死神に拾われた元伯爵令嬢の話

甘寧

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第4話

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あの事件から数日。
信じられないほど穏やかな日々が続いてる。

薬屋も順調で、最近では私の調剤した薬が並ぶようにもなった。
初めて調剤した薬が棚に並び、その薬が売れた時は言葉では言い表せないほど感動した。
こんなに楽しくて幸せな時間があったのかと改めて実感した。

「なんや?なんか嬉しそうやね?」

クロは相変わらず表情を読み取るのが上手い。

「そう見えるならそうなんじゃない?」

そして、そんな私も相変わらずの口下手で嫌になる。

「まあ、リズんことは大抵分かっとるつもりやで?」

自慢げに笑ってる見せるクロだが、否定はしない。
表情が乏しい私の事を一番分かってくれているのは他でもないクロだから。

カランカランッ──……

入口のドアの鈴が鳴り、人が入ってくる気配がして店に出ようとした時、クロに腕を掴まれた。

「行ったらあかん」
「え?」

真剣な顔で引き留めるものだから思わず立ち止まったしまった。
すると、店の方から話し声が聞こえてきた。

「邪魔をする。ここにリズと名乗る女性はいるか?」

その声に身に覚えがあった。

──……シルビオ大佐だ。

そして、大佐が口にした名前に息をのんだ。

「もしかして……私を探してる?」

そう呟くがクロからの返答はなく、鋭い目つきで店の方を睨みつけたまま微動だにしていなかった。

店の方ではハンスさんが大佐の相手をしてくれている。

「──おやおや、大佐とあろうお方がこんな町の古びた薬屋に何用で?」
「御託はいい。リズとういう娘がいるか聞いている」
「平民の女を相手になさるほど困ってなかろう?」

大佐という身分を掲げているにも関わらず、一切屈することなく言い返しているハンスさんを見てハラハラしている。

次第に大佐は苛立ちを隠しきれずに顔が険しくなってきた。

「いい加減にしろ!!これは勅令だ。逆らえばただではすまんぞ!?」
「ほお!!この老いぼれの命が欲しければくれてやるわ!!」

売り言葉に買い言葉が飛び交う遂に中、とんでもない言葉が聞こえた。
「勅令」その言葉にヒュッと息を飲んだ。
国王陛下の命令に背いたらハンスさんの命はない。

しばらくハンスさんと言い争っていた大佐だったが、埒が明かないと思ったようで、遂に剣を抜きハンスさんの目の前に刃先を向けた。
その様子を見て、無意識に体が動いていた。

「リズ!!あかん!!」という声が聞こえた気がしたが、その言葉よりも早くハンスさんを庇うようにして前に出ていた。

「待ってください!!大佐が探しているのは私です……私がリズです」
「リズ!?なぜ出てきた!?」

姿を見たハンスさんが慌てて私を隠そうとしてきたが、もう腹はくくってる。

「探しているのは私でしょ?ならハンスさんは関係ないわ。その剣しまってくださる?」

睨みつけながら言い切ると「フッ」と鼻で笑ってから剣を収めてくれた。

改めて間近でみるシルビア大佐は色気がある整った顔立ちをしていた。だが、その顔立ちとは裏腹に瞳はとても冷たいものだった。

「俺にそんな強気で物申す女性は初めてだな」
「それは光栄ですね。誉め言葉として頂戴しておきます」
「あははははは!!本当に面白い娘だ!!」

先ほどの殺伐とした雰囲気は大佐の笑い声と共に消え去った。
それと同時に大佐の笑い声に驚いたのがハンスさんと、騒ぎを聞きつけてやって来た町の人達。

「シルビア大佐が……笑った……!?」
「お、おい、見たか!?」
「あの戦場の悪魔と呼ばれたお方が!?」
「笑った所も素敵ね……」

そんな言葉が飛び交う中「では、ご同行願おう」と手を差し出された。

──ここまで来たら引き返せない。

溜息を吐きながらその手を取ろうとした時

パシンッ!!

差し出されていた大佐の手が叩き落された。

『クロ!!』
『なんやねん。僕のいう事を聞かないリズさん?』

皆に気づかれないように小声で文句を言うが、不貞腐れているクロに反省の色はない。
叩かれた本人は何が起こったのか分からないというような顔で手を眺めていた。

「……確かに、誰かに……」

さすがの大佐でも死神であるクロの気配はつかめないようだ。
まあ、クロの気配まで分かったらそれこそ人間じゃない。

「大佐、どうかしたんですか?」
「いや……すまない。気のせいのようだ」

素知らぬ顔で声をかけると、いかにも納得できないような顔をしていたが、見えぬ相手をどうすることもできない。
後ろには不安そうに見つめるハンスさんがいたが、振り返らず真っ直ぐ見つめたまま店の外へ出た。

外に出て目の前にあったものを見て驚いた。
そこには王家専用の馬車が停まっていた。
立ち止まっている私に「さあ、どうぞ」と馬車の扉を開けて入るように促してきた。

「これはいくらなんでも乗れないわ……」

いくら元伯爵令嬢という肩書があっても王家の馬車には乗れない。
そもそも一体どうゆう理由で私を連れて行こうとしているのか分からない以上、警戒する越したことはない。

『どないしたん?嫌なら行かんでもええよ?僕がなんとかしたる』
『……大丈夫よ。それに、ここで行かなくても猶予が伸びただけで、この人はまた訪ねて来るに決まってる』

クロの過保護は相変わらずだなと思いつつ、意を決して大佐に提案した。

「大佐の馬に乗せてください」
「……は?俺の馬にか?」

これは本当に苦渋の判断で、平民の私が大佐の馬に乗る事なんて許されるはずがないが、王家の馬車に乗るよりはマシだと思ったからだ。

『リズ!?本気か!?馬に乗る気か!?』
『……本気だし正気よ』

クロはしつこいくらい『やめとき!!』と言っていたが、それが許されないのなら私は歩いて王都へ行くと断言してやった。

「……初めてだな。俺の馬に乗りたいと言った者は……いいだろう。乗せてやる。だが、文句は言うなよ?」
「ええ、女に二言はないわ」
「……──面白い」

不敵な笑みで微笑んだ大佐の手を取り、逞しい腕に包まれながら馬に乗った。

この後、すぐに後悔するとも知らずに……
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