一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧

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 ディルクとは、偶然が偶然を呼んだ結果の末に出会った。

 ──あの日は数日降り続いた雨で地盤が緩み、川も水かさが増して渦を巻くほどだった。
 森の獣らが心配になったシャルロッテは、大きなフードのついた外套を羽織り外へ出た。

 暫く森の中を見回っていたが川辺に差し掛かった時、助けを求める声が聞こえた。

 声を頼りに足早に進んでいくと、荒れる川の中で大岩に掴まり必死に助けを求める男の姿があった。
 しかし、その姿を見たのは一瞬だけで、あっという間に飲まれてしまった。

「大変!!」

 魔女という事が人に知られると厄介なのは分かっているが、そんな事はとうに頭からすっぱ抜けていた。

 慌てて呪文を口にすれば、すぐに引き上げることが出来たが、男は意識を失い息をしていなかった。

 シャルロッテは無我夢中で人工呼吸を施した。本で読んだだけの知識で、やり方があっているのか不安ではあったものの、やらないよりはいい。

 その思いが通じたのか「ゴホッ」と息を吹き返してくれた。とりあえず安堵したものの、このまま置き去りにする訳もいかない。仕方なく、自宅に連れて行き看病をすることにしたのだが、この決断が大きな間違いだった…

 家に着きしばらくして目を覚ました男は、この国の皇子だと名乗った。

 まあ、言われずともそんな気はしていた。

 上等な装いに、王家の紋章が入った剣を腰に差していれば嫌でも気が付く。

 温かいお茶を煎れながら、何故そんな者が川で溺れていたのかを訊ねてみた。

「森の様子を見に来た」

 山雪崩が起きれば大変な被害が及ぶ。その前に手を討とうとしたらしいのだが、ぬかるんだ斜面に足を取られて気が付いたら川に落ちていたと。

(随分と国民思いな皇子様ね)

 感心はするが、同情はしない。

「悪いけど、それを飲んだら帰ってくれる?ああ、私の事は黙っておいてね。喋りそうなら口封じの術を掛けなきゃだけど」

 これ以上ここに置いておく訳にはいかない。王族のなれば尚更だ。
 魔女は昔から忌み嫌われる存在。そんな者が森にいるなんて知られたら…
 魔女なんて迷信、御伽噺の世界で生きていればいい。

「命の恩人の君を晒すような事はしない。それだけは安心してくれ」
「そう」

 まあ、この男ならそう言うだろうと思ってた。

「なあ、また来てもいいか?」

 去り際、振り返りながらそんな事を言われたもんだから「辿り着けたらいいわよ」そう、安易に応えてしまった。

 数日後─

「来たぞ」

 綺麗な顔には泥をつけ、ウェーブのかかった髪には草や木の枝が絡まったまま、何食わぬ顔でやって来た。

 もう二度と会うことない、そう思っていた者の登場に驚きもあったが、それ以上に煌びやかな皇子とはかけ離れた姿に、シャルロッテは我慢できずに吹き出した。

「ぷっ……あははははは!!何なのその格好!!」

 腹を抱えて笑うなんていつぶりだろう。
 目に涙を浮かべながら笑い転げるシャルロッテを、口元を緩ませたディルクが見つめていた。

 この件を皮切りに、ディルクは頻繁に訪れるようになった。
 皇子様が魔女の家に入り浸るのは良くないと、何度も止めるように言ったが聞く耳を持たなかった。

 ここ最近は政務が忙しいらしく、随分と来る頻度は減ったがズルズルと関係を続けて、今現在…

「哉藍、言葉に語弊があるわ。元彼なんかじゃないわよ」
「へぇ~?その割には随分仲ようしとったな?」
「勘違いしないでよ。私にも選ぶ権利はあるわよ」
「あはははは!!皇子相手にそれ言うか!?」

 爆笑する哉藍を無視して、再び綺麗な文字が並んだ便せんに目を向けた。
 そこには、シャルロッテが最近ルイースと親しくしている事実を確認するような文面が並んでいた。

「はぁぁぁぁぁ~…」

 これは面倒なことになった。

 あの男が事実確認をシャルロッテ本人にする時点で、確証は得ているはずだ。親しい関係止まりならまだいい。身体の関係があると知られたら、面倒この上ない。

「追記やけど、絶世の美女って噂の姫さんな。本気で堕としに来とるらしいで?」

 いや、別にそれは全力で応援させていただきます。この際誰でもいいから、引き取って欲しい。

 ただ、問題が一つ。要らんことをルイースあいつが言わないという保証がない!!

 もし、そのお姫様に私の存在が知れた挙句に、身体の関係があったなんて知られたら…
 一国の姫の伴侶になろうとする男の子供を宿しているなんて、噂にでもなってみろ。それこそ魔女狩りの餌食だ。

 そもそも私の身体には常に避妊の術を施してあるから、いくら身体を重ねても子を孕む事はない。しかし、それを魔女本人が口で言った所で信用に欠ける。

「…哉藍。ディルに会いに行くわ」
「は!?」
「最短で事を終わらすには、私が直に行って話す方が早いのよ」
「まあ、正論やけど…正気か?」

 哉藍が歯切れ悪く聞いて来た。

 王宮なんて華やかな場所は肌に合わなくて、足を踏み入れたのはほんの数回。片手でも余るほどしかない。
 そんな場所に自ら進んで行こうとしているんだから、驚くのも無理はない。

「行ってやるわよ王宮へ」

 力強く宣言した。
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