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第8話

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「えええええええ!!!なんで起こしてくれないのよ!!そんなおいしい状況だったなんて!!」

次の日の朝、目を覚ましたリリアンに事の一部始終を話して伝えたら、頭を抱えて本気で悔しかっていた。

……いや、悔しがっているが、顔は気持ち悪いほどニヤけてる。

「──ふふっ……あはははは!!!シナリオとはちょっと違うけど問題ないわ!!これでルカリオは私のモノよ!!」

……リリアンが壊れた。違うな……これが通常運転だったわ。

「まさか、あの嫌味な女がエリーザだったなんてね。まあ、悪役令嬢だからあの程度は普通か」

一通り話すにあたって、エリーザの事も話した。
やっぱり気づいていなかったらしい。

まあ、結果的にゲームのシナリオには近づけた。
このまま行けばルカリオルートは攻略出来るはず。……リリアンが下手な事をしなければ……

エリーザもリリアン相手だと悪役令嬢らしくなる。
これがゲームの補正力ってやつなのか……?

「ルカリオルートは夜会が終わってしばらく経った後、エリーザが夜会の時のことを根に持ってゴロツキを雇ってヒロインの私を強姦するように依頼するの。そこを再びルカリオが助けてくれて『また君か』なんて言いながらも『君は危なっかしいから』って護身用のペンダントをくれるのよ」

ウットリとしながらこの後の展開を語ってくれた。
だけど、エリーザは根に持つような子では無いし、そんな事をするとは到底思えない。

(どこまで補正がかかってるのか分からないけど……)

まあ、私には関係の無いことだし、もう会うこともないだろうと思いながらお茶を飲みきり、そろそろ実家のパン屋が気になるしお暇しようとすると、案の定リリアンが「まだいいじゃない!!」と駄々を捏ね始めた。
ようやく開放されたのが薄暗くなった夕方。

「もう一泊すればいいのに……」
「いや、流石に悪いですし、店も気になるので……」

渋るリリアンを宥め、二日ぶりの帰路へとついた。

しかし、日の暮れるのは早いもので、あっという間に暗くなってしまった。
この町は治安は悪くないけど、良くもない。
出来るだけ人のいる道を選んで歩いていたが、元々外を出歩かないニート。
すぐに道に迷い、いつの間にか路地裏に迷い込んでいた。

(こりゃまずいな)

一応年頃の娘だから、警戒するに越したことはない。
急いで小走りになりながら路地を抜けようとしたが、人生そんなに甘くなかった。

目の前には4人の小汚い男が汚い笑顔で立ちはだかっていた。

「お嬢さん道に迷ったのかい?」
「俺らが案内してやろうか?」

ぐへへっと笑う顔はまさに強姦魔。
これは確実に貞操の危機。

急いで今来た道を戻ろうと踵を返したが、あら嫌だ。後ろにも3人の男がいたわ……

(護身術習っておくんだった!!)

前世を通して男というものに縁のなかった私は護身術なんて習うだけの時間と手間と金の無駄使いだと思っていた。

まさかそれを後悔する日が来るとは思いもせず……

「さあ、お嬢さん俺達と一緒に行こうか?」
「暴れないでくれよ?お互い痛いのは嫌だろ?」

ヤル気満々だなクソが!!

初めてがこんな小汚い男共は嫌だ。
しかも初めてで数人相手にするんだぞ?冗談じゃない。

(こんな事ならさっさ済ましとけば良かった)

ジリジリと距離を詰めてくる男達にどうすることも出来ずにいると、一人の男が私の頬に触ろうとしてきた。
思わずギュッと目を閉じたが、触れられた感触がない。

ゆっくり目を開けると、私に触れようとしていた男が地面に倒れていた。

(え?なんで?)

私が無意識に倒したかな?そんな筈があるわけない。

「──また君か」

あれ?このフレーズといい、この声は……

声のする方を見ると、屋根の上に座ってこちらを見下ろす銀髪の男がいた。
仮面を付けていないがこの声といい、この妖艶な感じは間違いなく攻略対象者のルカリオ。

フワッと華麗に私の元に降りてくると、強姦魔達は一斉にルカリオに飛びかかった。
しかし、相手はウィザードマスター。ゴロツキ共が叶う相手では無い。

(瞬殺かよ)

分かってた。秒殺かな?と思ってたら瞬殺だったわ。

そんな訳で、またまたルカリオに助けてもらったわけなんですが、これはまずいんでない?
本来であれば、このポジションリリアンだよ……
今からでもリリアン呼んでくる?
いや、今更だ。

そんなことを考えていると、チャリッと私の首に何か掛けられた。
見るとそれはルカリオと同じ目の色をした綺麗な石の付いたペンダント。

「君は危なっかしいから、これを持っていた方がいい」

これ、知ってる……絶対貰っちゃダメなやつ!!

リリアンがウットリしながら語ってくれた、例のあれだ。
私は慌てて首にかかってるペンダントを外し、ルカリオに返した。

「これは受け取れません!!」
「……なんで?」

ルカリオは不機嫌そうに尋ねてきた。

これは、リリアンのモノです!!……とは言えない。

「えっと、これは私が貰うとまずいと言うか……他に適任者がいると言うか……」
「何、訳の分からないこと言ってるの?」
「とにかく!!これは私は頂けません!!」

不機嫌MAXなのが見て取れるが、ここで引き下がる訳にはいかない。

「……あのさ、僕の物を誰にあげるかは僕が決める。その僕が君にあげるって言ってるんだから、文句を言われるのは筋違いじゃない?」

ごもっともなんですが、こちらにもこちらの都合というものがあるんですよ。本気マジで……

「と、とにかく、無理なものは無理です!!助けて頂いた事は感謝します!!以上です!!じゃあ、私は急ぎますので!!」

ペコッと一応頭を下げて、猛ダッシュでその場を後にした。

この時、私はホッとしていた。だって、ルカリオの手にはしっかりネックレスが握られていたから。

だからね、そのネックレスが再び私の首に掛けられていたら?なんて思わないよね……
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