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喧嘩上等
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毒物事件から二日。
カルラはあの後すぐに意識が回復したが、殺されかけたという事実は恐怖となり、体に刻まれていた。
その為、カルラと顔を合わせる事が出来るのはライとカルラが信頼している侍女の二人だけ。仕方の無いことだと、誰も文句を言うものはいない。
あの時、給仕していた侍女だが、今も牢に拘束されている。「知らない」「関係ない」と何度も口にしているが、出されたお茶を調べた所、ヤグの木から取れるという毒物が検出された。
そうなると、侍女の話に矛盾が生じてくる。
まあ、ここからは騎士団の仕事。私が安直にあれこれ考えるものじゃない。
(それよりも……)
もっと重大な問題が私にはある。それは……そう。グィードの事。
あの日からグィードとは、禄に話を交わしていない。妃候補と指南役という間柄である以上、顔を合わさないと言うのは必然的に無理。
それを知ってか知らずかグィードのヤツ、事務的な話しかしてこない。
これでもちょっとは反省して、世間話でもして仲を取り持とうと思ったのに「無駄口を吐くな」と一喝された。
今日も『課題』と称して数冊の教本を置いて行くと、足早に部屋を出て行った。流石にここまであからさまにされたら、堪忍袋の緒も限界。捻れに捻れて引きちぎれそう。
「……ふっ」
出てきたのは、引き攣ったような笑み。
「もういいわ。何が気に入らないのか知らないけど、そっちがその気なら勝手にすればいい。こっちも勝手にしてやる」
目の前に置かれた教本を睨みつけると、手にすることも無くそのまま置いて部屋を出た。
大きな足音を立てて城の廊下を歩くロゼを目にした使用人たちは足を止めて怪訝な表情を浮かべるが、声をかける者はいない。
どこに向かっているのかは自分でも分からない。なんでもいいから妃教育というものから逃げ出したかった。
(ムカつくムカつくムカつく…!)
思い浮かぶのはグィードの事ばかり。
気に入らない事があるならはっきり言えばいいじゃない!人の心を抉るのは得意な癖に、自分の事は黙りなんて卑怯者でしかないじゃない!
考えれば考えるだけ、鬱憤が溜まっていく。完全に気が逸れていて、前の障害物に気付けなかった。
──ドンッと、柔らかいものにぶつかったかと思えば「おっと。危ない」と頭上から声がかかった。
見上げると、金髪碧眼の見るからに王子様と目が合った。
「大丈夫か?」
「た、たた大変申し訳ありません!」
慌てて身を離し、勢いよく頭を下げた。
「あぁ、気にする事はない。君は……ロゼ嬢かな?」
「え、あ、はい!ロゼ・シェルべです」
「そんなに緊張しなくていい。もしかしたら君の夫となるかもしれないだろう?」
緊張するなと言うが、王族を目にした凡人には無理なこと。それに、この人はグィードと違ったオーラを持っていて、何となく近寄り難い。
(ここは、失態を犯す前に去るのが最善策)
「では、私はこれで……本当に申し訳ありませんでした。助かりました」
口早に礼を伝え、足早に去ろうと踵を返した所で「待ちなさい」と肩を掴まれた。
「丁度いい。お茶にしようとしていたんだ。一緒にどうだい?」
「……ヨロコンデ」
***
カチャカチャとカップが並べられる音が聞こえる。
目の前にはやんごとない御仁が、上品にお茶の入ったカップに口をつけている。こうなると、何故自分がここに座っているのか不思議でしょうがない。
「どうした?食べないのか?」
視線で指したのは、見た事も食べた事もないほど美しくて美味しそうなケーキ。殿下の前で大口を開けたとなれば、グィードのお小言は免れない……
──て、もうあの人は関係ないんだった。私は自分のやりたいようにするって決めたんだ。
ロゼは置かれていたフォークを手に取り、勢いよくケーキに突き刺した。
「ん!」
もう口に入れた瞬間に美味しい。滑らかで甘すぎないクリームに酸味の効いた果物が最高で、殿下の前だという事を忘れてフォークを動かした。
「君は子ウサギの様だな」
「ふっ」と笑う姿はどこにでもいる青年という感じだった。
「小さくて警戒心が強い。その癖、好奇心旺盛と見える。……これではグィードも大変そうだ」
「へ?」
ぽそっと言われたので聞き取れず、聞き返したが「いや、なんでもない」と返されてしまった。どことなく楽しげな雰囲気の殿下に、いつの間にか先ほどまでの緊張感はなくなっていた。
「こうして、君とお茶を交わすのは初めてだな」
他の妃候補達とは既に交流があるような言い方に少しモヤッとしたが、クララ辺りは無駄に行動力があるので、自ら押しかけたのが目に浮かぶ。
「ところで、君は今グィードと喧嘩中なのか?」
思いもよらない言葉に、口に入れたケーキが飛び出すところだった。
カルラはあの後すぐに意識が回復したが、殺されかけたという事実は恐怖となり、体に刻まれていた。
その為、カルラと顔を合わせる事が出来るのはライとカルラが信頼している侍女の二人だけ。仕方の無いことだと、誰も文句を言うものはいない。
あの時、給仕していた侍女だが、今も牢に拘束されている。「知らない」「関係ない」と何度も口にしているが、出されたお茶を調べた所、ヤグの木から取れるという毒物が検出された。
そうなると、侍女の話に矛盾が生じてくる。
まあ、ここからは騎士団の仕事。私が安直にあれこれ考えるものじゃない。
(それよりも……)
もっと重大な問題が私にはある。それは……そう。グィードの事。
あの日からグィードとは、禄に話を交わしていない。妃候補と指南役という間柄である以上、顔を合わさないと言うのは必然的に無理。
それを知ってか知らずかグィードのヤツ、事務的な話しかしてこない。
これでもちょっとは反省して、世間話でもして仲を取り持とうと思ったのに「無駄口を吐くな」と一喝された。
今日も『課題』と称して数冊の教本を置いて行くと、足早に部屋を出て行った。流石にここまであからさまにされたら、堪忍袋の緒も限界。捻れに捻れて引きちぎれそう。
「……ふっ」
出てきたのは、引き攣ったような笑み。
「もういいわ。何が気に入らないのか知らないけど、そっちがその気なら勝手にすればいい。こっちも勝手にしてやる」
目の前に置かれた教本を睨みつけると、手にすることも無くそのまま置いて部屋を出た。
大きな足音を立てて城の廊下を歩くロゼを目にした使用人たちは足を止めて怪訝な表情を浮かべるが、声をかける者はいない。
どこに向かっているのかは自分でも分からない。なんでもいいから妃教育というものから逃げ出したかった。
(ムカつくムカつくムカつく…!)
思い浮かぶのはグィードの事ばかり。
気に入らない事があるならはっきり言えばいいじゃない!人の心を抉るのは得意な癖に、自分の事は黙りなんて卑怯者でしかないじゃない!
考えれば考えるだけ、鬱憤が溜まっていく。完全に気が逸れていて、前の障害物に気付けなかった。
──ドンッと、柔らかいものにぶつかったかと思えば「おっと。危ない」と頭上から声がかかった。
見上げると、金髪碧眼の見るからに王子様と目が合った。
「大丈夫か?」
「た、たた大変申し訳ありません!」
慌てて身を離し、勢いよく頭を下げた。
「あぁ、気にする事はない。君は……ロゼ嬢かな?」
「え、あ、はい!ロゼ・シェルべです」
「そんなに緊張しなくていい。もしかしたら君の夫となるかもしれないだろう?」
緊張するなと言うが、王族を目にした凡人には無理なこと。それに、この人はグィードと違ったオーラを持っていて、何となく近寄り難い。
(ここは、失態を犯す前に去るのが最善策)
「では、私はこれで……本当に申し訳ありませんでした。助かりました」
口早に礼を伝え、足早に去ろうと踵を返した所で「待ちなさい」と肩を掴まれた。
「丁度いい。お茶にしようとしていたんだ。一緒にどうだい?」
「……ヨロコンデ」
***
カチャカチャとカップが並べられる音が聞こえる。
目の前にはやんごとない御仁が、上品にお茶の入ったカップに口をつけている。こうなると、何故自分がここに座っているのか不思議でしょうがない。
「どうした?食べないのか?」
視線で指したのは、見た事も食べた事もないほど美しくて美味しそうなケーキ。殿下の前で大口を開けたとなれば、グィードのお小言は免れない……
──て、もうあの人は関係ないんだった。私は自分のやりたいようにするって決めたんだ。
ロゼは置かれていたフォークを手に取り、勢いよくケーキに突き刺した。
「ん!」
もう口に入れた瞬間に美味しい。滑らかで甘すぎないクリームに酸味の効いた果物が最高で、殿下の前だという事を忘れてフォークを動かした。
「君は子ウサギの様だな」
「ふっ」と笑う姿はどこにでもいる青年という感じだった。
「小さくて警戒心が強い。その癖、好奇心旺盛と見える。……これではグィードも大変そうだ」
「へ?」
ぽそっと言われたので聞き取れず、聞き返したが「いや、なんでもない」と返されてしまった。どことなく楽しげな雰囲気の殿下に、いつの間にか先ほどまでの緊張感はなくなっていた。
「こうして、君とお茶を交わすのは初めてだな」
他の妃候補達とは既に交流があるような言い方に少しモヤッとしたが、クララ辺りは無駄に行動力があるので、自ら押しかけたのが目に浮かぶ。
「ところで、君は今グィードと喧嘩中なのか?」
思いもよらない言葉に、口に入れたケーキが飛び出すところだった。
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