7 / 18
侯爵令嬢キーカ・バルテン
しおりを挟む
暗闇に映えるような真っ白なワンピースに、足元は裸足。長い髪を靡かせ、その髪で顔を隠すように目元を覆っていれば、その出で立ちはまさに幽霊そのもの。グィードが横にいなければ悲鳴を上げているところだった。
謁見の場で見た時は、大人しい印象ではあったものの、こんな幽霊の様な風貌ではなかった。
「えっと……どう言う状況?」
未だに理解が出来ず、堪らず問いかけた。
「我々がここに来たのは、この方を探す為です。怪しい行動をしている者がいると耳にしましたので」
「あ、怪しい行動なんて、私してません……」
か細い声で反論してくるが、説得力がまるでない。十人に聞いて十人が「怪しい」と声を揃えて言うところ。
「それでは、貴女はこんな朝方に一体何をしていたんです?」
「そ、それは……」
モジモジとするばかりで、煮え切らない態度にグィードの笑顔が曇りだしてきた。
これはマズイ!と間に入ろうとしたが、それよりも先に飛び込んできた者がいた。
「キーカ!」
「エリス」
息を切らしながらやって来たのは、キーカの指南役である執事のエリス・ノヴカ。
殿下付きの執事であるエリスとキーカは幼なじみ。人見知りが激しく、内気なキーカを心配したエリスは自らキーカの指南役を志願した。
……と、ご丁寧に横でグィードが耳打ちするように解説してくれた。
まあ、説明なんかなくとも、エリスの顔を見た瞬間、キーカのきつく閉ざしていた口元が緩んだのを見れば、この二人の間柄がよく分かる。
エリスは羽織っていたジャケットを脱ぐと、キーカの冷えきっていた肩に掛けてやる。キーカの表情はうかがい知る事は出来なかったが、エリスの表情はよく分かった。
なんと言うか……うん。まあ、好きじゃん?
明らかに好意を持った表情と熱の篭った視線。「え?え?」と二人を何度も見返し、グィードに視線で訴えかけた。
「……貴女が言いたいことは分かりますが、彼女は妃候補。彼もそれを分かった上で、彼女を支える役目を請け負っているんです」
それ以上は聞くな。と言う圧を感じて、口を閉じた。
「グィード様。キーカは私が連れて帰ります」
「ええ。それはいいんですが、彼女は何故、この様な場所へ?」
「それは……」
改めて理由を問うが、キーカ同様言葉を詰まらせる。
「……エリスさん……」
うなじが粟立つほどの落ち着いた声に、真っ黒なオーラを纏いながらの満面の笑み……当事者じゃなくとも逃げ出したくなる。
「私も暇では無いんですよ?二度も同じ事を言わせるおつもりですか?」
魔王に匹敵する程の威圧感。人間が放っていいものじゃない。
エリスは怯えるキーカを背後に庇い、諦めたようにゆっくりと口を開いた。
「……キーカの父、バルテン侯爵は名の知れた生物学者なんですが……」
「えぇ、存じております。彼の文献は素晴らしいものばかりですからね」
尊敬するような言い方をするグィードに対し、ロゼはキョトンとしたまま固まってる。
(私は存じ上げておりませんが……?)
今更口を挟める雰囲気でもなし。私はそのまま置いてけぼりの状態。
「娘であるキーカは侯爵の影響をモロに受けまして、言うなれば生物オタクなんです」
「は?」
「この妃選考も、城に行けば貴重な文献や記録が見れるかもと言う、興味心と探究心だけでここにいるんです」
エリスの後ろでは、キーカが居心地悪そうに指をいじりながら顔を俯かせている。
「──で?それだけでは理由になってませんが?」
グィードは更に追い詰める。その姿はネズミを追い詰めた蛇の様で、見ているこちらは不憫に思えてきた。
「先に言った通り、キーカは生物オタクなんです。どうしても内に秘めた興味や関心には抗えません。しかし、昼間は人の目があり自由に動けない。ならば早朝に……そう考えた様です」
なんでも、珍しいキノコが生えているらしく、その胞子を採取しに来たところを、グィードに捕獲されたらしい。
「ならば、なぜ裸足なんです?」
「……足音がするから……」
靴を履くと足音で他の者に気付かれるからと、微かに聞き取れる声でキーカが答えた。
「すみません!私がしっかり見張っておきますから、今回ばかりは見逃してくれませんか!?」
青い顔をしながら必死に頭を下げるエリス。
「まったく……今回だけですよ」
「ありがとうございます!」
まあ、実害は出てないし、今後気をつけるならとグィードらしからぬ寛大な対応に、エリスの表情がパッと明るくなった。
「理由はどうあれ、靴はしっかり履きなさい。仮にも妃候補なんですから」
注意すべき点は注意する。本当に抜かりがない。
──とは言え、とりあえず一件落着。空はすっかり明るくなり、小鳥が頭の上を元気よく飛び回っている。
(ねむ……)
急な安心感から眠気が襲ってくる。
「おっと」
ふらつく私をグィードが受け止めてくれた。
「お疲れ様でした。あまり役には立ちませんでしたが、結果的には貴女のおかげで彼女を見つけれました」
褒められている気がまったくしない。この男は素直に褒める事が出来ないのか?
ジトとした目を向けていると「なんです?」なんて聞いてきた。
「何でもありません」
不満気なロゼにグィードも眉間に皺が寄る。まさに言い合いが勃発しそうな雰囲気に
「あの、待ってください……!」
振り絞ったようなキーカの声がその雰囲気を払拭した。
謁見の場で見た時は、大人しい印象ではあったものの、こんな幽霊の様な風貌ではなかった。
「えっと……どう言う状況?」
未だに理解が出来ず、堪らず問いかけた。
「我々がここに来たのは、この方を探す為です。怪しい行動をしている者がいると耳にしましたので」
「あ、怪しい行動なんて、私してません……」
か細い声で反論してくるが、説得力がまるでない。十人に聞いて十人が「怪しい」と声を揃えて言うところ。
「それでは、貴女はこんな朝方に一体何をしていたんです?」
「そ、それは……」
モジモジとするばかりで、煮え切らない態度にグィードの笑顔が曇りだしてきた。
これはマズイ!と間に入ろうとしたが、それよりも先に飛び込んできた者がいた。
「キーカ!」
「エリス」
息を切らしながらやって来たのは、キーカの指南役である執事のエリス・ノヴカ。
殿下付きの執事であるエリスとキーカは幼なじみ。人見知りが激しく、内気なキーカを心配したエリスは自らキーカの指南役を志願した。
……と、ご丁寧に横でグィードが耳打ちするように解説してくれた。
まあ、説明なんかなくとも、エリスの顔を見た瞬間、キーカのきつく閉ざしていた口元が緩んだのを見れば、この二人の間柄がよく分かる。
エリスは羽織っていたジャケットを脱ぐと、キーカの冷えきっていた肩に掛けてやる。キーカの表情はうかがい知る事は出来なかったが、エリスの表情はよく分かった。
なんと言うか……うん。まあ、好きじゃん?
明らかに好意を持った表情と熱の篭った視線。「え?え?」と二人を何度も見返し、グィードに視線で訴えかけた。
「……貴女が言いたいことは分かりますが、彼女は妃候補。彼もそれを分かった上で、彼女を支える役目を請け負っているんです」
それ以上は聞くな。と言う圧を感じて、口を閉じた。
「グィード様。キーカは私が連れて帰ります」
「ええ。それはいいんですが、彼女は何故、この様な場所へ?」
「それは……」
改めて理由を問うが、キーカ同様言葉を詰まらせる。
「……エリスさん……」
うなじが粟立つほどの落ち着いた声に、真っ黒なオーラを纏いながらの満面の笑み……当事者じゃなくとも逃げ出したくなる。
「私も暇では無いんですよ?二度も同じ事を言わせるおつもりですか?」
魔王に匹敵する程の威圧感。人間が放っていいものじゃない。
エリスは怯えるキーカを背後に庇い、諦めたようにゆっくりと口を開いた。
「……キーカの父、バルテン侯爵は名の知れた生物学者なんですが……」
「えぇ、存じております。彼の文献は素晴らしいものばかりですからね」
尊敬するような言い方をするグィードに対し、ロゼはキョトンとしたまま固まってる。
(私は存じ上げておりませんが……?)
今更口を挟める雰囲気でもなし。私はそのまま置いてけぼりの状態。
「娘であるキーカは侯爵の影響をモロに受けまして、言うなれば生物オタクなんです」
「は?」
「この妃選考も、城に行けば貴重な文献や記録が見れるかもと言う、興味心と探究心だけでここにいるんです」
エリスの後ろでは、キーカが居心地悪そうに指をいじりながら顔を俯かせている。
「──で?それだけでは理由になってませんが?」
グィードは更に追い詰める。その姿はネズミを追い詰めた蛇の様で、見ているこちらは不憫に思えてきた。
「先に言った通り、キーカは生物オタクなんです。どうしても内に秘めた興味や関心には抗えません。しかし、昼間は人の目があり自由に動けない。ならば早朝に……そう考えた様です」
なんでも、珍しいキノコが生えているらしく、その胞子を採取しに来たところを、グィードに捕獲されたらしい。
「ならば、なぜ裸足なんです?」
「……足音がするから……」
靴を履くと足音で他の者に気付かれるからと、微かに聞き取れる声でキーカが答えた。
「すみません!私がしっかり見張っておきますから、今回ばかりは見逃してくれませんか!?」
青い顔をしながら必死に頭を下げるエリス。
「まったく……今回だけですよ」
「ありがとうございます!」
まあ、実害は出てないし、今後気をつけるならとグィードらしからぬ寛大な対応に、エリスの表情がパッと明るくなった。
「理由はどうあれ、靴はしっかり履きなさい。仮にも妃候補なんですから」
注意すべき点は注意する。本当に抜かりがない。
──とは言え、とりあえず一件落着。空はすっかり明るくなり、小鳥が頭の上を元気よく飛び回っている。
(ねむ……)
急な安心感から眠気が襲ってくる。
「おっと」
ふらつく私をグィードが受け止めてくれた。
「お疲れ様でした。あまり役には立ちませんでしたが、結果的には貴女のおかげで彼女を見つけれました」
褒められている気がまったくしない。この男は素直に褒める事が出来ないのか?
ジトとした目を向けていると「なんです?」なんて聞いてきた。
「何でもありません」
不満気なロゼにグィードも眉間に皺が寄る。まさに言い合いが勃発しそうな雰囲気に
「あの、待ってください……!」
振り絞ったようなキーカの声がその雰囲気を払拭した。
12
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話
miniko
恋愛
王太子であるセドリックは、他人の心の声が聞けると言う魔道具を手に入れる。
彼は、大好きな婚約者が、王太子妃教育の結果、無表情になってしまった事を寂しく思っていた。
婚約者の本音を聞く為に、魔道具を使ったセドリックだが・・・
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
最高魔導師の重すぎる愛の結末
甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。
いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。
呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。
このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。
銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。
ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。
でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする……
その感は残念ならが当たることになる。
何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる