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プロローグ
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その日、人間界では聖女を喚ぶ為に、魔界では魔王の右腕にするべく最強クラスの魔族を喚ぶ為に、奇しくも同時に召喚の義が執り行われていた。
その結果、人間界での召喚は失敗。魔法陣には何も起こらなかった。
一方、魔界では……
「成功だ!!!」
「………………………は?」
魔法陣の中心に放心状態で座り込む女性を見て、そこにいた全員が思った。
(いや、失敗じゃね……?)
◈◈◈◈
「おい、人間。茶」
「はい。って人間じゃなくて『咲』って名前がちゃんとあるんですから、名前で呼んでくださいよ」
「は?人間で返事してんだから人間でいいだろ?」
咲と名乗る侍女は、件で召喚された純日本人である。
あの召喚は成功したが失敗だったのだ。
大体察しは付いていると思うが、咲は本来なら人間界へ聖女として召喚されるはずだった。
それが、何をどうしたのか魔界へと召喚されてしまったのだ。
すぐに間違いだと気がついた魔術師が元の世界に追い返そうとしたが上手くいかず、それならば人間界へ捨ててこようと結論づけたが、それを咲がごねた。
「ちょっと待って下さい!!聖女って人を助けて崇められる存在でしょ!?私はそんな生きる菩薩様みたいな事は出来ない!!そもそも、そんな事私に出来ると思う!?」
咲は周りにいた魔族達に同意を求めるために答えを振った。
「いや……う~ん、まあ、やる前から決めつけるのは……なあ?」
「それに、人間ってのはチヤホヤされんのが好きなんだろ?聖女になりゃ嫌でもチヤホヤされるぞ?もしかしたら、王子と結婚って事になって玉の輿にものれるかもしれんぞ?」
魔族に説得されるも咲は首を縦に振らなかった。
「王子と結婚!?それこそ冗談じゃない!!容姿は人並み、教養は皆無に等しいし、頼れる親族もいない!!すぐに飽きられてポイ捨てされるに決まってる!!そんな所に私を置き去りにするの!?」
「酷すぎる!!」と地面に突っ伏してオイオイ泣いて見せると、流石に不憫だと思ったのか同情する声が上がってきた。
「……まあ、確かに、あそこの王子はいい噂聞かないよな?」
「この間も権力かざして平民の女に手出したらしいぞ?」
ヒソヒソ話している声に耳を傾けているととんでもない言葉の数々が聞こえた。
「そんなクソ野郎の所行きたくない!!!!!」
咲は地面に這いつくばってでもこの場を離れるのを拒んだ。
その様子を見た魔族達は頭を抱え、どうするべきか悩んでいるとバリトンボイスのいい声が聞こえた。
「何事だ?」
咲が声のした方を見ると、バリトンボイスに相応しい面持ちをした男が立っていた。
「ま、魔王様!!!」
一人が叫ぶと、一斉に膝を折り頭を下げた。
「これは一体なんの騒ぎだ?」
魔王が怪訝そうな顔をしながら咲を見下ろしながら言うと、役職持ちであろう魔族がサッと魔王の傍に寄り経緯を説明しているようだった。
「なるほど……経緯は分かった。――で?お前はどうしたい?」
全てを聞き終えた魔王が、咲へと問いかけた。
確かに魔王というだけあって威圧感が半端ないが、ここで負けたら捨てられる。そして行き着く場所は聖女だと思っている咲はグッと拳を握りしめ顔を上げた。
間近で見る魔王は見たことないほど整った顔をしていて、絶世の美男子に間違いなかった。
イケメンの免疫を持っていない咲にとっては顔面凶器だったが、そこは家なき子になりたくないが為に頑張った。
「こ、ここに置いてくれちゃったり……しませんかね……?」
「あ゛?」
威圧感と一緒に睨まれ思わずヒュッと息を飲んだ。
イケメンの睨みは凡人の数百倍威力があるという事を今、身をもって知った瞬間だった。
「いや、あの、置いてくれるなら物置部屋でも屋根裏でも馬小屋でも雨風さえしのげれればいいんで……えっと……その……お願いします!!捨てないでください!!」
最終的には土下座で頼み込んだ。
「ま、魔王様?俺らが面倒みるんでこいつ置いてやってくれませんか?」
「間違えたのはこっちだし、こいつ見てたらなんつーか哀れに思えてきちゃって……」
「みんな……!!」
数分前に会ったばかりなのに自分を庇ってくれる魔族たちに咲は目頭を熱くした。
魔王も必死に懇願してくる部下達の声を聞き、深い溜息を吐いた。
「全く……魔族とあろう者が人間に感化されやがって……お前達、飼ったのなら最後まで責任は持つんだろうな!?」
「「は、はい!!」」
「なら、俺からいう事は何もない」
そう吐き捨て、部屋を出て行った。
残された咲と魔族たちは互いに抱きしめ抱き着き、喜びを全身に感じた。
「良かったな!!これから宜しくな!!」
「何かあったらすぐに言えよ?」
「ここは血の気の多い奴ばかりだからな、しばらくはきついと思うが慣れれば楽しいとこだから」
見た目は強面の魔族達だが内面は気のいい人達らしく、皆が咲を笑顔で受け入れてくれた。
「皆さん……!!本当にあ゛びがどうございまず~!!」
「おいおい、お前女だろ?鼻水垂らして泣くのはやめろよ」
「あはははは!!」と部屋中に笑いの渦が湧き起こった。
こうして、宮古咲18歳。無事に魔界に移住が決まりました。
その結果、人間界での召喚は失敗。魔法陣には何も起こらなかった。
一方、魔界では……
「成功だ!!!」
「………………………は?」
魔法陣の中心に放心状態で座り込む女性を見て、そこにいた全員が思った。
(いや、失敗じゃね……?)
◈◈◈◈
「おい、人間。茶」
「はい。って人間じゃなくて『咲』って名前がちゃんとあるんですから、名前で呼んでくださいよ」
「は?人間で返事してんだから人間でいいだろ?」
咲と名乗る侍女は、件で召喚された純日本人である。
あの召喚は成功したが失敗だったのだ。
大体察しは付いていると思うが、咲は本来なら人間界へ聖女として召喚されるはずだった。
それが、何をどうしたのか魔界へと召喚されてしまったのだ。
すぐに間違いだと気がついた魔術師が元の世界に追い返そうとしたが上手くいかず、それならば人間界へ捨ててこようと結論づけたが、それを咲がごねた。
「ちょっと待って下さい!!聖女って人を助けて崇められる存在でしょ!?私はそんな生きる菩薩様みたいな事は出来ない!!そもそも、そんな事私に出来ると思う!?」
咲は周りにいた魔族達に同意を求めるために答えを振った。
「いや……う~ん、まあ、やる前から決めつけるのは……なあ?」
「それに、人間ってのはチヤホヤされんのが好きなんだろ?聖女になりゃ嫌でもチヤホヤされるぞ?もしかしたら、王子と結婚って事になって玉の輿にものれるかもしれんぞ?」
魔族に説得されるも咲は首を縦に振らなかった。
「王子と結婚!?それこそ冗談じゃない!!容姿は人並み、教養は皆無に等しいし、頼れる親族もいない!!すぐに飽きられてポイ捨てされるに決まってる!!そんな所に私を置き去りにするの!?」
「酷すぎる!!」と地面に突っ伏してオイオイ泣いて見せると、流石に不憫だと思ったのか同情する声が上がってきた。
「……まあ、確かに、あそこの王子はいい噂聞かないよな?」
「この間も権力かざして平民の女に手出したらしいぞ?」
ヒソヒソ話している声に耳を傾けているととんでもない言葉の数々が聞こえた。
「そんなクソ野郎の所行きたくない!!!!!」
咲は地面に這いつくばってでもこの場を離れるのを拒んだ。
その様子を見た魔族達は頭を抱え、どうするべきか悩んでいるとバリトンボイスのいい声が聞こえた。
「何事だ?」
咲が声のした方を見ると、バリトンボイスに相応しい面持ちをした男が立っていた。
「ま、魔王様!!!」
一人が叫ぶと、一斉に膝を折り頭を下げた。
「これは一体なんの騒ぎだ?」
魔王が怪訝そうな顔をしながら咲を見下ろしながら言うと、役職持ちであろう魔族がサッと魔王の傍に寄り経緯を説明しているようだった。
「なるほど……経緯は分かった。――で?お前はどうしたい?」
全てを聞き終えた魔王が、咲へと問いかけた。
確かに魔王というだけあって威圧感が半端ないが、ここで負けたら捨てられる。そして行き着く場所は聖女だと思っている咲はグッと拳を握りしめ顔を上げた。
間近で見る魔王は見たことないほど整った顔をしていて、絶世の美男子に間違いなかった。
イケメンの免疫を持っていない咲にとっては顔面凶器だったが、そこは家なき子になりたくないが為に頑張った。
「こ、ここに置いてくれちゃったり……しませんかね……?」
「あ゛?」
威圧感と一緒に睨まれ思わずヒュッと息を飲んだ。
イケメンの睨みは凡人の数百倍威力があるという事を今、身をもって知った瞬間だった。
「いや、あの、置いてくれるなら物置部屋でも屋根裏でも馬小屋でも雨風さえしのげれればいいんで……えっと……その……お願いします!!捨てないでください!!」
最終的には土下座で頼み込んだ。
「ま、魔王様?俺らが面倒みるんでこいつ置いてやってくれませんか?」
「間違えたのはこっちだし、こいつ見てたらなんつーか哀れに思えてきちゃって……」
「みんな……!!」
数分前に会ったばかりなのに自分を庇ってくれる魔族たちに咲は目頭を熱くした。
魔王も必死に懇願してくる部下達の声を聞き、深い溜息を吐いた。
「全く……魔族とあろう者が人間に感化されやがって……お前達、飼ったのなら最後まで責任は持つんだろうな!?」
「「は、はい!!」」
「なら、俺からいう事は何もない」
そう吐き捨て、部屋を出て行った。
残された咲と魔族たちは互いに抱きしめ抱き着き、喜びを全身に感じた。
「良かったな!!これから宜しくな!!」
「何かあったらすぐに言えよ?」
「ここは血の気の多い奴ばかりだからな、しばらくはきついと思うが慣れれば楽しいとこだから」
見た目は強面の魔族達だが内面は気のいい人達らしく、皆が咲を笑顔で受け入れてくれた。
「皆さん……!!本当にあ゛びがどうございまず~!!」
「おいおい、お前女だろ?鼻水垂らして泣くのはやめろよ」
「あはははは!!」と部屋中に笑いの渦が湧き起こった。
こうして、宮古咲18歳。無事に魔界に移住が決まりました。
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