悪役の烙印を押された令嬢は、危険な騎士に囚われて…

甘寧

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推しはこの人

 ルーファスに連れられてやって来たのは、立派な城の一室。

「時間がないから、細かな要望は聞いてられんけど」

 パチンッと指を鳴らすと、夜着だったのが煌びやかなドレスに早変わり。首には肩が凝りそうな程、ゴージャスなネックレス。髪も化粧も夜会仕様でばっちり。

 令嬢の準備となれば、何時間もかける所を一瞬で終えるなんて、こんなの便利でしかない。

 セレーナは、感激しながら鏡で自分の姿をくまなく眺めていた。

「喜んでるとこ悪いけど今日の夜会な、例の二人も来とるんよねぇ」
「ん?」
「君を追いやった二人よ。正式に婚約したから言うて、挨拶に来とる」

 セレーナは苦虫を噛み潰したような顔で応対。ルーファスは笑っているが、こちらはまったく笑えない。

 だって、軟禁されているはずの私が隣国の夜会に出てるなんて、外交問題になりかねない。それよりも、こんなことがラウルあの人に知られたら…

「やばいやばいやばい…」

 これほどまでにないぐらい顔を青くして頭を抱えた。

「なぁ、ほんまにあの子虐めたん?」
「え?」
「君が弱い者虐めなんて想像がつかん。冤罪で嵌められたってんなら、僕が一言言ったるよ?」

 この人は言い方と態度は悪いけど、本当は優しい人なんだと思う。そんな人に嘘は付けない。

「有難い言葉だけど、ごめんなさい。多分、虐めてたってのは本当なの」
「へぇ?そうなん?…せやけど、その言い方は自分がやったのか不明確だと言っているようやよ?」
「……」

 流石に鋭い。

 どうする?実は転生者ですって言う?この人なら信じてくれる気はする。けど、もし、信じてもらえなかったら?完全に頭のおかしい子厨二病……

「その辺にしなさい。セレーナ様が困っているじゃありませんか」

 合間に入って来たのは、城に着いてから姿が見えなかったリオル。この人が来てくれてホッと安堵した。

「うちの師団長がすみません。こちらを取に行っていたら遅くなってしまいました」

 リオルに手渡されたのは、顔を覆えるほどのベール。

「これなら顔を知られる事はありません。折角の夜会です。楽しまなければ勿体ないですよ」
「リオルさん……」

 ジーンと優しさが身に染みる。隣で見ていたルーファスは面白くなさそうに眉間に皺を寄せていたが、リオルに急かされて、会場へと急いだ。


 ***


 会場は大層な賑わいで、キラキラと全体が光っているように見える。そんな、会場の奥にレオナルドとアイリーンの姿が見えた。

 仲睦まじく腕を組みながら会話を楽しんでいる。慎ましく愛らしい本来のヒロインの姿がそこにあった。

(とても牢で見た時と同一人物だとは思えない)

 ルーファスにエスコートされながら会場へと足を踏み入れた。

 なにせエスコートしている人物が目立つので、足を踏み入れた瞬間、突き刺さるような視線がセレーナを襲ってきた。

「いやぁ、注目の的やね」
「……帰りたい……」

 以前のセレーナなら、注目されたらされただけ酔い浸っていたかもしれないが、今のセレーナは注目されるのに慣れていない。

 注目されればされただけ、キリキリと胃に負担がかかる。

「ルーファス師団長?」

 聞き馴染んだ声が耳に聞こえた。

「これはこれは、レオナルド殿下。ご婚約なさったそうで?」
「あぁ、お相手のアイリーンだ。宜しく頼む」

 ルーファスはセレーナを気にかけたのか、少しばかり背に庇いながら会話を進めた。

「アイリーンと申します。ルーファス様にはずっと…ずっと、お会いしたいと思っておりました」
「へぇ?僕に?それは嬉しいなぁ」

 社交辞令で返すルーファスだが、アイリーンの方はそう思っていない。頬を染め、愛おしそうに見つめる瞳は完全に恋する女。

(ガチで会いたいと思ってたんだって!気づけ!)

 ヒロインアイリーンがあの表情という事は、ルーファスはゲームの登場人物。即ち、ヒロインに恋に落ちる=セレーナの敵という事。

 更に面倒な事に、アイリーンの推しがルーファスこの人だ…きっと、多分、絶対に…

「師団長殿、そちらの女性は?」

 レオナルドが目敏くセレーナの存在に気が付いた。レオナルドの言葉にアイリーンの目が鋭く光る。

「彼女は…」

 頼むから下手な事は言わないで!とベールの下から熱い視線を送ったが…

「僕の大切な人、やね」
「はぁ!?」

 真っ先に声を上げたのは、アイリーンの方。

「おかしいじゃない!何故、ルーファス様に女がいるのよ!あんた誰よ!」

 ヒロインの仮面が完全に剥がれているが、自分の推しの事。黙ってはいられなかったのだろう。ベールを剥がそうと、手が伸びて来た。

 パンッ

 ベールに手が届く前に、激しく叩き落とされた。

「あきまへんなぁ。夜会の場で暴行とは…それもここは君らの国やない。こちらの国を敵に回す気ですか?そんなら、受けて立ちましょう?」

 笑みを浮かべているが、眼がまったく笑っていない。ルーファスから漂う殺気に似た威圧感に会場はシーンと静まり返り、みんなが息を飲んでいた。

「も、申し訳ない!」

 沈黙を破ったのは、レオナルドの謝罪の言葉。

「アイリーンには私から言って聞かせる!この場は私に免じて許して頂けないだろうか!」

 レオナルドはアイリーンの頭を掴み、無理矢理頭を下げさせている。アイリーンの「ちょっと!」なんて声が聞こえるが、構わず頭を掴んでいる。

「そうは言うてもな…」

 ルーファスがチラッとこちらに目配せしてきた。これは「どうする?」と聞いているのだろう。

 この二人を庇ってやるような恩はなく、恨みしかないが他国を巻き飲むのは筋違い。

 セレーナはルーファスの裾をキュッと掴み、ゆっくりと頷くと、それに応えるように頭に手が置かれた。

「まあ、この場は飲んで歌えの夜会やからな。無礼講つうこんで、目を瞑りましょ」
「恩に着る!」

 その一言を残してレオナルドはアイリーンを引っ張り、会場を出て行った。アイリーンの方は、納得できず何やら騒いでいたが、次第に声が遠のいて行った。

「いやぁ、中々強烈なお嬢さんやったねぇ」

 何事も無かったように会場も元の賑わいが戻り、ルーファスが声をかけてきた。

「どうした?」
「……もう、駄目……」

 気を張りすぎて、色々と限界だったセレーナはその場で倒れてしまった。
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