現実世界への戻りかた

蜜柑

文字の大きさ
9 / 13
イフリートの鎧編

蒔き番と少女の独白

しおりを挟む
 山のように積んである薪から少し大きめのを選び一つ手に取ると、ルシアナはゆらゆらと燃える焚き火に向かってそれを放り投げた。
 炎は一瞬形を変えるが直ぐに元戻りなり、ゴォーと激しく燃える。
 まだ夜は長い。夜は獣が活発になる時間帯だ。火を絶やさぬよう、時々こうして燃料を投下しなければいけないが.... 
 彼女は少し冷めた目で隣で大きなイビキをかきながら横たわる彼を見る。
 『薪番? それなら俺に任せてよ! こう見えても俺夜には強いんだ。会社の残業も夜遅くまで残ってやってるからさ。
 え、交代交代にしたほうがいいって? だから大丈夫だって大船にいや、豪華客船に乗ったつもりで俺に任せて。
 それにほら、夜更かしは美容の大敵って言うしさ』
 大輔の熱心な言葉に圧され仕方なく任せたものの結果がこれだった。
 豪華客船という響きに不安を覚え、起きた時には炎は小さく消えかけ.... おっさんが隣でイビキをかいて寝ていた。
 彼女が急いで薪をくべたことでなんとか事なきを得たが。
   薪をくべる途中彼女は思った。このおっさんも一緒に投下してやろうかと。
 「.... 仕方ない人です」
 例え彼が起きて代わるよと言ってもここは私がやろう。
 それに彼は知らない世界に来て早々危ない目にあい、私を庇ったことで肩にも負傷をおったのだ。傷を早く治すためにも休息が必要だろう。
 「しかし、どこまで話を信用したらいいのか」
 正直半信半疑だ。異世界から来たと言っていたが果たしてそれは信用していいのだろうか。
 彼の言葉を信じ、魔女だという可能性を捨てていいものだろうか。
 全て本当の事を言っているとは限らない。彼が嘘をついている可能性だってあるのだ。
 
 「もしそうだとすると、例の事を教えたのは不味いことかもしれないですね.... 」
 ローゼン王国の王妃の婚約の義。そこに祭司が来るというのはトップシークレットで王国の中でも少人数しかしらないこと。
 いくら情けなさそうなおっさんだからと言って、話すべきではなかったかもしれない。
 もし大輔が魔女と繋がっていたら.... 背筋に悪寒が走る。
 やはりここで切り捨てるべきかもしれない。
 ルシアナは腰に巻いた刀の柄に手を当てる。
 不思議と掌にじっとり汗が滲んでいた。
 何も緊張することはない。彼の服装は魔女の着ているローブとは違うが、全身黒く包まれている。
 王国の政府が出した条例。『黒い物を纏ったものは魔女と見なし、発見しだい即座にこれを抹殺せよ』にも該当する。
 政府の許しのため殺した所で罰せられることもない。
 それに魔女を殺せば騎士としての等級も上がる。
 ルシアナの等級は十等級の内の五等級だ。別に満足していないというわけではないが、やはり人間は高みを目指してしまうもの。上にいけるなら上に行こうとする。
 彼女は柄を握る
 「う~ん」
 何も知らないように、大輔は呑気に頬をかきながらごろんと寝返りをうつ。
 肩が痒いのか、ボリボリとかきむしろうとするが、ルシアナが柄から手を離しそれを止める。
 大輔の肩には少しずつ治癒していく加護を使ったのだが、痒くなっているのは傷が塞がり始めたからだ。
 明日の朝には治っているだろう。
 「.... よかった」
 いや、よくない。私は何をしている?
 さっきは斬ろうとしていたのに、今は傷が広がらないように、彼が肩を掻くのを抑えている。  
 「わからない.... 私は何を」
 大輔の手を離すと、手がだらりと落ちた。
 「何故私は大輔さんに大事なことを話した? 何故私は大輔さんの手当てを....  何故私は大輔さんと一緒にローゼン王国へ帰ろうとしたんでしょうか.... 」
 傷を手当てしたのは彼に向けていた敵対心が薄れたからだ。
 敵対心が薄れたのは.... 
  「大輔さんが私を庇ったうえに自分ではなく人の心配をしたから.... 」
 そうだ。大輔さんは私を庇った。命を助けてくれた人だ。
 「それを疑うなんて.... 」
 心がズキリと傷んだ。騎士としてやはりまだまだだと思い知らされる。
 それに彼は何処と無くあの人に.... 
 「いえ、それは関係ないですよね」
 ルシアナは小さくなった火に薪を放り投げると、「明日は早く出よう」
 そう独りごち、満点の星空を見上げた。
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...