悪役の烙印を押された令嬢は、危険な騎士に囚われて…

甘寧

文字の大きさ
4 / 17

農作業は体力勝負

 燦燦と降り注ぐ太陽が真上に来た頃、セレーナは裏庭へとやって来た。

 この軟禁状態がいつまで続くか分からない。暇を持て余すぐらいなら、小さな菜園でも作ろうと考えた。野菜を作れば食卓も潤うし、なにより健康に良い。

 敷地内である裏庭への出入りは自由なので、庭をいじっていいか確認したら、少しばかり怪訝な顔をされたが承諾を得れた。道具と種はラウルにお願いして、昨晩ようやく体勢が整った。

「実家が農家だった私にとって、農作業なんて朝飯前よ!」

 ──と意気込んで数分後

「はぁ…はぁ…な、なんて体力のない…」

 少し土を掘り返しただけで、息切れと腰の痛み。膝が震えて腕が上がらない。

 いくらお嬢様だからって言っても、些か体力と持久力が無さすぎる。
 今日中に種まきまで終わらせたい所だが、これではいつまで経っても種が撒けない。

「あぁ~!もう、や~めた!」

 鍬を放り投げ、地面に大の字で寝転がった。一度挫けたらやる気が失せてしまう。私の駄目な所。

 そんな時、足音が聞こえた。

「あ」

 音のした方へ顔を向けると、痛ましげにこちらを見つめるラウルがいた。

「…ついに気でも触れましたか?」
「違いますよ。ちょっと力尽きていただけです」

「よいしょ」と立ち上がろうとしたものの、膝が震えて思うように立てない。

「まったく、見ていられませんね」

 呆れた口調で言いながら、ちゃんと歩けないセレーナを抱き抱え、家の中へ。

「あ、あの!?」
「黙ってなさい」

 ベッドの上に下ろされると、おもむろに膝に手を当てた。じんわり暖かくなったかと思えば、先程までの痛みが嘘のように消えている。

「これでまともに歩けるようになったはずです」
「わぁぁ…!」

 膝を屈伸させても痛みがない!

「ありがとうございます!こんな凄い魔法使えるなんて、流石は団長!」

 感動のあまり、目を輝かかせながらラウルの手を取り詰め寄った。

 セレーナの思いもしない行動に、ラウルは驚き仰け反ってしまった。しかし、褒められて嬉しくない人はいない。心なしか頬が薄づいているような気がした。

「あの、不躾ついででなんですが…腰の方も…」
「は?」

 上目遣いで縋るように「お願いします」と頼み込めば、大きな溜息を吐きつつうつ伏せに寝るように促された。

「…少し触りますよ」
「!?」

 服の隙間から手が入り、ラウルの手が腰に触れた。ビクッと身体が跳ねると同時にラウルの唇が耳元へ寄って来る。

「どうしました?やめてもいいんですよ?」

 悪戯めいた笑みを浮かべながら、意地の悪い言い方をしてくる。こちらとしたら羞恥心よりも明日、己の身に襲い掛かってくるであろう全身の痛みの方が何よりも恐ろしい。

「大丈夫です。お願いします」
「そうですか」

 覚悟はしていても、人に素肌を触られて平気な人はいない。「早く終われ!」と願いながら顔を枕に埋めていたが、そっと腰を撫でられ「ん…」と声が漏れてしまった。

(ヤバッ!)

「治療中に何を考えているんですか?」なんて言われると思っていたが、ラルフは全く気付いていない様子で、セレーナはホッとしながら身体を預けていた。

 心地よい時間が流れ、セレーナはうつらうつらと気持ちよくなってきた。瞼が重くなり、ゆっくりと瞼が閉じられていく…

「んにゃッ!?」

 突然、腰を掴まれ変な声を上げながら飛び上がった。

「な、なななななッ!何するんですか!?」
「治療ですが?」
「揉みましたよね!?」
「誤解を招くような事を言わないでください。痛みは取り除きましたが、強張った筋肉はそのままですのでほぐしておかないと同じことの繰り返しになります」

 言っていることは間違っていないと思う。だけど、理解した所で「はいそうですか」とはなり得ない。

「痛みさえ取って頂ければ十分です!これ以上、団長様のお手を煩わせる訳にはいきませんので!」
「一度請け負おったことは最後までやり遂げるのが、騎士としての役目だと思ってます」

 そんな役目は求めていない!

「さあ、続けますよ」
「いや、ちょ、待っ…ん!」

 抵抗を試みたが、騎士を相手に軟弱な私が敵うはずもなく、呆気なく抑え込まれた。しかも、的確にツボを押してくるのでこの上なく気持ちがいい。

「く…こんな…ん、もう…駄目ぇ」
「ッ!」

 頬を薄く染め、涙を浮かべた蕩けたような顔を向けられ、ラウルは息を飲み手を止めた。

 息を荒くしながら寝転がるセレーナの頬に触れると、無意識なのか自分の頬を擦り付けてくる。

 ゾクッと感じた事のない悦。

 緩む口元を手で覆い、黙ったままセレーナを見つめていた。

 その表情は…酒に酔ったように恍惚としていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。