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episode.33

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元々おかしいと思っていた。
何故、この人はここまでして自分に執着するのか。
そりゃ、言い寄られる何かがあればいいのだが、平凡かつ没落寸前の令嬢なんて言い寄る価値もない。

(それに、この人、私と結婚するよりその先の何かを見据えている気がする)

まあ、シルヴィの気のせいと言えばそれまでなんだが、どうしてもその先が気になる。
ジッと見つめていると、パウルが笑い出した。

「あはははははは!!そうかそうか、君はやっぱ商人向きやね」

怪訝な表情で見つめるシルヴィにパウルは掛けていた眼鏡を外し、シルヴィに向き合った。

「ほんまは僕、目悪くないんよ」
「は?え?」
「君に気に入られる為に掛けとっただけや。やっぱ慣れんことするんやないね。目が疲れて適わんわ」

パウルは目頭を押さえながら呟いた。

まさかの眼鏡詐欺!!正直、拉致られたことより腹立たしい。
それと同時に伊達でも眼鏡には変わりないから推せるけどね!!と心の中で叫んだ。

まあ、眼鏡がない分、パウルの外見偏差値は半減。今のパウルなら見つめられても動揺することはない!!と自信が付いた。

「さてと、じゃ、本題でも話しましょか?」

不敵な笑みを浮かべたパウルが、シルヴィを欲する本当の理由を語りだした。

「僕が欲しいんは、君の家が保有しとる領地や」
「は?領地?」
「そうや。君は知らんかも知らんが、あそこの土壌は随分とええ養分を含んどる。農作物を育ててる者なら喉から手が出るほど欲するぐらいにはな」

まさに青天の霹靂。
あんな領地という名だけ付いた土地にそんな価値があったとは……

「それに、調べ取ったら鉱山もあるらしいな」
「はああああああああ!?」

確かに、あの領地だけは手放すなと言われて育ったが、そんな秘密があったとは……
というか、もしかしてその領地で一発逆転できる可能性があるってことじゃないの?
むしろ、なんで今までそこに気づかない!!!

「父様ーーーーー!!!」

シルヴィは自分の父の無能さに膝から崩れ落ちた。

「君のお父上を庇うつもりやないけど、お父上はその事知っとったよ」
「なんだと!?」
「あははははは!!顔顔!!女の子がそない顔するもんやない」
「今は顔なんてどうでもいい!!なんで知ってて事業にするとか考えないんだうちの馬鹿親は!!」
「ん~、今ある森林を守りたい。言うとったな」

パウルの言葉を聞いて毒気が抜けた。

(なるほどね……父様が考えそうな事だわ)

事業にしてしまったら森の形態系が変る恐れがある。それを危惧したのだろう。

「僕としてはそんな美味しいもんを目の前でチラつかされたら食いつかん訳にはいかんちゅう訳やね」

これですべてが分かった。
没落寸前だが、領地は手放さない。没落してしまえば領地は手に入るかもしれないが、誰かに取られる可能性もゼロではない。
それなら、一人娘であるシルヴィと縁を結べばすべてはうまくいく。
援助金と言ってもパウルからすればはした金。むしろその倍以上の価値は望める。
最初から領地を寄こせと脅すよりも、そちらの方が信用も手に入り後々扱い易いという事だろう。

(まったく手の込んだことを……)

だが、イレギュラーが訪れた。……アルベールだ。

「僕としては領地さえ手に入れば良かったんやけど、思いのほか君が気に入ってもうた」
「は?」
「君は今まで会った女の子達とは違う。僕に啖呵切ったり、僕に靡いたりしん。そこが気に入ったねん」

おやおやおや?なんかまずい展開だぞ?

パウルの目は明らかに熱が籠っている。恋に疎いシルヴィでも分かる。これは非常にまずい状況だと。

「ははは、いつもの勢いはどうしたん?ああ、もう一つ、黙っとった事があるんやけど……聞く?」

ここまで来たら全て聞かないと気分が悪くなりそうでシルヴィが小さくうなずくと、パウルが口を開いた。

「第一部隊の奴らやったんは僕やよ」
「は?」
「正確には僕の部下達やね」
「ちょ、貴方、商人でしょ?そんな人がマティアス大佐に適う訳ない」

有り得ないと思いながらパウルに聞き返すが、パウルは嘲笑うかのような笑みを見せた。

「何も商いだけが商売とは言うとらんやろ?」
「え?」
「僕は表向きは商人やけど、裏では手広く商売してるんよ。例えば、暗殺、諜報、時には謀反者に成り代わったりとかな。自慢やないけど、うちのもん相手にするんなら軍隊引き連れてこんと勝てんよ?」

得意げに話されても困るところだが、これは黒幕が自分だと白状したようなもの。
だが、マティアスが倒された時点でこの人達の実力は判明したようなもの。

(軍隊引き連れって……)

国一の軍隊が倒されてんだけど!?

この時点でシルヴィはどうしようもない絶望を感じていたが、更にどん底に落とされる事態になる。

「そんな訳で、全てを聞いた君はもう逃がすわけにはいかんくなったちゅうことやね」

そこで、シルヴィは自分の置かれた立場に気がついた。
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