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イフリートの鎧編
無力と無力
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放たれた風の球体は大地を削り、周りの木々を薙ぎ倒す。
一匹のトラドーラにぶつかると螺旋が生じ、周囲のトラドーラを巻き込みその命を散らせた。
風が収まり、大輔は亀のように丸めた体を起こすと目の前に広がる光景に唾を飲む。
地面は深く抉れ、辺りには木っ端微塵になった大木。
それは竜巻が去った後を彷彿とさせる。
そしてそれを引き起こした張本人は片膝をついて苦しそうに息をしていた。
「ルシアナちゃん!」
大輔は慌てて彼女に駆け寄る。ルシアナは玉汗をびっしりと浮かべ、何度も何度も息を吸っては吐いてを繰り返していた。
とても大丈夫そうには見えないが、それでも大輔は大丈夫と聞く以外言葉が思い付かず
「大丈夫?」
「はい大丈夫と言いたい所ですが、すみません。正直に言うともう限.... 」
そこまで言い、ルシアナは前のめりに倒れる。
大輔はそれを受け止めようとするが
「重!!」
鎧の重さに支えきれず、彼女はドシャリと倒れた。
「ルシアナちゃん! ルシアナちゃん!」
ガシャガシャ揺らすが、ルシアナは目を醒ます気配を見せない。
「ま、まさか.... 」
一抹の不安が過る。大輔は震える手で彼女の手を取ると、脈に当てる。
ルシアナの手は暖かく、脈もドクドクと動いている。
大輔は緊張の糸が切れた様に地面に腰を落とした。
「よかった.... 眠ってるだけだ」
しかし、うつ伏せだと呼吸しづらいだろう。四十代の力を精一杯振り絞り何とか仰向けにする。
ルシアナの顔には汗で髪がへばりついており、それを払ってやると、そこにはルシアナの憔悴しきった顔があった。
自分の情けなさにどうしようもない怒りを覚える。
「くそ!!」
大輔はやり場のない怒りに拳を地面に打ち付けた。
「ごめん.... ごめんルシアナちゃん。俺にも君みたいに力が使えれば」
加護や祈り、若しくは魔女みたいな魔術が使えれば大輔はルシアナの力になれただろう。
しかしそれは無理な話だった。
加護や祈り、魔術は生まれてから自然と神から授かる物。この世界の住人しか使えないのだ。
何の変哲もない別の世界から来た大輔はこの世界では部外者の存在だ。
何の能力も持たない大輔に出来ることは自分よりも若い騎士に守られること。ただそれだけ。
しかしその守ってくれる存在は、力を使い果たし眠っている。
今ここで獣や魔女が来たら大輔とルシアナの命は簡単に散ることだろう。
そしてどの世界でも悪いことは重なる物で。
パキリと枝を踏みしめる音に大輔は振り向く。
「嘘でしょ.... 」
大輔の目の前には全長三メートルの獣がカロロと唸り声をあげ向かってきていた。
黄色い体毛に覆われ、赤い瞳。涎を垂らす口からは鋭利な牙が見えるその獣の名はアーデルト。
凶暴な肉食獣だ。
「な、何で! ルファーの獣は殆どが夜行性なんじゃ.... 」
とにかく逃げないと、大輔はルシアナを必死に揺するが彼女は気絶したかのように目を覚まさない。
引きずってでも逃げようと考え、彼女を持ち上げるが、ずしりとくる重さにそれは無理だといきつく。
鎧を脱がす時間も無さそうだ。
「どうしたら.... 」
ーー残された方法は一つ。 何かが囁きザワリと胸が震えた。
それは誰しもが少なからず持つ悪の心だった。
悪魔は告げる。"ルシアナを見捨てろ。彼女が食われている間にどこかに身を隠せば生き残れる。
それに運がよければ他の騎士とも出会えるかもしれない。だからここは見捨てろ゙と。
「そんな事出来るわけないだろ! 彼女は.... ルシアナちゃんは俺を助けてくれたんだぞ!!」
"蓮奈に会いたくないのか? 死んだらそれまで。蓮奈が悲しむぞ?゙
「例えルシアナちゃんを見捨てて、蓮奈に会えたとしても.... 蓮奈は悲しむだけだ!」
゙そうか.... ならば大人しく死ね"
「死なない! 俺は絶対に戻る。待っている人の為にも俺は戻らないといけないんだ!」
大輔の決意を試すかのようにズシンズシンとアーデルトが距離を一歩ずつ詰めてくる。
汗が頬に伝るがそれでも大輔は目を背けず、祈った。
どんな事でもいい奇跡よ起きろと。そしてそれは叶った。大輔が最も望まない形で。
「.... そんな宣言は後にしてください。邪魔です」
「ルシアナちゃん!」
ルシアナはふらふらと立ち上がり、細剣を構え、アーデルトを目掛け駆け出す
行っちゃ駄目だ! 彼女の手を掴もうとするが、虚しくもそれは触れる事なく空を切る。
「例え彼女を止めたとして.... 俺に何ができるんだ」
大輔はひたすら耐えるように唇を噛み締めた。
一匹のトラドーラにぶつかると螺旋が生じ、周囲のトラドーラを巻き込みその命を散らせた。
風が収まり、大輔は亀のように丸めた体を起こすと目の前に広がる光景に唾を飲む。
地面は深く抉れ、辺りには木っ端微塵になった大木。
それは竜巻が去った後を彷彿とさせる。
そしてそれを引き起こした張本人は片膝をついて苦しそうに息をしていた。
「ルシアナちゃん!」
大輔は慌てて彼女に駆け寄る。ルシアナは玉汗をびっしりと浮かべ、何度も何度も息を吸っては吐いてを繰り返していた。
とても大丈夫そうには見えないが、それでも大輔は大丈夫と聞く以外言葉が思い付かず
「大丈夫?」
「はい大丈夫と言いたい所ですが、すみません。正直に言うともう限.... 」
そこまで言い、ルシアナは前のめりに倒れる。
大輔はそれを受け止めようとするが
「重!!」
鎧の重さに支えきれず、彼女はドシャリと倒れた。
「ルシアナちゃん! ルシアナちゃん!」
ガシャガシャ揺らすが、ルシアナは目を醒ます気配を見せない。
「ま、まさか.... 」
一抹の不安が過る。大輔は震える手で彼女の手を取ると、脈に当てる。
ルシアナの手は暖かく、脈もドクドクと動いている。
大輔は緊張の糸が切れた様に地面に腰を落とした。
「よかった.... 眠ってるだけだ」
しかし、うつ伏せだと呼吸しづらいだろう。四十代の力を精一杯振り絞り何とか仰向けにする。
ルシアナの顔には汗で髪がへばりついており、それを払ってやると、そこにはルシアナの憔悴しきった顔があった。
自分の情けなさにどうしようもない怒りを覚える。
「くそ!!」
大輔はやり場のない怒りに拳を地面に打ち付けた。
「ごめん.... ごめんルシアナちゃん。俺にも君みたいに力が使えれば」
加護や祈り、若しくは魔女みたいな魔術が使えれば大輔はルシアナの力になれただろう。
しかしそれは無理な話だった。
加護や祈り、魔術は生まれてから自然と神から授かる物。この世界の住人しか使えないのだ。
何の変哲もない別の世界から来た大輔はこの世界では部外者の存在だ。
何の能力も持たない大輔に出来ることは自分よりも若い騎士に守られること。ただそれだけ。
しかしその守ってくれる存在は、力を使い果たし眠っている。
今ここで獣や魔女が来たら大輔とルシアナの命は簡単に散ることだろう。
そしてどの世界でも悪いことは重なる物で。
パキリと枝を踏みしめる音に大輔は振り向く。
「嘘でしょ.... 」
大輔の目の前には全長三メートルの獣がカロロと唸り声をあげ向かってきていた。
黄色い体毛に覆われ、赤い瞳。涎を垂らす口からは鋭利な牙が見えるその獣の名はアーデルト。
凶暴な肉食獣だ。
「な、何で! ルファーの獣は殆どが夜行性なんじゃ.... 」
とにかく逃げないと、大輔はルシアナを必死に揺するが彼女は気絶したかのように目を覚まさない。
引きずってでも逃げようと考え、彼女を持ち上げるが、ずしりとくる重さにそれは無理だといきつく。
鎧を脱がす時間も無さそうだ。
「どうしたら.... 」
ーー残された方法は一つ。 何かが囁きザワリと胸が震えた。
それは誰しもが少なからず持つ悪の心だった。
悪魔は告げる。"ルシアナを見捨てろ。彼女が食われている間にどこかに身を隠せば生き残れる。
それに運がよければ他の騎士とも出会えるかもしれない。だからここは見捨てろ゙と。
「そんな事出来るわけないだろ! 彼女は.... ルシアナちゃんは俺を助けてくれたんだぞ!!」
"蓮奈に会いたくないのか? 死んだらそれまで。蓮奈が悲しむぞ?゙
「例えルシアナちゃんを見捨てて、蓮奈に会えたとしても.... 蓮奈は悲しむだけだ!」
゙そうか.... ならば大人しく死ね"
「死なない! 俺は絶対に戻る。待っている人の為にも俺は戻らないといけないんだ!」
大輔の決意を試すかのようにズシンズシンとアーデルトが距離を一歩ずつ詰めてくる。
汗が頬に伝るがそれでも大輔は目を背けず、祈った。
どんな事でもいい奇跡よ起きろと。そしてそれは叶った。大輔が最も望まない形で。
「.... そんな宣言は後にしてください。邪魔です」
「ルシアナちゃん!」
ルシアナはふらふらと立ち上がり、細剣を構え、アーデルトを目掛け駆け出す
行っちゃ駄目だ! 彼女の手を掴もうとするが、虚しくもそれは触れる事なく空を切る。
「例え彼女を止めたとして.... 俺に何ができるんだ」
大輔はひたすら耐えるように唇を噛み締めた。
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