に華やかにピンク色に染まった。
思わず笑みが溢れる。

顔を上げて、驚いた。
黒い窓ガラスに蕩けた私がいた。
酒に酔ったおっさんに見えるだろうが、コレは色ボケした顔だ。

俯いて、熱い息を吐き出した。

もうメロメロだよ、里見くん。



==========

おじさんの告白でした。
面と向かうと言えない。
お酒の力も借りた。
文明の利器も使った。
なけなしの勇気も振り絞っての所業です。
(⌒-⌒; )
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