現実世界への戻りかた

蜜柑

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イフリートの鎧編

蒔き番と少女の独白

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 山のように積んである薪から少し大きめのを選び一つ手に取ると、ルシアナはゆらゆらと燃える焚き火に向かってそれを放り投げた。
 炎は一瞬形を変えるが直ぐに元戻りなり、ゴォーと激しく燃える。
 まだ夜は長い。夜は獣が活発になる時間帯だ。火を絶やさぬよう、時々こうして燃料を投下しなければいけないが.... 
 彼女は少し冷めた目で隣で大きなイビキをかきながら横たわる彼を見る。
 『薪番? それなら俺に任せてよ! こう見えても俺夜には強いんだ。会社の残業も夜遅くまで残ってやってるからさ。
 え、交代交代にしたほうがいいって? だから大丈夫だって大船にいや、豪華客船に乗ったつもりで俺に任せて。
 それにほら、夜更かしは美容の大敵って言うしさ』
 大輔の熱心な言葉に圧され仕方なく任せたものの結果がこれだった。
 豪華客船という響きに不安を覚え、起きた時には炎は小さく消えかけ.... おっさんが隣でイビキをかいて寝ていた。
 彼女が急いで薪をくべたことでなんとか事なきを得たが。
   薪をくべる途中彼女は思った。このおっさんも一緒に投下してやろうかと。
 「.... 仕方ない人です」
 例え彼が起きて代わるよと言ってもここは私がやろう。
 それに彼は知らない世界に来て早々危ない目にあい、私を庇ったことで肩にも負傷をおったのだ。傷を早く治すためにも休息が必要だろう。
 「しかし、どこまで話を信用したらいいのか」
 正直半信半疑だ。異世界から来たと言っていたが果たしてそれは信用していいのだろうか。
 彼の言葉を信じ、魔女だという可能性を捨てていいものだろうか。
 全て本当の事を言っているとは限らない。彼が嘘をついている可能性だってあるのだ。
 
 「もしそうだとすると、例の事を教えたのは不味いことかもしれないですね.... 」
 ローゼン王国の王妃の婚約の義。そこに祭司が来るというのはトップシークレットで王国の中でも少人数しかしらないこと。
 いくら情けなさそうなおっさんだからと言って、話すべきではなかったかもしれない。
 もし大輔が魔女と繋がっていたら.... 背筋に悪寒が走る。
 やはりここで切り捨てるべきかもしれない。
 ルシアナは腰に巻いた刀の柄に手を当てる。
 不思議と掌にじっとり汗が滲んでいた。
 何も緊張することはない。彼の服装は魔女の着ているローブとは違うが、全身黒く包まれている。
 王国の政府が出した条例。『黒い物を纏ったものは魔女と見なし、発見しだい即座にこれを抹殺せよ』にも該当する。
 政府の許しのため殺した所で罰せられることもない。
 それに魔女を殺せば騎士としての等級も上がる。
 ルシアナの等級は十等級の内の五等級だ。別に満足していないというわけではないが、やはり人間は高みを目指してしまうもの。上にいけるなら上に行こうとする。
 彼女は柄を握る
 「う~ん」
 何も知らないように、大輔は呑気に頬をかきながらごろんと寝返りをうつ。
 肩が痒いのか、ボリボリとかきむしろうとするが、ルシアナが柄から手を離しそれを止める。
 大輔の肩には少しずつ治癒していく加護を使ったのだが、痒くなっているのは傷が塞がり始めたからだ。
 明日の朝には治っているだろう。
 「.... よかった」
 いや、よくない。私は何をしている?
 さっきは斬ろうとしていたのに、今は傷が広がらないように、彼が肩を掻くのを抑えている。  
 「わからない.... 私は何を」
 大輔の手を離すと、手がだらりと落ちた。
 「何故私は大輔さんに大事なことを話した? 何故私は大輔さんの手当てを....  何故私は大輔さんと一緒にローゼン王国へ帰ろうとしたんでしょうか.... 」
 傷を手当てしたのは彼に向けていた敵対心が薄れたからだ。
 敵対心が薄れたのは.... 
  「大輔さんが私を庇ったうえに自分ではなく人の心配をしたから.... 」
 そうだ。大輔さんは私を庇った。命を助けてくれた人だ。
 「それを疑うなんて.... 」
 心がズキリと傷んだ。騎士としてやはりまだまだだと思い知らされる。
 それに彼は何処と無くあの人に.... 
 「いえ、それは関係ないですよね」
 ルシアナは小さくなった火に薪を放り投げると、「明日は早く出よう」
 そう独りごち、満点の星空を見上げた。
 
 
 
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