悪役の烙印を押された令嬢は、危険な騎士に囚われて…

甘寧

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気づいたら断罪の真っ最中

「私から逃げるなど…愚かな考えはもう捨ててしまいなさい」

 震える私の視線の先には、狂気じみた笑みを浮かべながら詰め寄る騎士様の姿があった…


 ***


 街外れの小さな一軒家。そこに住んでいるのは、セレーナ・ブラッチ。の私だ。

 実は、私はセレーナであってセレーナではない。

 と言うのも、はこの世界ではない現代社会で、あくせく働く会社員だった。
 あの日、何年か一度の大雨で裏庭の山の土砂が崩れ、巻き込まれた。全身が土砂に埋まり、息が苦しくて意識がだんだん遠のき、ああ…死んだな…そう覚悟した。

「セレーナ・ブラッチ!お前との婚約を破棄する!」

 その声にハッと目を覚ませば、まったく知らない男女を前に跪いていた。

「は?」
「今更言い訳など聞くまでもない。──おい!連れて行け!」

 言い訳も何も何が何だか……

 訳が分からず茫然としていると、あれよあれよという間に脇を抱えられ、牢の中にぶち込まれた。そこからは、あっという間だった。

 まず、この世界の両親を名乗る者が現れた。

「お前と親子の縁は切る!金輪際、戻ってくるな!」

 父は青筋を浮かべ唾を飛ばしながら絶縁を宣言してきた。牢の中にいてよかったと思ったのは後にも先にもこの時ぐらい。格子の外にいたら確実に殴られていた。

 母の方は、終始涙を流しながら「何故こんなことに…」やら「育て方が…」云々の事を言っていたが、この体になったのも今さっきの事で、過去の事を言われても知らんがな。というのが正直なところ。

 両親の話から、先ほどの男女はこの国の王子と子爵令嬢だという。
 なんでも、王子の婚約者であるセレーナが、婚約者という立場を利用して子爵令嬢を虐げていたらしい。その結果が、先ほどの断罪だ。

 その話を聞き、セレーナは地面に突っ伏すように崩れ落ちた。

(薄々そうかなとは思ってたけど…)

 現代で流行っている乙女ゲームや恋愛小説に出てくる悪役令嬢に自分が重なって見えた。世間の流行りに疎い私でも悪役令嬢の末路は悲惨だということは知っている。

「一度目の人生は土砂に巻き込まれて、二度目の人生は始まって数時間で終了!?この世に神様はいないの!?あまりにも酷いじゃない!私が何したって言うのよ!」

 恨みをぶつける様に格子を殴りつけていると、人の気配に気が付いて手を止めた。

「ご機嫌いかが?」

 ほくそ笑みながら語り掛けくるのは、子爵令嬢の…確か名前はアイリーン・グランデ。

「貴女のおかげで無事、シナオリ通り事が進んだわ」

 その表情は勝ち誇ったように笑っていて、感謝しているような態度ではない。

「最近の悪役令嬢って、ヒロインの立場を奪っていくんですもの。本当、ひやひやしたわ」

 どうやら私が懸念していた通り、ここは乙女ゲームの世界らしく、目の前にいるのがヒロインのアイリーン。そのアイリーンも現代の記憶を持っている事が分かった。律儀にエンディングを迎えれた喜びと礼を言いに来たらしい。

「本当、貴女には感謝してるわ。散々、痛めつけてくれてありがとう。…けどね、私ってやられたらやり返さないと気が済まないの」

 入口の方を見れば、すぐに数人の男が入ってきた。何を企んでいるのかなんて、言わなくても分かる。

「どうせ、女の悦びを知らずに逝くんですもの。最期ぐらいは愉しんだ方がいいでしょ?」

 悦に浸るように微笑む姿は、ヒロインなんて可愛らしいものじゃない。

「ちょっと、やめて!触らないで!」

 いつの間にか牢の鍵は開けられ、男達に羽交い締めにされた。必死に抵抗するが、抵抗すればするだけ服が破け、肌が露になっていく。

「あらあら、嫌だと言うわりには積極的だこと」
「ッ!」

 嘲笑うアイリーンを睨みつければ「まあ、怖い」なんて揶揄ってくる。

(もう、最悪…ッ!)

 こんな思いするなら、一思いに殺ってくれた方が断然いい!これじゃ、どっちが悪役か分からないじゃない!

 目に涙を浮かべながら、自分の不運な人生を呪った。

「何をしているんです?」

 静かで落ち着いた声。助かった…そう思えるはずなのに、ゾッとうなじが粟立つ感覚がする。

 現れたのは、目を見張るほど美しい騎士。その姿を見たアイリーンは明らかに狼狽え始め、襲いかかってた男達は顔面蒼白で震えている。

「ど、どうしてラウル様がここに?」
「おかしな質問ですね。私は騎士ですよ?罪人の見回りは当然の事。……それよりも、これは?」

 ギロッと視線を向けたのは、服をボロボロにされ必死に肌を隠そうとするセレーナの姿。
 その射殺すような視線に「ひっ!」と男達が悲鳴をあげるのも分かる。

「これは、貴女の指示ですか?」
「ち、違うわ!私はセレーナ様の悲鳴が聞こえたので、駆けつけたの!そうしたら、そこの男達が…!」

 めそめそと泣き真似をしながらラウルの胸に寄りかかる。ここまで爽快に嘘を吐かれるともはや、怒りも湧いてこない。

「おい!それはないぜ!」
「俺らは、この女を好きにしていいって言われて来たんだ!」
「そうだそうだ!」

 まあ、当然男達は黙っていない。

「私は次期王妃よ!口を慎みなさい!」

 ここで、身分を笠に着せるなんてね…随分と傲慢で幼稚なヒロインだこと。

 呆れるように溜息を吐くと、パサッと頭にジャケットを掛けられた。

「羽織っていなさい」
「あ、はい…」

 態度は冷たいが、いい人かも…なんて思ったのも束の間。

「うぎゃ!」

 蛙を潰したような声と頬を伝う生暖かい感覚…そっと拭って見てみると、手のひらは真っ赤に染まっていた。

「な、何してるの!?」
「暴漢は大罪。この場で始末します」

 言うが早いか、素早く一人一人に剣を向けていく。アイリーンは血の海に染まった床を見て卒倒。
 私は残念ながら気を失うことが出来ず、トラウマ級の一部始終をこの目に焼き付けてしまった…
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