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偽りの姿と本来の姿
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「はぁ~……」
疲れたようにベンチに腰かけ、髪を掻きあげるグィードの元に、一人の影が忍び寄ってきた。
「お疲れ様」
「……」
睨みつけた視線の先には、真黒な装束に身を包んだエリスが立っていた。
「いや~、危なかった。危うくあんたの貞操が奪われるところだったぜ?」
「貴方ねぇ……」
ヘラッと笑いながら軽口を言うエリスに、もはや言い返す言葉も思い浮かばないのか、黙ってしまった。
キーカの傍にいる時の彼とは口調も雰囲気も全く違う。これが彼の本来の姿。
殿下の執事と周知させているが、その正体は殿下の影。
キーカ嬢はおっとりとしていて、内気な性格だ。彼女といる時は、彼女を怖がらせない為に気弱な男をわざわざ演じている。
その事に対してあれこれ言うこつもりはないが、彼女が本当の事を知ってしまった時、彼はどうするつもりなのだろうか……
「貴方が最初から来ていればこんな事にはなってないんですよ!?」
「仕方ないだろう?俺も忙しいんだよ」
マルティーナに唇を奪われそうになった時、ガシャン!と大きな音が屋敷に響き渡り、屋敷中の灯りが消えた。
「なんだ!?」
驚くマルティーナの耳に悲鳴や怒号が聞こえてくる。マルティーナは「チッ」と軽口舌を打つと、広間の方へ急いだ。
何がなにやらと、呆然としながら窓の方に視線を向けると、笑顔で手を振るエリスの姿が目に入った事で、この事態の裏を把握した。
「顔を見た瞬間に殺意が湧いたのは貴方が初めてです」
「えぇ?邪魔しちゃった?キス一つでその気になっちゃうんだ?」
「……」
「あはは!冗談だよ!」
射殺しそうなほどの視線を向けるが、エリスは怯える所か、面白おかしく笑っている。
猫を被っている彼はウジウジとして鬱陶しいが、これはこれで鬱陶しい……
「まあ、冗談はさて置き、悪さをしようと企む奴が居るっての本当らしいね」
その癖、仕事は出来るので腹が立つ。
「やはりデアボロ商会が?」
「いや、ここが絡んでいるのかはまだ判らない。なにせ、証拠も形跡も残さないで有名だからね。尻尾を掴むのは至難の業だよ」
「では、何を根拠に?」
「キーカが見つけたんだよ」
ピクッと眉にシワが寄った。
キーカ嬢が見つけたと言うことは、何かが城に持ち込まれたという事。
「まあ、まずは聞いてよ」
……早合点するなと言うことか?
「森にはさ数十、数百の植物や生物がいる。それは分かるだろ?その中には猛毒を持ったものも少なくない」
急に生物学的な事を話始めた。十中八九キーカの受け売りなんだろうが、黙って耳を傾けた。
「ヤグの木。と言う木を知ってるか?」
「ヤグの木?」
「そう。ヤグの木の樹液には中毒症状を引き起こす物質が含まれてんだ。それは、茎に向かえば向かうほどその濃度は濃くなる」
凄く嫌な予感が過ぎり「まさか」と声に出ていた。
「ご名答。そのヤグの木の根元を掘り起こした跡があった」
要は、誰かが意図的に毒物を採取したと言うこと。妃を選ぶこのタイミングでだ。
「……見間違え。という筋は?」
「ないね。自慢じゃないけど、キーカはほぼ毎日森に入ってるんだぜ?俺が見逃す小さな変化だって、彼女なら気付くさ」
妙に納得出来る言葉に、これ以上の追及は不要だと判断した。
「キーカの話だと、致死量に値するような中毒症状ではないけど、稀に失明や麻痺が残るって言ってたな」
「……それは、生き地獄ですね」
「まあな。嫌がらせにしちゃぁ、やり過ぎだろ?」
エリスの話を聞き、グィードは首を傾げた。
「いくら森とはいえ、城の管轄内。不審な人物がいればすぐに連絡があるんですが……貴方の所のお姫様の様にね」
「そうなんだよ。俺も引っかかってんだ」
嫌味のつもりで言ったのに、華麗にスルーされた。
「考えられるのは二つ目。一つ目は、城内部に共犯者がいる」
確かに、それが一番濃厚な説かもしれない。だが、エリスを欺けるほどの者が内部にいるだろうか……
「二つ目。俺はこれが一番濃厚だと思ってる」
「それは?」
「妃候補の中に紛れてる」
「は?」
紛れる?意味がわからないとエリスを見る。
「俺はキーカと子供の頃から一緒だから当然、名前と顔は一致できる。だけど、あんたらはどうだ?昨日今日知った令嬢の名前と顔を一致出来るか?」
「……」
「先に言っておくが、これは俺の単なる考察だからな」と前置きした上で続けた。
「最初から仕組まれていたら?」
「なんですって?」
顔が険しくなる。
「妃候補という立場を利用し、妃としてではなく自分の役目を全うする為だけにここへ来たとしたら?」
エリスの考えも一理あるとは言えるが、その話の流れだと……
「お、分かったか?」
「分かるもなにも、それしか考えられないでしょう?」
「流石、宰相殿だ」
馬鹿にされてる感が否めない。
「狙われているのは妃ではなく、殿下ということになるな」
だから『悪さを企む奴』と表現したのか。
疲れたようにベンチに腰かけ、髪を掻きあげるグィードの元に、一人の影が忍び寄ってきた。
「お疲れ様」
「……」
睨みつけた視線の先には、真黒な装束に身を包んだエリスが立っていた。
「いや~、危なかった。危うくあんたの貞操が奪われるところだったぜ?」
「貴方ねぇ……」
ヘラッと笑いながら軽口を言うエリスに、もはや言い返す言葉も思い浮かばないのか、黙ってしまった。
キーカの傍にいる時の彼とは口調も雰囲気も全く違う。これが彼の本来の姿。
殿下の執事と周知させているが、その正体は殿下の影。
キーカ嬢はおっとりとしていて、内気な性格だ。彼女といる時は、彼女を怖がらせない為に気弱な男をわざわざ演じている。
その事に対してあれこれ言うこつもりはないが、彼女が本当の事を知ってしまった時、彼はどうするつもりなのだろうか……
「貴方が最初から来ていればこんな事にはなってないんですよ!?」
「仕方ないだろう?俺も忙しいんだよ」
マルティーナに唇を奪われそうになった時、ガシャン!と大きな音が屋敷に響き渡り、屋敷中の灯りが消えた。
「なんだ!?」
驚くマルティーナの耳に悲鳴や怒号が聞こえてくる。マルティーナは「チッ」と軽口舌を打つと、広間の方へ急いだ。
何がなにやらと、呆然としながら窓の方に視線を向けると、笑顔で手を振るエリスの姿が目に入った事で、この事態の裏を把握した。
「顔を見た瞬間に殺意が湧いたのは貴方が初めてです」
「えぇ?邪魔しちゃった?キス一つでその気になっちゃうんだ?」
「……」
「あはは!冗談だよ!」
射殺しそうなほどの視線を向けるが、エリスは怯える所か、面白おかしく笑っている。
猫を被っている彼はウジウジとして鬱陶しいが、これはこれで鬱陶しい……
「まあ、冗談はさて置き、悪さをしようと企む奴が居るっての本当らしいね」
その癖、仕事は出来るので腹が立つ。
「やはりデアボロ商会が?」
「いや、ここが絡んでいるのかはまだ判らない。なにせ、証拠も形跡も残さないで有名だからね。尻尾を掴むのは至難の業だよ」
「では、何を根拠に?」
「キーカが見つけたんだよ」
ピクッと眉にシワが寄った。
キーカ嬢が見つけたと言うことは、何かが城に持ち込まれたという事。
「まあ、まずは聞いてよ」
……早合点するなと言うことか?
「森にはさ数十、数百の植物や生物がいる。それは分かるだろ?その中には猛毒を持ったものも少なくない」
急に生物学的な事を話始めた。十中八九キーカの受け売りなんだろうが、黙って耳を傾けた。
「ヤグの木。と言う木を知ってるか?」
「ヤグの木?」
「そう。ヤグの木の樹液には中毒症状を引き起こす物質が含まれてんだ。それは、茎に向かえば向かうほどその濃度は濃くなる」
凄く嫌な予感が過ぎり「まさか」と声に出ていた。
「ご名答。そのヤグの木の根元を掘り起こした跡があった」
要は、誰かが意図的に毒物を採取したと言うこと。妃を選ぶこのタイミングでだ。
「……見間違え。という筋は?」
「ないね。自慢じゃないけど、キーカはほぼ毎日森に入ってるんだぜ?俺が見逃す小さな変化だって、彼女なら気付くさ」
妙に納得出来る言葉に、これ以上の追及は不要だと判断した。
「キーカの話だと、致死量に値するような中毒症状ではないけど、稀に失明や麻痺が残るって言ってたな」
「……それは、生き地獄ですね」
「まあな。嫌がらせにしちゃぁ、やり過ぎだろ?」
エリスの話を聞き、グィードは首を傾げた。
「いくら森とはいえ、城の管轄内。不審な人物がいればすぐに連絡があるんですが……貴方の所のお姫様の様にね」
「そうなんだよ。俺も引っかかってんだ」
嫌味のつもりで言ったのに、華麗にスルーされた。
「考えられるのは二つ目。一つ目は、城内部に共犯者がいる」
確かに、それが一番濃厚な説かもしれない。だが、エリスを欺けるほどの者が内部にいるだろうか……
「二つ目。俺はこれが一番濃厚だと思ってる」
「それは?」
「妃候補の中に紛れてる」
「は?」
紛れる?意味がわからないとエリスを見る。
「俺はキーカと子供の頃から一緒だから当然、名前と顔は一致できる。だけど、あんたらはどうだ?昨日今日知った令嬢の名前と顔を一致出来るか?」
「……」
「先に言っておくが、これは俺の単なる考察だからな」と前置きした上で続けた。
「最初から仕組まれていたら?」
「なんですって?」
顔が険しくなる。
「妃候補という立場を利用し、妃としてではなく自分の役目を全うする為だけにここへ来たとしたら?」
エリスの考えも一理あるとは言えるが、その話の流れだと……
「お、分かったか?」
「分かるもなにも、それしか考えられないでしょう?」
「流石、宰相殿だ」
馬鹿にされてる感が否めない。
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