眼鏡をこよなく愛する人畜無害の貧乏令嬢です。この度、見習い衛生兵となりましたが軍医総監様がインテリ眼鏡なんてけしからんのです。

甘寧

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episode.18

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「ん~……………」

シルヴィは悩んでいた。
睨みつけるように見ているそれは、実家から送られてきた一枚の手紙。

定期的に送られてくる手紙にはシルヴィの身体を心配する言葉や両親の近況が記されているものばかりだったが、今回に限っては違った。

「来る時が来たか……」

諦めるように呟いて、上司であるグレッグの元へと向かった。


◈◈◈


「──と、言う訳でして、しばらくお暇を頂こうと思います」
「シルヴィ。色々と端折るのはやめなさい。面倒でも主語は大事だよ?」

幼い子に言い聞かせるように諭され、渋々事の経緯を話す事になった。

「実は、実家の方でお見合い話が浮上致しまして……知っての通り我が家は貧乏貴族。そんな家にお見合いの話なんて棚から牡丹餅。鴨が葱を背負って来たみたいな状態で両親は歓喜雀躍でして。まあ、そんな訳でお見合い相手の私がいなければ話にならないので、お暇を頂こうと言う次第です」

丁寧に話し終えると、グレッグが眉間を押さえながら何故か悩まし気に深い溜息を吐いた。

「……またよりによってこんな時に……」

ブツブツと呟くグレッグの表情には疲れの色が現れている。

シルヴィにはその理由が分かっていた。

今の医局部は年に一度ある新薬の承認申請を前にみんな殺気立っていた。
この日の為に皆一年頑張ってきたと言える。それはアルベールも例外では無い。

新薬が承認されれば陛下からも認められ、地位も確約できる。
言わば、人生のかかった勝負。

ただし、前回新薬を承認されたのは数年前。直近で新薬が承認されたと言うの事実はない。そう、この新薬承認は審査が厳しすぎるのだ。

アルベールですら今だに一度も通った事がないと言うのだから相当だと思う一方、贔屓目無しにちゃんと審査してくれていると言える。

そんな訳で、シルヴィ達衛生兵もこの時ばかりは研究員として手伝いに回っていた。

「……とは言え、こればっかりは仕方ないね。分かったよ」
「すみません。ありがとうございます」

椅子にもたれ掛かっていたグレッグが了承してくれ、シルヴィはホッとした。

「ただし、総監にも了承を得る事。ここを仕切っているのは彼だからね」

その言葉に顔が引き攣った。

いや、推しに会えるのは嬉しい。それは変わりないのだが、今の総監様はちょっと……

シルヴィが尻込みするのも珍しいが、それほど今のアルベールは”近付くな要危険”状態。
と言うのも、今回の申請に並々ならぬ決意を持っているからなのだ。

それは何年もアルベールが研究している、細菌感染に特化した新薬の申請。
この世界には今だ細菌感染に有効な薬はない。
今あるものは多少症状は抑えられるものの、長期間の治療が必要となる。
その為、身体の弱い幼児や老人は時折命を落とすことも珍しくない。
健康な者でも随分とやつれ、後遺症が残ることすらある。

そんな者達をこれ以上増やさない為に、アルベールは何年も研究を続けてきた。
しかし、何度申請をしても許可が下りることはなかった。

その度に何が足りなかったのか何が悪かったのか追及し、この度、ようやく集大成と言えるものが出来上がった。
今回駄目なら総監を辞めると宣言までしているので、その意気込みは並半端なものでは無い。

今のアルベールは全身の神経が剥き出しの状態。
少しでも刺激すれば命すら危ない。
この状態でも近寄り難いのに、更に先日のライアンとの一件以来、アルベールの機嫌は史上最悪。猛獣すら可愛いと思えるほどだったのだ。

そんなアルベールに目の前のこの人は了承を貰って来いと言う。

(事実上の死刑勧告!?)

シルヴィがガクブルの状態でグレッグを見つめるが、グレッグは素知らぬ顔。

「彼の了承を得ないと僕も了承できないなぁ」

チラッと一応こちらを気にする様に言うが、シルヴィに選択肢はない。

肩を落とし渋々アルベールのいる執務室へ向かおうとすると「骨は拾ってあげるから」と満面の笑みのグレッグが手を振って送り出してくれた。

今度グレッグのお気に入りの高級茶葉に安っい茶葉混ぜてやろうと心に誓うのであった。
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